2023-11-27 国立遺伝学研究所
自然環境において微生物は多様な種の組み合わせによる「微生物群集」として存在しています。微生物群集の構成は環境に依存しており、特に「環境温度」はその構成に重要な影響を与えます。しかしながら、環境温度と微生物群集の繋がりについて、具体的な法則や関係性はほとんど解明されていませんでした。
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 ゲノム進化研究室の黒川真臣特任研究員および黒川顕教授らのグループは、環境中に存在する微生物全体が持つ遺伝情報と環境温度の間に特有の数理法則が成り立つことを発見ました。そして、この法則を利用してメタゲノム配列より取得した遺伝情報から環境温度を予測する技術「Metagenomic Thermometer」を開発しました。
Metagenomic Thermometerを用いて、人工的に構築した多様な温度の温泉河川において、微生物群集のメタゲノム解析から環境温度を高精度に予測することに成功しました。さらに、公共データを利用して、温泉河川以外の環境、特にヒト腸内環境にもMetagenomic Thermometerが適用可能であることを示しました。
本成果は、微生物群集の構成についての理解を深めるとともに、ヒト深部体温の推定、体温に応じて定着しやすい生菌製剤やプロバイオティクスの設計への応用、さらには気候変動に伴う微生物群集の変化の予測などへの応用が期待できます。
本研究は、文部科学省科研費「新学術領域研究『研究領域提案型』」冥王代生命学の創成(26106001)、文部科学省科研費「新学術領域研究『学術研究支援基盤形成』」先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(PAGS)(22H04925)、日本科学技術振興機構 バイオサイエンスデータベースセンター データベース統合化推進プログラムの支援を受けて行われました。
本研究成果は、国際科学雑誌「DNA Research」に2023年11月7日(日本時間)に掲載されました。
図: Metagenomic Thermometerの概念図
Metagenomic ThermometerはメタゲノムDNA配列を入力として受け取る。遺伝子予測ツールを用いて遺伝子領域を予測・翻訳することで、環境サンプル中の全DNAにコードされたアミノ酸を取得する。特定のアミノ酸の出現頻度を予測式に当てはめることで環境温度を予測できる。
Metagenomic Thermometer
Masaomi Kurokawa, Koichi Higashi, Keisuke Yoshida, Tomohiko Sato, Shigenori Maruyama, Hiroshi Mori, and Ken Kurokawa
DNA Research (2023) 30, dsad024 DOI:10.1093/dnares/dsad024