スズメの子育て労働を巡る夫婦間での駆け引きの解明 ~つがい外父性と種内托卵は鳥類の複雑な繁殖戦略を読み解く鍵~

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2023-02-14 北海道大学,森林総合研究所,認定NPO法人バードリサーチ

ポイント

  • 集団で繁殖するスズメの巣にはオスとメス双方の親と血縁関係にないヒナが含まれることを発見。
  • 親は巣の中に含まれる非血縁のヒナが増えると子育て労働を減少させることを解明。
  • 血縁関係にないヒナの存在が親の子育て労働を減少させる初めての実証例。

概要

北海道大学大学院理学研究院の髙木昌興教授、同大学院理学院修士課程(当時)の坂本春菜氏、同学院博士後期課程(当時)の青木大輔氏(現 森林総合研究所)、同学院博士後期課程(当時)の植村慎吾氏(現 認定NPO法人バードリサーチ)は、一夫一妻で繁殖すると考えられているスズメが、つがいの巣内に「つがい外のオスとの交尾に由来するヒナ(つがい外父性)」や、「つがい外のメスの托卵によって産み込まれた卵に由来するヒナ(種内托卵)」の双方を含むことを発見しました。さらにつがいのオスは巣内に自らと血縁関係にないヒナが多くなると、子育ての労力を減少させることを明らかにしました。
鳥類の多くは一夫一妻のつがいで繁殖します。ヒナを育て上げるための餌運びの労働コストは非常に大きいため、オスとメスのつがいで繁殖することが有利となるからです。しかしつがいの巣には、つがい外父性や種内托卵によるヒナを含むことがあります。オスはできるだけ多くのヒナを残し、メスは生産性の高い子を残すための繁殖戦略です。自らと血縁関係にはないヒナのために餌を運ぶことは、自身の生存率を下げたり、その後の繁殖に悪影響を与えたりします。そのため一夫一妻のつがい関係とはいえ、オスとメスはヒナの血縁関係と労働の配分という複雑な駆け引きをしながら繁殖しています。
このような背景から自らの巣内に血縁関係のないヒナが存在すると、巣の持ち主である親はヒナへの子育て投資を減少させると推察されてきました。しかしこれを実証するのに適した材料がなく実証は困難な状況にありましたが、北大に生息するスズメを材料にすることでその実証に成功しました。
なお、本研究成果は、2023年1月26日(木曜日)公開の鳥類学国際誌「Ornithological Science」にオンライン掲載されました。

スズメの子育て労働を巡る夫婦間での駆け引きの解明 ~つがい外父性と種内托卵は鳥類の複雑な繁殖戦略を読み解く鍵~
日本では人に密接して生活するスズメ、鳥類の繁殖戦略の研究を推進するのに最も良いモデル種。

背景

鳥類の多くは一夫一妻のつがいで繁殖します。ヒナを育て上げるための餌運びの労働コストは非常に大きいため、オスとメス2個体のつがいで繁殖することが有利となるからです。しかし社会的には一夫一妻でも、つがいの巣内に「つがい外のオスとの交尾に由来するヒナ(つがい外父性)」や、「つがい外のメスの托卵によって産み込まれた卵に由来するヒナ(種内托卵)」を含むことがあります。オスはできるだけ多くのヒナを残すため、メスは生産性の高い子を残すための繁殖戦略を持っています。自らと血縁関係にはないヒナのために餌を運ぶことは、自身の生存率を下げたり、その後の繁殖に悪影響を与えたりすると考えられています。つまりオスとメスは繁殖行動を介した利益相反の関係にあります。つがいのオスとメスは相手の働き度合いに応じて労働を調整できます。そのため一夫一妻のつがい関係とはいえ、オスとメスはヒナの血縁と労働の配分という複雑な駆け引きをしながら繁殖していると考えられます。
このような背景から自らの巣内に血縁関係のないヒナが存在すると、巣の持ち主である親はヒナへの子育て投資を減少させると推察されます。しかしこれを実証するには、社会的な一夫一妻の配偶関係を基本とし、その上でつがいの巣にオスとメスの双方に血縁関係がないヒナを含むことが必要になります。そのため明確な実証が困難でした。
そこで研究対象として、この条件を満たす可能性が高いスズメ(学名 Passer montanus)を選びました。私たちの生活に身近なスズメは、鳥類の繁殖戦略の研究を推進するのに最も良いモデル種の一つです。日本全国で人の生活に身近なスズメは、社会的な一夫一妻で繁殖することが知られており、つがい外父性と種内托卵の両方の確認例があります。

研究手法

北海道大学構内には、適度な距離に集まって繁殖するスズメのコロニーがあります。コロニーで繁殖する種ではつがい外父性と種内托卵の頻度が高くなる可能性があるため、北大のスズメは特に適した研究材料です。本研究では各巣でマイクロサテライト*1DNA解析により各巣で親子判定を実施し、つがい外父性と種内托卵の有無を調べました。オスとメスのヒナへの給餌状況をビデオ撮影し、それぞれの貢献度を定量化しました。その上で、オスとメスの子育て行動の貢献の程度とつがい外父性と種内托卵の有無との関係を評価しました。

研究成果

マイクロサテライトDNA解析の結果、解析したスズメの29巣のうち17巣(58.6%)にそれぞれの巣の親に血縁のないヒナが少なくとも1個体、11巣(37.9%)には巣のメスと血縁のない托卵によるヒナが含まれていました。スズメは社会的には一夫一妻で繁殖をしますが、複雑な配偶関係にあることがわかりました。社会的つがいのオス親は自らの巣内に、メス親のつがい外交尾により生まれた血縁関係にないヒナが増えると、巣への給餌頻度を減少させました。これはメス親が給餌頻度を増加させ、相対的にオス親の役割分担が減少した結果の可能性があります。
また、種内托卵によるヒナの増加は、オス親の給餌頻度の減少により対応した可能性があります。
一方、メス親は種内托卵による卵を排除していると考えられました。本研究によって、社会的には一夫一妻にも関わらず、つがい外父性と種内托卵を含む複雑な配偶様式を持つスズメが、どのように子育て投資を調節しているのかとういう謎の一端が解明されました。

【参考図】

図1.血縁関係のないヒナの有無と親鳥によるヒナへの一時間あたりの給餌頻度を示したグラフ

図1. 巣内における血縁関係のない雛の有無に応じた、別のメス親とオス親の給餌頻度の比較。各点は各巣を表し、点の大きさと色はヒナ数と対応している。
メスは巣内に自身とつがい外オスとのヒナがいた場合、より一層ヒナへの給餌頻度を高くすることがわかる(左上パネル、Pの数値は相関関係に関する統計値)。

今後への期待

野生生物の世界では、つがい外父性と種内托卵といった複雑な配偶関係が、よく観察されます。これは自分の子、もしくは遺伝子をより多く残すために進化してきた重要な繁殖戦略です。本研究は、社会的一夫一妻で繁殖する鳥類における親から子への投資と血縁関係にない子の存在の進化的な関係について理解を深めることに貢献します。

掲載雑誌

論文名:Genetic parent-offspring relationships predict sexual differences in contributions to parental care in the Eurasian Tree Sparrow(スズメの遺伝的親子関係から予測される育雛貢献の性差)

著者名:坂本春菜1、青木大輔1,3、植村慎吾1,4、髙木昌興2(1北海道大学大学院理学院、2北海道大学大学院理学研究院、3森林総合研究所、4認定NPO法人バードリサーチ)

雑誌名:Ornithological Science(鳥類学の専門誌)

DOI:10.2326/osj.22.45

公表日:2023年1月26日(木曜日)(オンライン公開)

用語解説

*1 マイクロサテライト… DNA上で数塩基の同じ組み合わせ単位を数多く繰り返す部位のこと。機能的制約を受けないと考えられ変異を蓄積しやすく、親子判定や異なる地域に生息する生物の遺伝的な違いの比較によく用いられる。

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 鳥獣生態研究室 青木大輔

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係

生物環境工学
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