ネズミの”ヒゲ”で明らかになる触覚の神経機構

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2020-02-03   生理学研究所

ヒトや動物が外界を感知するための主な感覚は古来「五感」と呼ばれ、視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚が含まれます。その中でも触覚情報を神経活動に変換する仕組みは、実験が困難であったため不明な点が多く残されていました。今回、大阪大学大学院歯学研究科の古田貴寛講師らを中心とする共同研究チームは、ネズミのヒゲ感覚システムを対象とすることで詳細な触覚の実験を可能とし、触覚情報を神経活動に変換する際の神経終末受容器の役割分担について明らかにすることが出来ました。

ネズミのヒゲは非常に優れた触覚センサーで、ネズミはヒゲで周囲のものに触れることにより、真っ暗闇の中でも障害物を避けたり、進路を定めたりすることができます。ヒゲの根元(毛包)には、機械的な入力を神経活動に変換する末梢神経の終末受容器が整然と配置されており、これらは形態学的特徴によってタイプ分けされています。本研究では、ヒゲの感覚を運ぶ末梢神経の一本から活動記録をしながらヒゲを押す実験を複数回行い、末梢神経一本ずつの反応特性を調べました。さらに、その記録された神経の形態を可視化する実験を行い、その反応特性と形態学的特徴との関係性を明らかにしました。

今回注目した四種類の終末受容器のうち、毛包の中ほどに位置するメルケル終末というタイプだけがヒゲを押している間持続的に活動し、他のタイプは押しはじめと離した瞬間だけ活動するということがわかりました。記録された神経ごとに、強い反応を引き起こす刺激の方向と、受容器が配置されている位置との関係を調べたところ、メルケル終末は受容器が存在する方向にヒゲが押された時に強く反応することがわかりました。この結果のシミュレーションを行ったところ、ヒゲの根元に伝わった力のうち「倒す方向」の力はメルケル終末に影響し、押し込む力はその他のタイプに影響を与えることが示唆されました。生理研では、毛包の三次元電子顕微鏡解析を行い、こうした受容器タイプ間の特性の違いをその形態と局在から裏付けすることが出来ました。

今回の研究結果は、触覚の仕組み全般を理解することに大きく貢献するだけでなく、ネズミはヒゲを動かしながら対象物に触れるということから、本成果をアクティブセンシングの分野にも発展させることが出来ると期待されます。

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図1  実験の概要(左)と毛包の三次元電子顕微鏡像(右)。

共同研究者

古田貴寛(大阪大学(現)、京都大学)

Mitra Hartmann(ノースウェスタン大学)

宮崎直幸(筑波大学(現))、村田 和義(生理研)

科研費や補助金、助成金など

科研費(JSPS)、NIHグラント 、生理研共同研究

リリース元

Title: The Cellular and Mechanical Basis for Response Characteristics of Identified Primary Afferents in the Rat Vibrissal System

Authors: Takahiro Furuta, Nicholas E. Bush, Anne En-Tzu Yang, Satomi Ebara, Naoyuki Miyazaki, Kazuyoshi Murata, Daichi Hirai, Ken-ichi Shibata, Mitra J.Z. Hartmann

Journal: Current Biology

Issue: 30, 1-12

Date: Jan 31, 2020

URL: https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(19)31701-4

DOI: https://doi.org/10.1016/j.cub.2019.12.068

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