2022-12-27 東京大学
生後数か月頃の赤ちゃんが何をするでもなく、もぞもぞと手足を動かしている様子を見たことはあるでしょうか?
このような動きは外部の刺激によらずに赤ちゃん自身が行っていることから「自発運動」と呼ばれています。この時期の赤ちゃんは周囲の環境や世界についてあまり理解できていないだけでなく、自分の身体を自由にコントロールすることもできませんが、自発運動にはヒトの発達に関する重要な要素が潜んでいると古くから考えられてきました。その一方で、自発運動によって赤ちゃんの身体になにが起きているのか、どのような意味を持っているのかは具体的にはわかっていませんでした。
今回、情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の金沢星慶特任助教、國吉康夫教授らの研究グループは、赤ちゃんの動きの観察から筋肉の活動や感覚を推定し、それらの間で生じている情報の流れを詳細に解析することで、発達初期の自発運動が持つ意味を探った結果、一見無意味のような自発運動の背景に複数の筋肉の感覚や運動のモジュールが生まれていることや、モジュール間の情報の流れが時々刻々と移り変わる「感覚運動ワンダリング」が存在することを発見しました。
研究グループは赤ちゃんが「感覚運動ワンダリング」を通してより全身的に協調した動きへ、あるいは、反射的な動きから予測的な動きへと発達していることを解明すると共に、このような発達に伴う変化が経験頻度だけでなく、好奇心や探索といった行動に基づいている可能性も示しました。
ヒトがほとんど意識することなく複雑な運動を自由に行うことができる背景には感覚や運動に関する機能的モジュールが必要と考えられていますが、赤ちゃんは私たちが考えているよりも早くから身体を動かすことでその準備をしているのかもしれません。
この研究成果は、2022年12月26日午後3時(米国東部標準時)に米国科学アカデミーが発行する「Proceedings of the National Academy of Sciences」のオンライン版に掲載されました。
(研究概要図)
左側:外部的な刺激を与えていない状態で動いている赤ちゃんにモーションキャプチャを行い(左上)、計測した運動データを乳児の筋骨格モデルに当てはめることで全身の筋肉の筋活動度と固有感覚を推定し(左下)、筋活動度および固有感覚間に生じている各時点の情報伝達の有無を計算し(中央上)、計22個のモジュール間の情報伝達密度に再計算しました(中央下)。
右側:モジュール間の情報伝達密度が一定の水準を超えたものだけ描画した図で、グレイの線は四肢をまたぐモジュール間の情報伝達(例:右手-右足間)、カラーの線は各四肢内のモジュール間の情報伝達となっています。
この画像の動画版は12月27日午前5時から國吉・中嶋研究室のYouTubeチャンネルで公開しています。