消化器がんのがんゲノム医療のさらなる発展へ~リキッドバイオプシーによるゲノム解析の有用性を証明~

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2020-10-06 国立がん研究センター,日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 消化器がんにおいて、患者さんの血液を用いてがんのゲノム異常を検出する検査(リキッドバイオプシー)を治験のスクリーニングに取り入れた結果、従来の腫瘍組織検査に比べてより迅速に検査結果が返却され、より多くの患者さんが治験に登録されたことを世界で初めて示しました。
  • 治験のスクリーニング検査*1として、腫瘍組織検査とリキッドバイオプシーの有用性を大規模に比較した研究はこれまでありませんでした。
  • リキッドバイオプシーがスクリーニング検査としてより多くの治験に活用されることで、より多くの患者さんに最善の医療を提供できることが期待されます。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津敦、千葉県柏市)は、消化器がんにおいて、患者さんの血液を用いてがんのゲノム異常を検出する検査(リキッドバイオプシー)を治験のスクリーニングに取り入れた結果、従来の腫瘍組織検査に比べてより迅速に検査結果が返却され、より多くの患者さんが治験に登録されたことを世界で初めて示しました。

リキッドバイオプシーでは、がん組織を採取せずに、採血で繰り返し測定することが可能です。従来の腫瘍組織の採取は患者さんへの侵襲が大きく、治療決定の遅れにも繋がることがありましたが、今回、リキッドバイオプシーの有用性が証明されたことにより、身体に負担の少ない方法で、より多くの患者さんが最適な治療薬にたどり着くことに繋がることが期待されます。

本研究では、進行消化器がんの患者さんを対象にした腫瘍組織を用いたがんゲノムスクリーニングプロジェクト「GI-SCREEN-Japan(腫瘍組織検査)」と、リキッドバイオプシー研究「GOZILA Study(リキッドバイオプシー)」のゲノム解析結果において結果判明までの期間や適合する治験への登録割合及びその効果を比較しました。その結果、リキッドバイオプシーが腫瘍組織検査と比べ、約22日早く解析結果が判明し、さらにゲノム解析結果に基づき、対応する治療薬の治験に登録した患者さんの割合が高まることが明らかになりました。

なお、本研究は国立がん研究センター東病院消化管内科長の吉野孝之、同院トランスレーショナルリサーチ支援室・消化管内科医員の中村能章らがGI-SCREEN-JapanおよびGOZILA Studyを通じて行ったもので、本研究成果は米国科学雑誌「Nature Medicine」オンライン版(2020年10月5日付:日本時間2020年10月6日)に掲載されます。

背景

がんゲノム医療*2の実現のため、がんのゲノム異常に基づいて治療薬の効果を検証する治験が世界中で行われています。これらの治験では、患者さんのがんゲノム異常を同定するため、腫瘍組織の解析が従来用いられてきました。しかし、必ずしも腫瘍組織が採取できない患者さんがいることや、腫瘍組織の解析に時間を要することなどが、これらの治験促進の大きな障壁となっていました。

一方、近年、リキッドバイオプシーの技術が目覚ましい進歩を遂げています。リキッドバイオプシーは腫瘍組織を採取できない患者さんでも、ゲノム異常を解析することができ、検査結果の返却も早いことから、従来の腫瘍組織検査がもつ課題を克服する可能性が示唆されてきました。しかし、消化器がんにおいて治験のスクリーニング検査として、腫瘍組織検査とリキッドバイオプシーの有用性を大規模に比較した研究はこれまでありませんでした。

そこで今回国立がん研究センター東病院では、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)」*3の基盤を活用し、世界に類を見ない大規模な比較研究を実施しました。

研究方法と成果

国立がん研究センターでは、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan(スクラム・ジャパン)」を立ち上げ、2014年2月より「GI-SCREEN-Japan(現:MONSTAR-SCREEN)」に取り組んできました。GI-SCREEN-Japanは、国内の主要ながん専門病院や大学病院と協働して、進行消化器がんの患者さんの腫瘍組織を遺伝子パネル検査(Oncomine Comprehensive Assay)で解析し、治療薬を届ける全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトです。さらに2018年1月より、GI-SCREEN-Japanの基盤を活用し、進行消化器がんの患者さんの血液をリキッドバイオプシー(Guardant360®、Guardant AMEA Inc.)で解析するスクリーニングプロジェクト「GOZILA Study」を、米国Guardant Health社との共同研究として開始しました。

本研究では、2015年2月から2019年4月まで(4年2ヶ月)にGI-SCREEN-Japan(腫瘍組織検査)に登録された5743例と、2018年1月から2019年8月まで(1年7ヶ月)にGOZILA Study(リキッドバイオプシー)に登録された1787例を比較しました(図1)。

図1 研究の概要

比較結果(GI-SCREEN-Japan vs. GOZILA Study)(図2)

  • プロジェクト登録後~検体到着までの期間(中央値:14日vs.4日、P<0.0001)
  • 検体到着後から解析結果が患者さんに返却されるまでの期間(中央値:19日vs.7日、P<0.0001)
  • 治療標的となるゲノム異常が同定された患者さんの割合(54%vs.57%)
  • ゲノム異常に適合した薬剤の治験に登録された患者さんの割合(4.1%vs.9.5%、P<0.0001)
  • 治験治療で腫瘍が縮小した患者さんの割合(16.7%vs.20.0%、P=0.69)
  • 治験治療で病気が悪くなるまでの期間(中央値:2.8か月vs.2.4か月、P=0.70)
図2 GI-SCREEN-Japan(腫瘍組織検査)とGOZILA Study(リキッドバイオプシー)との比較結果

さらに、GOZILA Studyのリキッドバイオプシーで同定されたゲノム異常のプロファイリング*4の結果、有用なバイオマーカーや治療標的として将来的な臨床開発に繋がる可能性のある新たなドライバー遺伝子*5異常(食道扁平上皮がんのNFE2L2変異や膵がんのGNAS変異、胆道癌のCTNNB1変異など)が複数見出されました(図3)。

図3 GOZILA Studyにおけるがんゲノム異常のプロファイリング

展望

本研究の成果により、リキッドバイオプシーがスクリーニング検査としてより多くの治験に活用されることで、より多くの患者さんに最善の医療を提供できることが期待されます。また、新たなドライバー遺伝子異常の発見により、これまで着手されていなかったドライバー遺伝子異常に対する治療開発が活発化する可能性があります。なおGOZILA Studyでは、既にリキッドバイオプシーの結果に基づく医師主導治験が複数実施されています。今後も国立がん研究センター東病院は、一人でも多くの患者さんが最善の治療を受けられるよう、リキッドバイオプシーによるがんゲノム医療の実現を目指してまいります。

発表論文
雑誌名
Nature Medicine
タイトル
Clinical Utility of Circulating Tumor DNA Sequencing in Advanced Gastrointestinal Cancer: SCRUM-Japan GI-SCREEN and GOZILA Studies
著者
Yoshiaki Nakamura1,2,33, Hiroya Taniguchi1,2,33, Masafumi Ikeda3, Hideaki Bando4, Ken Kato5,6, Chigusa Morizane7, Taito Esaki8, Yoshito Komatsu9, Yasuyuki Kawamoto9, Naoki Takahashi10, Makoto Ueno11, Yoshinori Kagawa12, Tomohiro Nishina13, Takeshi Kato14, Yoshiyuki Yamamoto15, Junji Furuse16, Tadamichi Denda17, Hisato Kawakami18, Eiji Oki19, Takako Nakajima20, Naohiro Nishida21, Kensei Yamaguchi22, Hisateru Yasui23, Masahiro Goto24, Nobuhisa Matsuhashi25, Koushiro Ohtsubo26, Kentaro Yamazaki27, Akihito Tsuji28, Wataru Okamoto2,29, Katsuya Tsuchihara2,30, Takeharu Yamanaka31, Izumi Miki2, Yasutoshi Sakamoto2, Hiroko Ichiki2, Masayuki Hata2, Riu Yamashita30, Atsushi Ohtsu1, Justin I. Odegaard32, Takayuki Yoshino1*
所属
  1. Department of Gastroenterology and Gastrointestinal Oncology, National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan
  2. Translational Research Support Section, National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan
  3. Department of Hepatobiliary and Pancreatic Oncology, National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan
  4. Department of Clinical Oncology, Aichi Cancer Center Hospital, Nagoya, Japan
  5. Department of Gastrointestinal Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
  6. Biobank Translational Research Support Section, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
  7. Department of Hepatobiliary and Pancreatic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
  8. Department of Gastrointestinal and Medical Oncology, National Hospital Organization Kyushu Cancer Center, Fukuoka, Japan
  9. Department of Cancer Center, Hokkaido University Hospital, Sapporo, Japan
  10. Department of Gastroenterology, Saitama Cancer Center, Kitaadachi-gun, Japan
  11. Department of Gastroenterology, Hepatobiliary and Pancreatic Medical Oncology Division, Kanagawa Cancer Center, Yokohama, Japan
  12. Department of Colorectal Surgery, Kansai Rosai Hospital, Amagasaki, Japan
  13. Department of Gastrointestinal Medical Oncology, National Hospital Organization Shikoku Cancer Center, Matsuyama, Japan
  14. Department of Surgery, National Hospital Organization Osaka National Hospital, Osaka, Japan
  15. Department of Gastroenterology and Hepatology, University of Tsukuba Hospital, Tsukuba, Japan
  16. Department of Medical Oncology, Kyorin University Hospital, Mitaka, Japan
  17. Division of Gastroenterology, Chiba Cancer Center, Chiba, Japan
  18. Department of Medical Oncology, Kindai University Hospital, Osakasayama, Japan
  19. Department of Surgery and Science, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan
  20. Department of Medical Oncology, St. Marianna University School of Medicine, Kawasaki, Japan
  21. Department of Frontier Science for Cancer and Chemotherapy, Graduate School of Medicine, Osaka University, Suita, Japan
  22. Department of Gastroenterological Chemotherapy, Cancer Institute Hospital of Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan
  23. Department of Medical Oncology, Kobe City Medical Center General Hospital, Kobe, Japan
  24. Cancer Chemotherapy Center, Osaka Medical College Hospital, Takatsuki, Japan
  25. Department of Surgical Oncology, Graduate School of Medicine, Gifu University, Gifu, Japan
  26. Division of Medical Oncology, Cancer Research Institute, Kanazawa University, Kanazawa, Japan
  27. Division of Gastrointestinal Oncology, Shizuoka Cancer Center, Shunto-gun, Japan
  28. Department of Clinical Oncology, Kagawa University Hospital, Kita-gun, Japan
  29. Cancer Treatment Center, Hiroshima University Hospital, Hiroshima, Japan
  30. Division of Translational Informatics, Exploratory Oncology Research and Clinical Trial Center, National Cancer Center, Kashiwa, Japan
  31. Division of Biostatistics, National Cancer Center Hospital East, Kashiwa, Japan
  32. Guardant Health, Redwood City, CA
  33. These authors contributed equally: Yoshiaki Nakamura and Hiroya Taniguchi
DOI
10.1038/s41591-020-1063-5
掲載日
2020年10月5日付(米国時間)
研究費
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