2023-11-01 富山大学,理化学研究所,筑波大学
■ポイント
・多数の合成酵素遺伝子※1の働きを統括する司令塔役の制御因子 PhERF1 を園芸植物ペチュニアの葉において機能増強することで、植物ステロイド成分※2の蓄積を短期間で誘導することに成功しました。
・PhERF1 とその類縁因子は、多種多様な植物成分の合成に共通する「万能」制御因子※3であると考えられます。
・「万能」制御因子を用いる手法を、さまざまな植物種に適用することで、「植物バイオものづくり※4」が推進されることが期待されます。
■概要
富山大学・和漢医薬学総合研究所の庄司翼教授らの研究グループは、理化学研究所と筑波大学との共同研究で、単一の制御因子(転写因子)を用いて植物ステロイド成分の蓄積を短期間で顕著に誘導することに成功しました。
複雑な化学構造をもつステロイドなどの生理活性※5を有する天然化合物は、医薬などとして広く利用されていますが、植物体内にはこれら有効成分が微量にのみ含有されています。微量植物成分の蓄積を顕著に増やすことができれば、医薬やその原料などの安定生産・供給が可能となります。
植物において天然化合物は、単純な構造の前駆体化合物※6から複数段階の酵素反応を経て合成されます。本研究では、多数の合成酵素遺伝子の働きを統括する司令塔役の制御因子 PhERF1 の機能を増強(過剰発現)し、100 種類以上の合成酵素遺伝子の働きを覚醒(発現誘導)させることで、園芸植物ペチュニアの葉にペチュニア属植物特有のステロイド成分の蓄積を短期間(8 日間)で飛躍的に増大させることに成功しました。
本研究で用いたペチュニア PhERF1 の類縁因子は、ほとんど全ての双子葉植物に存在し、それぞれの植物種で特有な植物成分の合成を統括している「万能」制御因子であると考えられます。単一の万能制御因子を用いる本手法を、さまざまな植物種に適用することで、「植物バイオものづくり」が推進されることが期待されます。
本研究成果は令和 5 年 10 月 31 日(火)21:00(日本時間)に米国科学アカデミー紀要誌 PNAS Nexus 電子版に掲載されました。