NITE発案の獣毛繊維鑑別法が国際標準規格になりました

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2020-06-15 製品評価技術基盤機構NITE

タンパク質解析技術により、カシミヤなど高級獣毛繊維が正確に鑑別、混用率が判明することで、国際市場取引の適正化に貢献します

発表者名:

独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター

資料の概要:

 NITE(ナイト)[独立行政法人 製品評価技術基盤機構 理事長:辰巳 敬、本所:東京都渋谷区西原]が提案した「カシミヤ等獣毛繊維のペプチド法による試験方法」が、国際標準化機構(ISO)(*1)において採択・承認され、ISO規格(*2)として発行しました。

 この規格は、動物の種類によって毛に含まれるタンパク質が微妙に異なることを利用してカシミヤなどの獣毛繊維を化学分析によって正確に鑑別し、その混合比率を測定する方法です。

 今回の規格は、獣毛繊維としてこれまでのカシミヤ、ヒツジ及びヤクの3種に加え、化学的な分析方法としては初となるキャメル、アルパカ、アンゴラウサギを加えた計6種を鑑別の対象としたものです。この規格が発行されることで、科学的に認められた繊維鑑別及び混用率の算出のため試験実施可能な環境が整備され、国内外における繊維製品の取引、流通、貿易の信頼性が向上し適正な市場の維持・活性化が進むことが期待されます。

  1. カシミヤは、高級獣毛繊維として人気が高く、セーター、コートなどに使われています。一方で、獣毛の種類を特定し、その組成を正確に分析することは難しく、顕微鏡を利用したカシミヤの鑑別には高度な技術と経験が求められます。最近は、カシミヤとヤクのように見た目が非常に似ているものや、特殊な加工を施すことで毛の表面の形状が変化したものは、顕微鏡では判別が困難になりつつあります。また、過去には、判別が困難であることを悪用し、偽装事例(羊毛などで代替)も発生し問題となりました。このため、顕微鏡を利用した目視検査に加えて分析データに基づく試験方法の開発を求める声が寄せられました。
  2. 動物の毛は、その多くがケラチンというタンパク質で構成されています。このケラチンは、遺伝子の違いにより、ごく一部が異なるため、そのわずかな違いを利用して、動物を判別します。

    試験方法(図1 概要)ですが、まず、毛を細かく砕き、粉末化します。そこに、消化酵素のトリプシンを加えて、タンパク質を分解し、ペプチドという状態にします。このペプチドを高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)という機械で分析すると、動物ごとに違うペプチドが特異的なピークとして検出されます。ピークの出る位置(図2の横軸)から動物の種類、ピークの高さ(図2の縦軸)からそれぞれの毛の量が求まり、混用率を算出することができます。  

    高速液体クロマトグラフ質量分析計による検出ピークチャートの例
    図2 高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)の分析結果例
    獣毛繊維鑑別試験方法の概要図
    図1 試験方法の概要
  3. この試験方法は、これまでの目視検査と違い、動物の遺伝子に基づくため、繊維の形態に左右されず、客観的な科学的データに基づく繊維鑑別、混用率の算定が可能となります。また、他の化学的な試験方法に比べても、簡便で高精度です。カシミヤ、ヒツジ(羊毛)、ヤク、キャメル(らくだ)、アルパカ、アンゴラウサギの6種類の獣毛繊維が対象となっています。

    すでに、欧州規格(CEN)やドイツ規格(DIN)、フランス規格(NF)、イギリス規格(BS)で規格化作業が進められており、今後も世界各国の規格に採用され、普及していくことが予想されます。このISO規格に基づく試験方法が国際的に浸透することで、カシミヤやアンゴラウサギなどの獣毛繊維の鑑別精度が向上し、世界各国の貿易、流通市場における信頼性の向上、公正な取引の促進や、消費者の安心が高まることが期待されます。

    (*1)日本は本ISO規格が審議されたISOの技術委員会(Technical Committee 38:Textiles)の幹事国です。

    (*2)正式名称;ISO 20418-3:2020 Textiles — Qualitative and quantitative proteomic analysis of some animal hair fibres — Part 3: Peptide detection using LC-MS without protein reduction

    日本語訳

    ISO 20418-3:2020 繊維-いくつかの獣毛繊維の定性的及び定量的プロテオーム解析-第3 部:タンパク質還元を伴わないLC-MS の使用によるペプチド検出

報道発表資料 別紙

1.カシミヤ等獣毛繊維鑑別、混用率試験を取り巻く状況、NITE の取組

 カシミヤヤギから生産される毛製品は、通常の羊毛よりも繊維が細く、長く、その結果、暖かく、生地は艶・ぬめり感のある高級な製品となります。しかし、カシミヤ原毛の産地や生産量が限られるため、とても高価な獣毛繊維でもあります。平成20年頃、他の毛繊維をカシミヤと偽って販売したり、混紡、混用し、偽装することが後を絶たず、社会問題化しました。当時の報道によると実際のカシミヤ生産量の数倍量の取引があるとも言われていました。通常、獣毛繊維の鑑別、定量(混用率算定)を行う方法は、JIS L1030に示された繊維の形態を顕微鏡で観察する目視鑑別を行っていますが、毛繊維に様々な加工が施され、形状が変化したものは顕微鏡観察では偽装が見抜けない状況が発生していました。

 カシミヤ繊維を含め、羊毛、その他獣毛繊維は、全てケラチンというタンパク質を主成分としていて、化学成分として同一であるため、化学的に鑑別することが困難でした。近年のバイオテクノロジーの発展により、タンパク質を解析する能力が飛躍的に発展し、タンパク質を網羅的に調べ上げるプロテオーム解析という技術が活用可能となりました。

 カシミヤを含む獣毛繊維に対してプロテオーム解析を利用し、鑑別、混用率を求めることが可能となると考え、NITEで試験方法開発を行うことといたしました。

2.規格原案の策定

 NITEでは、平成20年より、試験方法開発に着手し、はじめにカシミヤ、ヒツジ(羊毛)、ヤク(カシミヤ繊維に形状が類似)の獣毛繊維について、プロテオーム解析技術を基本とした繊維鑑別、混用率試験の開発を行い、論文を発表して広く周知しましたa)。開発した試験方法については、繊維系検査機関へ技術提供し、獣毛製品の検査が実施できるようになりました。その後も、開発を継続し、アンゴラウサギ、らくだ、アルパカ等の獣毛繊維について鑑別、混用率試験の開発に成功しました、

 繊維業界や繊維系検査機関等で広くNITEが開発した試験方法の重要性が認識され、国際標準化をしてほしいとの要望が寄せられるようになったことから、平成27年より、ISO/TC38(繊維)/WG22(繊維混用率及び化学分析)に参加し、国際標準化を開始いたしました。

a) Hanako Ataku, Keiko Nishijima, Ayumi Mori, Nobuyuki Fujita, and Kazumi Sasaki: Differential Identification and Quantification of Cashmere, Sheep and Yak Fibers in Textiles Using Liquid Chromatography/Mass Spectrometry, SEN’I GAKKAISHI, Vol.71, No.3, p. 141-150, 2015.。

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