睡眠に関わるたんぱく質リン酸化酵素の働きを解明 ~入眠の促進と目覚めの抑制を異なる状態で制御~

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2022-10-05 科学技術振興機構,東京大学,理化学研究所

ポイント
  • たんぱく質リン酸化酵素のCaMKIIβには睡眠を促進する働きがあることを明らかにしてきましたが、その睡眠制御の詳しい機構は不明でした。
  • CaMKIIβは、自身のリン酸化修飾の状態に応じて、入眠の促進と、目覚めの抑制という異なるステップにおいて睡眠を制御していることがマウスにおける研究で明らかとなりました。
  • 睡眠の誘導(入眠の促進)と睡眠の維持(目覚めの抑制)という異なる制御可能点を明らかにしたことで、それぞれをターゲットとする新しい睡眠コントロール戦略につながることが期待されます。

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野の上田 泰己 教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 合成生物学研究チーム チームリーダー兼任)、戸根 大輔 助教、大出 晃士 講師、張 千恵 氏(博士課程4年(研究当時))らは、神経細胞で働く主要なたんぱく質リン酸化酵素CaMKIIβが、睡眠時間を延長する仕組みとして、入眠の促進と目覚めの抑制という異なるステップの両方で作用することを明らかにしました。

研究グループは、CaMKIIβが睡眠時間の延長に働くことを発見していましたが、その詳しい仕組みは不明でした。CaMKIIβには複数のリン酸化部位があり、自身のリン酸化状態によって機能が変化することがよく知られています。そこで、本研究グループは、リン酸化され得る部位1ヵ所ずつに疑似的にリン酸化状態を模した変異を導入したCaMKIIβ変異体シリーズを作製し、マウスを用いて、CaMKIIβのリン酸化状態と睡眠制御の関係を網羅的に調べました。その結果、CaMKIIβが特定のリン酸化状態では、覚醒状態から睡眠状態への移行を促進する(睡眠を誘導する)ことが分かりました。さらに、このリン酸化状態にあるCaMKIIβに、追加で2ヵ所目あるいは3ヵ所目と、疑似リン酸化変異を導入したところ、睡眠状態から覚醒状態への移行を抑制する(睡眠を維持する)という働きを持つことが明らかになりました。

今回の研究で、CaMKIIβがリン酸化状態に応じて、睡眠時間を延長する複数のステップ(睡眠の誘導と維持)にそれぞれ働くことが分かりました。多くの既存の睡眠薬は基本的には睡眠の誘導のステップに作用するものです。今回、睡眠の誘導と維持を行う機構の一端を明らかにしたことで、これまで難しかった睡眠の維持のステップに作用する方法の開発の手掛かりとなるかもしれません。

本研究成果は、2022年10月4日(米国東部夏時間)にオンライン科学誌「PLOS Biology」に掲載されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

研究領域
「上田生体時間プロジェクト」
(研究総括:上田 泰己(東京大学 大学院医学系研究科 教授/理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー))

研究期間
2020年10月~2026年3月

JSTはこのプロジェクトで、睡眠・覚醒リズムをモデル系として「ヒトの理解に資するシステム生物学」を展開し、ヒトの睡眠覚醒において分子から社会に生きるヒト個体までを通貫する「生体時間」情報の理解を目指します。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Distinct phosphorylation states of mammalian CaMKIIβ control the induction and maintenance of sleep.”
(哺乳類CaMKIIβの異なるリン酸化状態が睡眠の誘導と維持を制御する)
DOI:10.1371/journal.pbio.3001813
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
上田 泰己(ウエダ ヒロキ)
東京大学 大学院医学系研究科機能生物学専攻 システムズ薬理学分野 教授

<JST事業に関すること>
今林 文枝(イマバヤシ フミエ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部ICT/ライフイノベーショングループ

<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
東京大学医学部・医学系研究科 総務チーム
理化学研究所 広報室 報道担当

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