悪性胸膜中皮腫のウイルス療法を開始~抗がんウイルス G47Δを用いた初の胸腔内投与~

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2018-08-02 東京大学医科学研究所附属病院https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400097219.pdf

東京大学医科学研究所附属病院では、脳腫瘍外科 教授 藤堂具紀 を総括責任者として、 悪性胸膜中皮腫に対するウイルス療法の臨床試験を開始します。ウイルス療法とは、がん細胞だけで増殖するように人工的に改変したウイルスを使う新しいがん治療法で、本試験では、藤堂教授らが開発した第三世代のがん治療用単純ヘルペスウイルス1型の G47Δ(ジーよんじゅうななデルタ)を用います。G47Δは、悪性脳腫瘍を対象にして製 品化に向けた医師主導治験が実施されており、前立腺癌や嗅神経芽細胞腫の臨床試験に も使われています。悪性胸膜中皮腫は、主としてアスベスト(石綿)が原因となり、胸 腔に生じる悪性腫瘍です。G47Δはこれまで主に腫瘍内に直接投与する方法で使われて きましたが、今回は初めて、悪性胸膜中皮腫患者の胸腔内に投与します。繰り返し胸腔 内に投与することの安全性と同時に、治療効果を調べることが目的です。医科学研究所 では、今後も、なるべく早く且つなるべく多くのがん患者がウイルス療法を選択できる ようになるよう、臨床開発を推進します。

【発 表 者】
東京大学医科学研究所附属病院 脳腫瘍外科 教授 藤堂  具紀
【悪性胸膜中皮腫(あくせいきょうまくちゅうひしゅ)について】
悪性胸膜中皮腫は主として胸腔に発生する悪性腫瘍で、アスベスト(石綿)が主な原因と考えられています。アスベストは我が国で 1960 年代から 1980 年代に広く利用されており、吸入被曝後 30 年〜40 年経過してから悪性胸膜中皮腫が発生するため、今後数十年間は 患者数が増加し続けると危惧されます。事実 1995 年には500人であった死亡者数が 2011 年には 1258人と増加しています。初期には自覚症状に乏しく、多くの場合、進行してくると胸水が貯留してきて胸痛、息切れ、咳嗽、体重減少などの症状が現れます。治療は手術、放射線治療、化学療法が行われますが、特に再発した腫瘍に対しては現時点で有効な治療法がありません。手術適応のない症例を対象とした化学療法(Cisplatin と Pemetrexed の 併用療法)の平均的な生存期間は 12 ヶ月程度とされています。

【がんのウイルス療法とは】
がんのウイルス療法とは、がん細胞のみで増えることができるウイルスを感染させ、ウイルスが直接がん細胞を破壊する治療法です。ウイルス療法では、遺伝子工学技術 を用いてウイルスゲノムを「設計」して、がん細胞ではよく増えても正常細胞では全く増えないウイルスを人工的に造って臨床に応用します。がん細胞だけで増えるように工夫された遺伝子組換えウイルスは、がん細胞に感染するとすぐに増殖を開始し、 その過程で感染したがん細胞を死滅させます。増殖したウイルスはさらに周囲に散らばって再びがん細胞に感染し、ウイルス増殖、細胞死、感染を繰り返してがん細胞を次々に破壊していきます。一方、正常細胞に感染した遺伝子組換えウイルスは増殖できないような仕組みを備えているため、正常組織は傷つきません(下図)。
遺伝子組換えウイルスを用いたウイルス療法の開発は、1990年代以降、世界でさま ざまなウイルスを用いた臨床開発が実施されています。最近、第二世代のがん治療用 単純ヘルペスウイルス1型(talimogene laherparepvec)が悪性黒色腫に対する治療 薬として欧米で認可され、世界でのウイルス療法開発は活発化しています。

【G47Δ(ジーよんじゅうななデルタ)とは】
単純ヘルペスウイルス1型は、口唇に水疱ができる口唇ヘルペスの原因ウイルスと して知られていますが、1)ヒトのあらゆる種類の細胞に感染できること、2)細胞 を殺す力が比較的強いこと、3)抗ウイルス薬が存在するため治療を中断できること、 4)患者がウイルスに対する抗体を持っていても治療効果が弱くならないことなど、がん治療に有利な特長を多く備えています。単純ヘルペスウイルス1型から、正常細 胞では必要でがん細胞では不要なウイルス遺伝子を取り除くと、がん細胞だけで増えるウイルスを造ることができます。G47Δは、そのようなウイルス遺伝子を3つ改変し た世界初の第三世代の遺伝子組換えヘルペスウイルスです(下図)。G47Δは、がん細胞に限ってウイルスがよく増えるように工夫されており、既存のがん治療用ウイルス に比べて安全性と治療効果が格段に高いものとなっています。また、G47Δががん細胞を破壊する過程で、がんワクチン効果が強く引き起こされるために、G47Δを投与した部位のみならず、抗がん免疫を介して離れた部位にあるがんにも治療効果があると期 待されます。さらに、G47Δは、がんの根治を阻むとされるがん幹細胞を効率よく破壊することが判っています。
東京大学では、世界に先駆けたG47Δの臨床開発を行っています。G47Δを世界で初めてヒトに投与して安全性を評価する、いわゆるファースト・イン・マン(first-inman)臨床試験は、膠芽腫(悪性脳腫瘍)の患者を対象に、2009年から5年間実施しました。2015年からは有効性を検討する第Ⅱ相試験を医師主導治験として開始しています。2013年からからはまた、前立腺癌や嗅神経芽細胞腫を対象とした臨床試験も実施しました。2016年にはG47∆が厚生労働省の先駆け審査指定制度(註1)の対象品目に選定され、2017年には悪性神経膠腫に対する希少疾病用再生医療等製品(註2)に指定されました。日本初のウイルス療法薬としての製造販売承認が期待されています。

【臨床試験の概要】
対象疾患    :手術適応のない再発または進行性の悪性胸膜中皮腫
投与方法    :胸腔内への投与。胸腔内投与ができなくなるまで、もしくは腫瘍が治療に
反応せず進行するまで、4週間毎に繰り返し投与(最大6回)。
予定症例数   :6例
目的      :安全性と治療効果の評価
評価期間    :最終投与後3ヶ月間
試験開始時期:2018年9月頃

【臨床試験への参加】
本試験に参加を希望される患者あるいは照会を希望される医療関係者は、次の東京大学医科学研究所附属病院脳腫瘍外科のホームページを経由してお問い合わせください。 http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/glioma/research/form_mesothelioma/form.html
本試験の問い合わせフォームに記入し、「送信する」をクリックしてフォームを送信してく ださい。問い合わせフォームの受信を確認しましてから、治験チームよりご連絡致します。
本臨床試験は、東京医科大学呼吸器甲状腺外科と協力して行いますので、東京医科大学 呼吸器甲状腺外科を受診して、ウイルス療法参加希望をお伝えくださることもできます。

【今回の臨床試験の特徴】
G47Δは、血液細胞を除くあらゆる細胞に感染し、がん細胞のみで増えながら、細胞 から細胞に伝播して広がる性質を有します。また、がん細胞を破壊しながら増えたあ とG47Δが免疫に排除される過程で、がん細胞に対する免疫が強力に引き起こされて、 ウイルス投与の部位とは無関係に、遠隔のがんにも抗がん免疫が治療効果を及ぼすよ うになります。従って、腫瘍にG47Δを直接投与する方法が最も効果的であることから、 これまでの臨床試験では主に腫瘍内投与が行われてきました。悪性胸膜中皮腫は、胸 腔内に広く散らばって増える腫瘍であるため、今回初めて、胸腔内投与という方法で 行います。また、G47Δは何回繰り返して投与しても1回毎の治療効果が落ちないとい う特徴を有するため、膠芽腫(悪性脳腫瘍)の医師主導治験と同様に、今回も、4週 間毎に最大6回までの繰り返し投与を行います。今回の臨床試験で、胸腔内への繰り返 し投与の安全性と治療効果が確認されれば、悪性胸膜中皮腫のみならず、現在有効な 治療法がないがんの胸腔内播種や腹腔内播種の治療にG47Δを応用する可能性につな がります。
本臨床試験は、東京医科大学呼吸器甲状腺外科(池田徳彦教授)と協力して行います。

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