2023-04-21 国立遺伝学研究所
真核生物の生殖細胞は減数分裂によって卵子と精子を形成します。減数分裂の第一分裂期では母方と父方由来の相同な染色体同士が並んで接着します。これを「相同染色体対合」と呼び、減数分裂における遺伝子組換えおよび正確な本数の染色体を持つ卵子と精子の形成に重要な役割を果たしています。しかしながら、どのような仕組みで染色体同士の相同性が見出されているのかは、生命科学研究における謎の一つでした。また、減数分裂期において相同性が見出せなかった非対合状態のDNAを不活化する「非対合サイレンシング」と呼ばれる機構が知られていましたが、その詳しい仕組みもわかっていませんでした。
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所、東京女子医科大学、筑波大学の共同研究グループは、線虫 C. elegans をモデル生物として遺伝学および分子生物学的な研究によってこの謎の解明に挑みました。その結果、減数分裂期染色体の相同対合における相同性認識や非対合サイレンシングに「小分子 RNA システム(内在性 RNAi)」が関与していることを新たに見出しました。
本研究は、研究代表者の田原浩昭研究員の科学研究費・基盤研究(C)15K06943 の支援を受けて遂行されました。
本研究成果は、国際科学雑誌「The EMBO Journal」に2023年4月20日(日本時間)に掲載されました。
図: (A) 線虫における減数分裂期染色体の相同対合のジッパー構造モデル。ジッパー末端の留め具のように、染色体末端のペアリングセンターの相互作用によって対合が開始される。その後、Argonaute タンパク(CSR-1 や CSR-2)と小分子 RNA の複合体が相同配列を持つ長鎖非コード RNA を橋渡し的に染色体間で認識することによって、ジッパーの歯が閉じられるように、残りの染色体領域が対合すると考えている。(B) パートナーを持たない染色体の非対合サイレンシング。(C) シナプトネマ複合体の内部領域(緑)を構成する SYP-1 の分布の顕微鏡写真。csr-1 変異体では一部の SYP-1 シグナルが分岐している。
A small RNA system ensures accurate homologous pairing and unpaired silencing of meiotic chromosomes
Hiroaki Tabara*, Shohei Mitani, Megumi Mochizuki, Yuji Kohara and Kyosuke Nagata *:責任著者
The EMBO Journal 2023 April 20 DOI:10.15252/embj.2020105002