大腸内視鏡病変検出・鑑別診断サポートを行うAIを開発

ad
ad

”医師と共に在るAI”で、大腸がん死亡率の低下を目指す

2018-08-17 東京慈恵会医科大学,エルピクセル株式会社,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • 大腸内視鏡検査中にリアルタイムでポリープを検出し、その組織診断を予測することが可能な、人工知能技術を用いた検査支援システムを開発しました。(用語1)
  • 人工知能の教師データには、約5万枚の大腸ポリープ画像を使用しており、形状・大きさや組織診断によらず、あらゆる大腸ポリープに対応しています。
  • 大腸ポリープの検出感度98%、陽性的中率91.2%を達成しました(用語2,3)。
  • 内視鏡専門医であっても発見が容易ではない平らなポリープや微小ポリープに限定した場合でも、感度93.7%、陽性的中率96.7%の高精度で検出が可能です。
  • 人工知能の支援によりポリープの見落としを減らすことで、将来の大腸がん発生リスクの低減が見込めます。

本研究結果は、2018年5月11日 第95回日本消化器内視鏡学会総会シンポジウム、2018年6月2日 米国消化器病週間(DDW:Digestive Disease Week)にて発表されました。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構革新的がん医療実用化研究事業「人工知能技術を用いた大腸内視鏡検査における病変検出・診断支援技術の開発」(研究代表者:炭山和毅 東京慈恵会医科大学教授)の支援を受け、東京慈恵会医科大学がエルピクセル株式会社(分担研究者)とともに実施しているものです。

研究開発の背景

我が国における大腸がんの罹患率や死亡数は年々増加傾向にあります[1]。その予防や治療成績の向上には、腫瘍性ポリープを早期のうちに大腸内視鏡によって発見し、切除することが重要とされています[2]。例えば、大腸内視鏡の大腸がん予防効果は、検査を行う医師の腫瘍性ポリープ発見率(Adenoma detection rate:ADR)に影響を受けることが明らかになっており、医師のADRが1%上昇すると、将来の大腸がんが3%減少できる可能性も報告されています[3]。しかし、医師のADRには、ばらつきがあることも明らかになっています。これから日本では、社会の高齢化に伴い大腸がんの好発年齢層が急増することが予測されますが、内視鏡専門医の育成数を増やすことや、最先端の内視鏡システムを広く普及させるには、人的経済的負担が大きく、時間もかかります。そこで東京慈恵会医科大学とエルピクセル株式会社は、内視鏡医の技能や機械の性能によらず検査精度の底上げと検査の効率化を図るため、従来使用されている様々な内視鏡システムに対応が可能な人工知能技術による大腸内視鏡検査支援システムの開発に取り組んできました。

大腸内視鏡病変検出・鑑別診断サポートを行うAIを開発

研究開発の成果

東京慈恵会医科大学附属病院において収集した約5万枚の大腸ポリープ画像から作成した学習用データを基に、大腸ポリープを自動認識し、組織診断の予測までリアルタイムに行うことのできる人工知能支援システムを構築しました。開発に際しては、人工知能による物体認識性能に定評のある機械学習手法 Deep learningを採用しました(用語4)。

2018年5月現在、本システムの大腸ポリープ検出精度は感度98%、陽性的中率91.2%となっています。内視鏡専門医であっても発見が容易ではない平らなポリープや微小ポリープなどに限定した場合でも、検出感度は93.7%、陽性的中率は96.7%となり、高い精度が確認されました。

図2

この研究成果は、2018年5月11日(金)に開催された第95回 日本消化器内視鏡学会総会のシンポジウムにおいて、 演題名「人工知能アルゴリズムを用いた非拡大観察における大腸病変の検出および鑑別診断」として発表しました。さらに、2018年6月2日(土)米国ワシントンD.C.にて開催される消化器系の学会として国際的に最も評価の高い学会の一つである「米国消化器病週間(DDW:Digestive Disease Week)」においても本プロジェクトの成果を報告しました。

図3
2018年5月11日(金)、第95回日本消化器内視鏡学会総会シンポジウムでの発表の様子

今後の展望

本研究の良好な研究成果を踏まえ、すでに東京慈恵会医科大学附属病院の内視鏡室に本システムを設置し、臨床現場での評価に基づいた更なる改良に取り組んでいます。来年度はさらに臨床試験を拡大し、国立研究開発法人国立がん研究センターと共同で、本システムの有効性の確認を進めます。このプロジェクトの実現により、より多くの皆様に良質な大腸内視鏡検査を”広く速やかに”提供することで、大腸がんの早期発見早期治療に貢献するばかりでなく、効率的に大腸がんの発生を未然に防ぐことが可能になるものと期待しています。

図4

本システムを実際の内視鏡検査環境で用いた臨床試験の様子(東京慈恵会医科大学付属病院 内視鏡室)。
人工知能がポリープを自動検出し、ボックスで囲むことによってポリープの存在をリアルタイムに内視鏡実施医に知らせる。同時に、腫瘍性ポリープか非腫瘍性ポリープのどちらか予想される組織診断を、確信度と共に表示する。写真の例では、99%の確信度でnon-neoplastic polyp(非腫瘍性ポリープ)と予測している。

用語解説
1.人工知能
人間のような知能を、コンピュータを使って実現することを目指した技術あるいは研究分野(人工知能学会監修、“人工知能とは”、近代科学社(2016年)ISBN:978-4764904897)
2.感度
存在しているポリープの内、人工知能が正しく検出できた確率
3.陽性的中率
人工知能がポリープとして検出したものが、正しくポリープであった確率
4.Deep learning
層の数が多い階層的なニューラルネットワーク(deep neural network:DNN)によってデータから抽象度の高い内部表現を獲得させる方法(人工知能学会誌 = Journal of Japanese Society for Artificial Intelligence 28(4), 649-659, 2013-07-01)
脚注

[1]最新がん統計  国立がん研究センター
[2] Zauber AG, et al. N Engl J Med.2012 Feb 23;366(8):687-96.
[3]Corley DA, et al. N Engl J Med.2014 Apr 3;370(14):1298-306.

本件に関するお問い合わせ

東京慈恵会医科大学 内視鏡科
教授 炭山和毅

東京慈恵会医科大学 広報課

エルピクセル株式会社 広報

事業に関するお問い合わせ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課

医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました