2023-04-07 宮崎大学,京都大学,国立がん研究センター,慈愛会今村総合病院,国立病院機構熊本医療センター
発表のポイント
- 難治性血液がんである成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)において、ゲノム情報と臨床情報を統合したリスクモデルの開発に成功しました。
- 標準的な多剤併用化学療法により長期予後が期待できる症例の同定が可能となり、症例ごとに治療法を適切に選択すること(治療最適化)が可能となりました。
- 本研究の成果が、治療最適化のみならず、新たな治療法開発の基盤となることが期待されます。
概要
宮崎大学医学部内科学講座血液・糖尿病・内分泌内科学分野 下田和哉教授、亀田拓郎助教らの研究グループは、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座 小川誠司教授、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所分子腫瘍学分野 片岡圭亮分野長、公益財団法人慈愛会今村総合病院 宇都宮與名誉院長兼臨床研究センター長、独立行政法人国立病院機構熊本医療センター 日高道弘副院長らと共同で、難治性血液がんのひとつである成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)のゲノム情報と臨床情報を統合した新たな予後予測モデルの開発に成功しました。本研究は、鹿児島大学、熊本大学、長崎大学、九州大学、京都大学、久留米大学、聖マリアンナ医科大学、川崎医科大学、唐津赤十字病院、HTLV-1感染者コホート共同研究班(JSPFAD)などとの共同研究です。
本研究結果は2023年2月16日(early view)にイタリア血液学会機関誌「Haematologica」に掲載されました。
本研究の概要
ATLはヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染を原因とする難治性血液がんで、日本、アフリカ、カリブ海沿岸諸国などHTLV-1の流行地域で特に多く見られます。がん化したHTLV-1感染リンパ球が増殖し、リンパ節腫大など様々な症状を引き起こします。これまでの研究によりATLの発症には50種を超える遺伝子異常が関与していることが明らかになっています。ATLの治療は、主に多剤併用化学療法、抗CCR4抗体療法、および造血幹細胞移植療法によって行われています。しかし、造血幹細胞移植療法は治療の侵襲が高く、合併症や移植関連死亡が問題となっています。また、ATLの病勢の評価には、年齢やステージなど臨床情報に基づく予後予測モデル(ATL-prognostic index, ATL-PI)(注)が広く用いられてきました。しかし、どのような症例が多剤併用化学療法のみで良好な治療効果が期待できるかの予測は難しく、ATL-PIを治療法選択に活用することが困難であったことから、治療選択に資する新たな予後予測モデルの開発が望まれていました。
研究グループは、造血幹細胞移植療法の対象となる70歳未満のATL計183例を対象に、ATLで高頻度に認められる遺伝子変異情報と臨床情報であるATL-PIのステータスを統合した機械学習による回帰分析を行い、TP53やIRF4を含む7つの遺伝子の変異情報とATL-PIを統合した新たな予後予測モデル(m7-ATLPI)の作成と検証に成功しました。これにより、従来の予後良好群(ATL-PIのLow risk群)から、そのうちの約4割に相当するさらに予後の良い一群(m7-ATLPIのLow risk群)を精密に同定することが可能となりました。m7-ATLPIでLow riskと判定される症例では、合併症や移植関連死亡が問題となる造血幹細胞移植療法を回避し、標準的な多剤併用化学療法を選択することで、長期生存が得られることが期待できます。一方、m7-ATLPIでIntermediate/High riskと判定される症例では、造血幹細胞移植療法などの代替療法が有効である可能性があります。
展望
本研究の成果は、ATL患者さんの個別化医療の推進、予後の改善、およびQOL向上につながると期待されます。また、今後、本研究の成果が治療最適化のみならず、新たな治療法開発の基盤となることが期待されます。
発表論文
雑誌名
Haematologica
タイトル
Integrated genetic and clinical prognostic factors for aggressive adult T-cell leukemia/lymphoma
著者
Takuro Kameda,Keisuke Kataoka,Ayako Kamiunten,Michihiro Hidaka,Hiroaki Miyoshi,Nobuaki Nakano,Kisato Nosaka,Makoto Yoshimitsu,Jun-ichirou Yasunaga,Yasunori Kogure,Kotaro Shide,Masaharu Miyahara,Takashi Sakamoto,Keiichi Akizuki,Tomonori Hidaka,Yoko Kubuki,Junji Koya,Noriaki Kawano,Kiyoshi Yamashita,Hiroshi Kawano,Takanori Toyama,Kouichi Maeda,Kosuke Marutsuka,Yoshitaka Imaizumi,Koji Kato,Takeshi Sugio,Masahito Tokunaga,Yukie Tashiro,Akifumi Takaori-Kondo,Yasushi Miyazaki,Koichi Akashi,Kenji Ishitsuka,Masao Matsuoka,Koichi Ohshima,Toshiki Watanabe,Akira Kitanaka,Atae Utsunomiya,Seishi Ogawa,Kazuya Shimoda
掲載日
2023年2月16日
DOI
https://doi.org/10.3324/haematol.2022.281510
研究費
本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 革新的がん医療実用化研究事業の支援を受けて行われました。
用語説明
(注) ATL-prognostic index, ATL-PI
ATL-prognostic indexは、同種造血幹細胞移植を受けなかった急性型とリンパ腫型ATL患者さんの予後を評価するために用いられる指標の一つで、年齢、ステージ、Performance status、血清アルブミン値、血清可溶性インターロイキン 2 受容体値の 5 つの臨床情報から求められます。
問い合わせ先
研究に関する問い合わせ
宮崎大学
医学部内科学講座血液・糖尿病・内分泌内科学分野
下田 和哉
広報窓口
宮崎大学
企画総務部総務広報課広報係
京都大学
総務部広報課 国際広報室
国立研究開発法人国立がん研究センター
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総務課
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