洗剤に含まれる界面活性剤が喘息様気道炎症を誘導するメカニズムを解明 ~生活環境中の埃にも一定量の界面活性剤が存在することも明らかに〜

ad

2023-05-16 国立成育医療研究センター

国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)免疫アレルギー・感染研究部の森田英明室長、松本健治部長、福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の齋藤杏子医師、藤枝重治教授、チューリッヒ大学 Cezmi A. Akdis教授らの研究グループは、洗濯用洗剤などに含まれる界面活性剤が、気道上皮細胞に直接作用し、上皮細胞から放出される炎症物質(IL-33)を誘導することにより喘息様気道炎症(喘息のような症状を伴った気道の炎症)を引き起こすメカニズムを解明しました。さらに、これら界面活性剤は、実際の生活環境にある埃の中にも一定量存在していることも明らかにしました。これらの発見は、アレルギー疾患の将来的な予防・治療戦略の策定に寄与することが期待されます。
アレルギー疾患が発症する要因については、近年、人間の体が外界と接する部分に存在する細胞(上皮細胞)のバリア機能が何かしらの要因で障害されることが原因とする「上皮バリア仮説」が提唱されました。上皮バリア機能障害を引き起こす環境要因として、大気汚染物質などとともに、家庭で使用される合成洗剤など、さまざまな因子が影響する可能性が示唆されています。
本研究成果は、欧州アレルギー・臨床免疫学会の学術誌「Allergy」に5月10日に掲載されました。

注意:本研究は、あくまでも界面活性剤が喘息様気道炎症を引き起こすメカニズムを解明したもので、生活環境にある埃の中の界面活性剤と気管支喘息発症の因果関係を示すものではありません。
洗剤に含まれる界面活性剤が喘息様気道炎症を誘導するメカニズムを解明 ~生活環境中の埃にも一定量の界面活性剤が存在することも明らかに〜

プレスリリースのポイント

  • 本研究は、合成洗剤を吸入することで生体において喘息様気道炎症が引き起こされるメカニズムを、動物実験と培養ヒト気管支上皮細胞を用いて検討しました。また、私たちの実際の生活環境中に合成洗剤などに含まれる界面活性剤が存在するのかどうかも調べました。
  • マウスを用いた実験により、洗濯用洗剤が気道に吸入されると、生体内で喘息様気道炎症を引き起こすことを明らかにしました。さらに、喘息様気道炎症を引き起こす洗濯用洗剤の成分として、界面活性剤が関与している可能性を明らかにしました。
  • 界面活性剤は、気道上皮細胞に直接作用し、バリア機能を障害するとともに、上皮細胞から放出される炎症物質(IL-33)を増加させ、IL-33による2型自然リンパ球の活性化を介して喘息様気道炎症を引き起こすことを解明しました。
  • 洗濯用洗剤に含まれる界面活性剤は、私たちの生活環境(家庭内)にある埃の中にも一定量存在していることも明らかにしました。

研究の概要・成果の要点

  1. マウスに洗濯用洗剤、または洗剤に含まれる界面活性剤を吸入させると、気道のバリア障害とともに、喘息のような好酸球性気道炎症が誘導されることが明らかになりました。
  2. 洗濯用洗剤が気道上皮細胞に直接作用し、酸化ストレス誘導を介して炎症物質であるIL-33の産生を増強することで、喘息様気道炎症の誘導に関与することが明らかになりました。
  3. また、洗濯用洗剤による喘息様気道炎症には、IL-33によって活性化された2型自然リンパ球(Group2 innate lymphoid cell: ILC2)から産生されるサイトカインが関与していることも明らかになりました。
  4. 最後に、私達の生活環境中に洗濯用洗剤などに含まれる界面活性剤が存在するのかどうかを明らかにするため、ボランティアの家庭内(リビングの床、ベッド(または布団)、ソファ(またはクッション)、洗面所/脱衣所)から掃除機を用いて粉塵を収集しました。その粉塵中に含まれる界面活性剤を臨界ミセル濃度測定によって検討したところ、収集した家庭内の粉塵全てから、一定量の界面活性剤が検出されました。これらの研究成果から、私達の生活環境にある埃にも界面活性剤が一定量存在しており、日常生活の中で埃とともに吸入される可能性があることが明らかになりました。
  5. さらに、家庭内の粉塵から検出された界面活性剤は、洗面所/脱衣所よりも、リビングの床やベッド(または布団)、ソファ(またはクッション)などで、多い傾向がありました。また、家庭内の粉塵から検出された界面活性剤の量は、家庭ごとに有意に異なることも明らかになりました。生活環境にある埃の中に界面活性剤が存在する理由は明らかにされていませんが、洗濯後の衣服にも界面活性剤は一定量残留することが示されている(文献5)ことや、家庭の中でも人が滞在する時間が長い場所の埃で比較的多く界面活性剤が検出されることから、衣服に残留する界面活性剤が埃の中に落ちている可能性が示唆されます。
発表論文情報

英題:Laundry detergents and surfactants induced eosinophilic airway inflammation by increasing IL-33 expression and activating ILC2s
邦題:洗濯用洗剤と界面活性剤は、IL-33の発現増強とILC2の活性化を介して好酸球性気道炎症を誘導する
執筆者:齋藤杏子1, 2、折茂圭介1,3、久保輝文4、溜雅人1,5、山田絢子1、本村健一郎1、杉山弘樹1,6、松岡諒1,5、長野直子1,7、林優佳1,8,9、新江賢1,10、原真理子1、生谷尚士11、福家辰樹12、須藤カツ子13、松田明生1、大矢幸弘12、藤枝重治2、斎藤博久1、中江進11,14、松本健治1、Cezmi A. Akdis15,16、森田英明1,12
所属:
1)国立成育医療研究センター免疫アレルギー・感染研究部
2)福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科
3)東京女子医科大学呼吸器内科
4)札幌医科大学医学部病理学第一講座
5)東京慈恵会医科大学小児科学講座
6)横浜市立大学発生成育小児医療学教室
7)東京大学大学院医学系研究科呼吸器内科学
8)東京大学大学院医学系研究科小児科学
9)東京大学大学院医学系研究科発達発育学
10)杏林大学保健学部
11)広島大学大学院統合生命科学研究科
12)国立成育医療研究センターアレルギーセンター
13)東京医科大学医学総合研究所 疾患モデル研究センター
14)国立研究開発法人科学技術振興機構
15)Swiss Institute of Allergy and Asthma Research (SIAF), University of Zurich
16)Christine Kühne – Center for Allergy Research and Education (CK-CARE)
掲載誌:Allergy
掲載日:2023年5月10日
DOI:10.1111/all.15762

本件プレスリリースのPDFダウンロード

本件に関する取材連絡先
国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室

医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました