2023-07-12 京都大学
生田宏一 医生物学研究所教授、旭拓真 同博士課程学生(現:第一三共株式会社)らの研究グループは、標的細胞を迅速に殺傷する自然リンパ球を新たに同定し、その生体内での分化機構を解明しました。
1型自然リンパ球(ILC1)は肝臓や腸管といった生体防御の最前線に分布し、サイトカイン産生によって感染制御やがん免疫に寄与するリンパ球様細胞です。従来、がん細胞や感染細胞を直接的に殺すのはILC1ではなく、近縁のナチュラルキラー(NK)細胞だと考えられてきました。本研究では、細胞運命の解析やイメージング解析を用い、胎児肝臓に由来するILC1(IL-7受容体陰性ILC1, 7R- ILC1)がNK細胞とは異なるタイプの殺細胞活性を持つことを明らかにしました。この殺細胞活性は、7R- ILC1が平常時から高発現する細胞傷害性分子を介して迅速に発揮されました。さらに、肝細胞の微小環境(ニッチ)が7R- ILC1の分化に必要であることを見出しました。本成果は、自然リンパ球によるがん治療の樹立や、既存の免疫療法の改良、そしてがんの予防といった医療上の新しい展開につながることが期待されます。
本研究成果は、2023年6月22日に、国際学術誌「eLife」のオンライン版に掲載されました。
胎児肝臓由来の1型自然リンパ球(7R- ILC1)によるがん細胞の即時的な殺傷
研究者のコメント
「がん免疫療法は患者さんが元々持っている免疫系に働きかけるため、汎用性の高い治療効果を生む可能性を秘めています。本研究から提示されたような殺細胞活性を患者さんの免疫系に付与したり、細胞治療に活かすことができれば、多くのがんに対してアプローチが可能となるのではないかと期待しています。今後は本成果の創薬への橋渡しに尽力していきたいと考えています。」(旭拓真)
詳しい研究内容について
迅速な殺細胞活性を持つ自然リンパ球を同定―肝細胞ニッチが育む免疫監視担当細胞―
研究者情報
研究者名:生田 宏一