妊娠中の喫煙は妊娠高血圧症候群のリスクを高める~欧米と相反する結果が、全国出生コホートコンソーシアムからの初成果で明らかに~

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2022-08-09 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区、理事長:五十嵐 隆)の社会医学研究部 森崎 菜穂 部長、東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門 栗山進一教授らのグループは、全国出生コホートコンソーシアム [Japan Birth Cohort Consortium (JBiCC)](環境と子どもの健康に関する北海道スタディ:北海道大学岸玲子特別招へい教授ら、東北メディカル・メガバンク計画三世代コホート調査:東北大学栗山進一教授ら、浜松母と子の出生コホート研究:浜松医科大学土屋賢治特任教授ら、BOSHI研究:東北医科薬科大学目時弘仁教授ら、C-MACHコホート:千葉大学森千里教授ら、成育母子コホート:国立成育医療研究センター堀川玲子診療部長ら)を2022年2月に立ち上げ、国内の出生コホートに参加した28,219名の妊婦の情報を用いて、妊娠中期以降も喫煙を続けると、非喫煙者と比べて妊娠高血圧症候群のリスクが約1.2倍高くなる可能性を示しました。
欧米を中心とした研究では、喫煙は妊娠高血圧症候群のリスクを下げることが繰り返し報告されており、なぜ日本人では喫煙の影響が異なるのか、遺伝的背景の違いなども含めて、今後メカニズム解明が期待されます。
本研究成果は、8月6日に国際的な学術誌「Journal of Epidemiology」に掲載されました。

妊娠中の喫煙は妊娠高血圧症候群のリスクを高める~欧米と相反する結果が、全国出生コホートコンソーシアムからの初成果で明らかに~

背景

・欧米で見られた、妊娠中の喫煙と妊娠高血圧症候群リスクの奇妙な関係
妊娠中の喫煙は、死産、早産、低出生体重児の出生など、数多くのリスクをもたらすことが広く知られています。一方で、妊娠中に血圧が上がって、胎児の発育が悪くなったり胎盤が子宮の壁からはがれやすくなったりするなど、母児共に大変危険な状態となることがある「妊娠高血圧症候群」の発症については、妊娠中に喫煙しているほどリスクが下がる、という結果が「喫煙と妊娠中の高血圧との不可解な関係(The puzzling association between smoking and hypertension during pregnancy)」(Zhangら)として欧米では繰り返し報告されていました。
しかし最近、喫煙によりどれくらい高血圧になりやすいかは、遺伝的背景などの体質により異なる可能性、さらに日本人などのアジア人では喫煙により高血圧になりやすい遺伝的背景を持つ人が多い可能性が報告されました。このため、妊娠高血圧症候群についても、欧米では喫煙がリスクを下げる効果があっても、日本人ではその効果が異なる可能性が危惧されていました。
・生涯にわたる健康づくりの基礎となる幼少期の環境づくりに科学的根拠を
先制医療の提唱とともに「ライフステージに応じた健康課題の克服」が政府の定める「医療分野研究開発推進計画」に明記され、国や地方自治体の重要施策として取り上げられるようになっています。このため、生涯にわたる健康づくりの基礎となる幼少期にも注目が集まっています。
幼少期の適切な環境を探るためには、こどもたちやその家庭を長期的に追跡する、コホート研究が最適です。また、民族集団や国により遺伝的背景や文化的背景が異なるため、日本での施策に生かすには日本人において調べられた結果が最も重要となります。このため、日本でも海外同様に、妊娠期からこどもや家庭を追跡する「出生コホート」研究が数多く実施されてきており、これらの知見は幼少期の環境改善の提案に役に立ってきました。
しかし、出生コホートの多くは規模が数百人から数万人のものが多く、成人分野で行われているコホートと比べると小規模です。出生コホート研究同士が連携し、その知見を統合することにより、さらに明確な科学的根拠が得られると考えられていました。このため、最近ではこれらの研究に携わっている関係者の人材交流や知見交流を促進する様々な取り組みが行われていました。

発表論文情報

タイトル:Association between smoking and hypertension in pregnancy among Japanese women: a meta-analysis of birth cohort studies in the Japan Birth Cohort Consortium (JBiCC) and JECS
著者:Morisaki N, Obara T, Piedvache A, Kobayashi S, Miyashita C, Nishimura T, Ishikuro M, Sata F, Horikawa R, Mori C, Metoki H, Tsuchiya KJ, Kuriyama S, Kishi R.
掲載誌:Journal of Epidemiology
DOI:https://doi.org/10.2188/jea.JE20220076

医療・健康
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