脳のなかのシナプスを作る新しい仕組みを発見

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2022-10-21 国立精神・神経医療研究センター

シナプスが作られる仕組みを追求する

ヒトの脳では、数百億個の神経細胞がお互いに連絡することで精密な神経ネットワークを作り、脳のさまざまな機能を発揮しています。神経細胞同士が連絡する接点はシナプスと呼ばれ、いわば神経ネットワークの要(かなめ)です。脳のなかのシナプスは発達期に作られ、シナプスが正しく作られないことが、自閉スペクトラム症などの神経発達障害の病態につながります。これらのことから、シナプスが作られる仕組みを詳しく理解することは、神経発達障害の治療法開発のためにもとても重要です。このような背景にあって、タンパク質リン酸化酵素の一種であるMAPキナーゼはシナプス形成において中心的な役割を担っており、これまで活発に研究されてきました。しかしながら、この役割のなかでMAPキナーゼのはたらきがどのように調節されているのかなど、詳しい仕組みの理解には至っていませんでした。

粒子ヴォールトの図解

図1:ヴォールトは2つの同じカップ状構造が結合した中空の粒子である。カップ状構造はMVPと呼ばれるタンパク質分子が集まってペダル様構造、花びら様構造などを経て作られると推定されている。この構造にヴォールトRNAなどが集合し、リボソームの8倍の体積を持つ巨大な粒子ヴォールトができる

非コードRNAによってシナプスが作られる仕組み

私たち研究グループは、シナプス形成に関わるタンパク質 リン酵素について調べ、オーロラAキナーゼを見つけました。神経細胞では、オーロラAは普段はヴォールトと呼ばれる、いくつかのタンパク質分子と非コードRNA(タンパク質の情報をコードしないRNA) の一種であるヴォールトRNAが集まってできた粒子と結合しています(図1)。今回の研究で私たちは、オーロラAの作用でヴォールトを離れたヴォールトRNA が、シナプスを作る細胞内反応、特にMAPキナーゼのはたらきを活発にすることにより、シナプス数を増加させていることを突き止めました。この発見は、非コードRNAを介するまったく新しいシナプス形成の仕組みを示しました (図2)。今後は、この仕組みを強化する薬剤や方法論を明らかにするなど、さらに詳しい研究を進めることで、新しい作用機序に基づく神経発達障害の治療法開発に貢献したいと考えています。

ヴォールトRNAがシナプスを活発にする図解

図2:オーロラAによるMVPのリン酸化によりヴォールトを離れたヴォールトRNAは、シナプスを作る細胞内反応、特にMAPキナーゼのはたらきを活発にすることにより、シナプス数を増加させる。この発見は、非コードRNAを介するまったく新しいシナプス形成の仕組みを示した


リファレンス

1. Wakatsuki S, Takahashi Y, Shibata M, Adachi N, Numakawa T,Kunugi H, Araki T. Small non-coding vault RNA modulates synapse formation by amplifying MAPK signaling. J Cell Biol. (2021) 220, e201911078.
2. Wakatsuki S., Ohno M., and Araki T.: Human vault RNA1-1, but not vault RNA2-1, modulates synaptogenesis. Commun. Integr. Biol. (2021) 14:61-65.

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