2023-08-08 名古屋大学
名古屋大学大学院医学系研究科・最先端イメージング分析センター/B3 ユニットフロンティア長・高等研究院(JST 創発的研究支援事業 1 期生)の佐藤和秀 特任講師(最終責任著者、共同筆頭著者)、同大学大学院医学系研究科総合保健学専攻 オミックス医療科学の松岡耕平 大学院生(第一著者)、佐藤光夫 教授らの研究グループは、手術・放射線・化学療法・がん免疫療法に続く“第 5 のがん治療”といわれる近赤外光線免疫療法の効果を予測する新たな画像評価技術開発に成功しました。
近年、光を用いた医療技術開発が次世代の新規治療方法として脚光を浴びています。その中でも、2011 年に米国立がんセンター(NCI/NIH)の小林久隆 博士らにより報告された新しいがん治療法である近赤外光線免疫療法(Near Infrared Photoimmunotherapy; NIR-PIT)は新規の治療法として注目されています。この治療法は、これまでと異なる方法でがん細胞を標的破壊できることから、手術・放射線・化学療法・がん免疫療法につづく、“第 5 のがん治療”として期待されており、世界に先駆けて日本で 2020 年 9 月 に EGFR (Epidermal Growth Factor Receptor)※2 を高発現する再発既治療頭頸部がんに対して、承認を受けて保険適用されています。
近赤外線免疫療法では、光を照射する必要性があり、現状は十分量と考えられる光量を設定して光照射をしていますが、光は組織内で反射や散乱により減衰してしまい均一な照射が困難なため、光照射の完遂を適切に判断できる指標が求められていました。そこで、本研究グループは、近赤外光線免疫療法で治療した腫瘍で EPR 効果が高まることに着目し、治療後に血管周囲のスペースが光細胞死によって拡大することでマイクロサイズの粒子をも滞留することを新規に発見して、その機序解明と滞留する粒子サイズの上限を明らかにしました。
また、[マイクロサイズ超 EPR 効果]の医療応用として超音波画像検査機器とそのマイクロバブル造影剤を使用し、光照射の後に本技術を用いて治療効果を予測し、不十分であれば追加照射を柔軟に行うなどの画像マーカーとして利用できると考えました。超音波画像検査機器は殆どの病院で既に導入されており、本研究で使用したマイクロバブル造影剤は検査診断薬として既に病院で認可使用されていることから、臨床応用の可能性が高まると考えられます。
本研究は、学術出版社 Cell Press と The Lancet から共同発行されている医学医療科学総合誌「EBioMedicine」(2023 年 8 月 7 日付電子版)に掲載されました。
【ポイント】
・ 手術・放射線・化学療法・がん免疫療法に続く“第 5 のがん治療”といわれる近赤外光線免疫療法において、簡便に、かつ施術するその場で治療効果を予測・光照射の適切な完遂を確認できるバイオマーカーが求められている。
・ 近赤外光線免疫療法後の腫瘍には、従来知られている約 20 – 200 nm 程度のサイズの粒子の集積・滞留効果である EPR 効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)※1 を超越したサイズの大きいマイクロサイズまでの粒子が滞留する[マイクロサイズ超 EPR 効果]があることを発見し、その機序解明と滞留する粒子サイズの上限を新たに明らかにした。
・ [マイクロサイズ超 EPR 効果]を応用し、マイクロバブルを用いた超音波画像検査で評価する新技術に結びつけた画像計測を行うことで、近赤外光線免疫療法において、光照射後に治療効果の程度が推定できることを明らかにした。
・ 本画像バイオマーカーは、肝臓腫瘍の超音波検査診断薬として認可済のマイクロバブル造影剤と従来の超音波機器を組み合わせて評価できるため、臨床応用のハードルが低く、実装の可能性が高まると期待される。
・ この新たな画像バイオマーカーによって、近赤外光線免疫療法の適切な効果向上が期待できる。
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【用語説明】
※1 EPR 効果 (Enhanced Permeation and Retention Effect):
腫瘍組織の血管では、腫瘍の増殖に伴う血管新生により形成されるため分岐が多く血管壁が正常血管よりも粗造になっており、100 – 200 nm 程度の隙間が空いている。そのため、正常の血管では透過しないような 100 – 200 nm 程度の高分子薬剤が、腫瘍では血管壁を抜けて組織中へと透過する(enhanced permeability)。また、腫瘍ではリンパ組織も成熟していないため、組織中の異物を排除することができず、結果として、血中から漏れだした高分子薬剤は腫瘍組織中に貯留する(enhanced retention)。この性質を利用して、100 – 200 nm 程度の粒子は、正常組織へは漏れ出さず、腫瘍血管からのみ癌組織に到達して患部に集積させることができる。これを EPR 効果と言い、1986 年に熊本大学の前田浩 教授(故人)らによって提唱された概念である。この効果を応用した治療薬剤が複数開発されている。
※2 EGFR (Epidermal Growth Factor Receptor):
がん細胞の表面に特異的に高発現しているタンパク質の一つ。このタンパク質を標的として結合する治療用の抗体薬が多数開発されている。
【論文情報】
雑誌名:Ebiomedicine
論文タイトル:Contrast-enhanced ultrasound imaging for monitoring the efficacy of near-infrared hotoimmunotherapy
著者名:
Kohei Matsuoka1,#, Mizuki Yamada1, Noriaki Fukatsu 2, Kyoichi Goto3, Misae Shimizu2, Ayako Kato2, Yoshimi Kato2, Hiroshi Yukawa2,3,4,5,6, Yoshinobu Baba3,4,5,6, Mitsuo Sato1 and Kazuhide Sato 2,4,6,7,8,#
所属名:
1 Division of Host Defense Sciences, Dept. of Integrated Health Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine, Japan
2 Nagoya University Institute for Advanced Research, Advanced Analytical and Diagnostic Imaging Center (AADIC) / Medical Engineering Unit (MEU), B3 Unit, Japan
3 Department of Biomolecular Engineering, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Japan
4 Institute of Nano-Life-Systems, Institutes of Innovation for Future Society, Nagoya University, Japan
5 National Institutes for Quantum Science and Technology, Institute for Quantum Life Science, Quantum Life and Medical Science, Japan
6 Development of Quantum-nano Cancer Photoimmunotherapy for Clinical Application of Refractory Cancer, Nagoya University, Japan
7 Nagoya University Graduate School of Medicine 8 FOREST-Souhatsu, JST, Tokyo, Japan
# These authors contributed equally to this work.
DOI: 10.1016/j.ebiom.2023.104737
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ebi_230807en.pdf
【研究代表者】
大学院医学系研究科/高等研究院(B3ユニットフロンティア) 佐藤 和秀 特任講師