2023-04-27 長崎大学,科学技術振興機構
ポイント
- 体の成長に伴って骨が伸びたり、骨折後に骨が元に戻るために、骨の中(骨髄)に存在する骨の幹細胞が大きな役割を果たしていると以前から考えられていましたが、特に小児、成長期における骨の幹細胞の存在は明らかになっていませんでした。
- 小児期、成長期に当たる若齢マウスの大腿骨全ての骨格系細胞を集め、データサイエンスの力で幹細胞を推定し、その細胞の運命を実際に可視化、追跡することで、新たな骨の幹細胞を同定することに成功しました。
- この新たな幹細胞は骨の成長、再生に貢献する「光」の側面だけでなく、幹細胞自身ががん化して骨のがんを引き起こす「影」の側面を併せ持つクリティカルな細胞です。この発見は、将来的な再生医療やがん治療への応用など、さまざまな分野へ貢献することが期待されます。
長崎大学 医歯薬学総合研究科の松下 祐樹 准教授、米国テキサス大学 小野 法明 博士の研究グループは米国 ミシガン大学などを含む国際共同研究によって、これまで同定されていなかった、骨髄に存在する新たな骨の幹細胞を発見し、「骨内膜幹細胞(Endosteal Stem Cells)」と名づけ、この新たな幹細胞が骨の成長や再生に貢献するとともに、がんの発生の起源にもなり得ることを明らかにしました。
体の成長に伴って骨が伸びたり、骨折の後に骨が元に戻るためには、骨髄に存在する骨の成長や再生を司る幹細胞が大きな役割を果たしていると以前から考えられていましたが、その存在は正確には明らかになっていませんでした。本研究では、小児期、成長期に当たる若齢マウスの大腿骨から幹細胞を含む全ての骨格系細胞を集め、シングルセル解析などデータサイエンスの手法を用いて幹細胞を推定し、さらに細胞運命追跡という手法により、骨髄に存在する新たな骨の幹細胞(=骨内膜幹細胞)を発見し、その運命を追跡することに成功しました。
その結果、今回新たに同定された骨内膜幹細胞は骨の成長、再生に大きく貢献する非常に重要な細胞であることが分かりました。
一方で、がん抑制遺伝子p53の欠損により、骨肉腫という骨のがんを発生させる起源となることも明らかになりました。
この新たな骨の幹細胞の発見は、将来の骨再生療法への応用や、骨のがんである骨肉腫の病態解明、治療法の開発に貢献することが期待されます。
本研究成果は、英国の国際学術誌である「Nature Communications」に2023年4月25日(英国時間)に掲載されました。
本研究は科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業(JPMJFR2111)および日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(JP21H03124)などの支援のもとで行われたものです。
<論文タイトル>
- “Bone marrow endosteal stem cells dictate active osteogenesis and aggressive tumorigenesis”
- DOI:10.1038/s41467-023-38034-2
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
松下 祐樹(マツシタ ユウキ)
長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 細胞生物学分野 准教授
E-mail:yukimatsushitanagasaki-u.ac.jp小野 法明(オノ ノリアキ)
テキサス大学 歯学部 ヒューストン校 博士
E-mail:noriaki.onouth.tmc.edu -
<JST事業に関すること>
中神 雄一(ナカガミ ユウイチ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 創発的研究支援事業推進室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-5214-7276
E-mail:souhatsu-inquiryjst.go.jp -
<報道担当>
長崎大学 広報戦略本部 広報戦略課
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E-mail:kouhouml.nagasaki-u.ac.jp科学技術振興機構 広報課