脳梗塞や心筋梗塞などの疾患に対して、抗血栓療法中の場合、重度の脳小血管病(病態)があると出血リスクが増える:BAT2研究の主解析結果

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2023-12-28 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長が研究代表者を務めて国内52施設共同で行なったBleeding with Antithrombotic Therapy (BAT) 2研究 (ClinicalTrials.gov NCT02889653; UMIN 000023669)*3の主解析結果として、脳小血管病の重症度と抗血栓療法中の出血リスクとの関連を解析した研究を、脳血管内科の田中寛大医師、三輪佳織医長、吉村壮平医長、古賀政利部長らが纏めました。
この研究結果は、Annals of Neurology誌オンライン版に、2023年12月25日に掲載されました。

■背景

脳小血管病(cerebral small vessel disease)は脳MRIで非常によく観察される、最も高頻度の神経病理学的プロセスのひとつであり、脳卒中のリスク因子であるとともに、認知症の主要原因のひとつでもあります。
一方、血液を固まらせる血小板や凝固因子の働きを抑える抗血栓薬は、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症の予防のために広く内服されていますが、頭蓋内出血や消化管出血などの出血合併症が問題になります。脳小血管病のMRI所見には、いくつかの分類がありますが、中でも「脳微小出血(Cerebral microbleeds, CMBs)」と呼ばれる所見が、抗血栓薬内服中の頭蓋内出血リスクを上昇させることで注目されています。他に「大脳基底核血管周囲腔の拡大(enlarged basal ganglia perivascular space, BG-PVS)」も抗血栓薬内服中の頭蓋内出血のリスク上昇と関連することが報告されています。脳小血管病は、脳卒中や心筋梗塞などのリスクの高い高齢者や高血圧症の患者さん、腎機能障害を有する患者さんでよく見られるために、抗血栓薬によるメリット(血栓症予防)とデメリット(出血合併症)のバランスを考える上での鍵となる所見になり得ます。
脳小血管病のMRI所見である、CMBsとBG-PVS、ラクナ、白質高信号の4つを点数化し、脳小血管病の重症度を0〜4点の範囲で包括的に評価するトータルSVDスコア(SVDはsmall vessel disease、小血管病のことです)を用いることで、個々の所見を別々に観察するよりも、抗血栓薬に関連した出血合併症のリスクの正確な見積もりにつながる可能性が考えられました。本研究では、BAT2研究のデータを解析し、脳小血管病の重症度を表すトータルSVDスコアと抗血栓療法中の出血リスクとの関連を明らかにすることを目的としました。

■研究手法と成果

BAT2研究に登録された患者さんに発生した大出血(主要臓器 [頭蓋内など]への有症状の出血、ヘモグロビンが2.0g/dL以上低下する、あるいは2単位以上の輸血を要する)、頭蓋内出血(脳出血やくも膜下出血など)、消化管出血、虚血イベント(脳梗塞や心筋梗塞など)などのイベント発生リスクと脳小血管病の重症度との関連を、主に生存時間解析の手法を用いて評価しました。脳小血管病の重症度はトータルSVDスコアを用いて点数化しました。
解析対象は5,250例(9,933人年)でした。トータルSVDスコアとイベントとの関連をカプラン・マイヤー法で解析した結果、トータルSVDスコアが0から4へ増加すると、大出血リスクは有意に上昇しました(図A)。また、頭蓋内出血(図B)、頭蓋外大出血(図C)も同様に、トータルSVSスコアの上昇とともにリスクが上昇しました。虚血イベントのリスクもトータルSVDスコアと関連して有意に上昇しました(図D)。
さらに、年齢や性別、体重、合併症、内服薬などの背景因子を調整するために、Cox比例ハザードモデルで解析した結果、トータルSVDスコア0と比べて、スコア4では、大出血リスクがおよそ5倍、頭蓋内出血リスクが9倍、頭蓋外大出血リスクが3倍、消化管出血リスクが2.5倍、虚血イベントリスクが2倍となりました()。

■今後の展望と課題

BAT2研究の解析結果から、脳小血管病の重症度を表すトータルSVDスコアは抗血栓療法中の頭蓋内出血の予測因子であり、さらに頭蓋外出血のリスク因子となる可能性も示唆されました。脳小血管病と頭蓋外出血との関連について明確な結論を出すには、さらなる研究が必要です。しかし本研究の結果は、抗血栓療法を安全に実施するためのマーカーとしての、脳SVDのより広い臨床的意義を示すものとして、重要性が高いと考えられます。

図:トータルSVDスコア(脳小血管病の重症度)とイベントリスク(カプラン・マイヤー法)

脳梗塞や心筋梗塞などの疾患に対して、抗血栓療法中の場合、重度の脳小血管病(病態)があると出血リスクが増える:BAT2研究の主解析結果

表:トータルSVDスコア(脳小血管病の重症度)とイベントリスク(Coxモデル)

表:トータルSVDスコア(脳小血管病の重症度)とイベントリスク(Coxモデル)

■発表論文情報

著者: Kanta Tanaka, Kaori Miwa, Masatoshi Koga, Sohei Yoshimura, Kenji Kamiyama, Yoshiki Yagita, Yoshinari Nagakane, Haruhiko Hoshino, Tadashi Terasaki, Yasushi Okada, Yusuke Yakushiji, Shinichi Takahashi, Toshihiro Ueda, Yasuhiro Hasegawa, Masayuki Shiozawa, Makoto Sasaki, Kohsuke Kudo, Jun Tanaka, Masashi Nishihara, Yoshitaka Yamaguchi, Kyohei Fujita, Yuko Honda, Hiroyuki Kawano, Toshihiro Ide, Takeshi Yoshimoto, Masafumi Ihara, Teruyuki Hirano, Kazunori Toyoda, for BAT2 Investigators
題名:  Cerebral small vessel disease burden for bleeding risk during antithrombotic therapy: Bleeding with Antithrombotic Therapy 2 study
掲載誌: Annals of Neurology

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「脳卒中研究者新ネットワークを活用した脳・心血管疾患における抗血栓療法の実態と安全性の解明」
・科研費 脳心血管疾患での抗血栓療法中の大出血予測方法の開発、および脳小血管病の影響の解明
・AMED臨床研究・治験推進研究事業「急性期脳出血への新規止血治療開発のための研究者主導国際臨床試験」
・AMED臨床研究・治験推進研究事業「新規血栓溶解薬テネクテプラーゼの脳梗塞急性期再灌流療法への臨床応用を目指した研究」

<注釈>

*1 抗血栓療法
抗血栓薬は血液を固まらせる作用のある、血液中の血小板や凝固因子の働きを抑える薬です。血小板の作用を抑える薬は抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなど)、凝固因子の働きを抑える薬は抗凝固薬(ワルファリンや直接経口抗凝固薬)と呼ばれます。抗血栓薬は、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓症予防のために広く内服されているのですが、負の側面として頭蓋内出血や消化管出血などの出血リスクの上昇があります。抗血栓薬の種類や用量を検討する際は、そのメリット(血栓症予防)とデメリット(出血合併症)のバランスを考えることが非常に重要です。

*2 脳小血管病
脳小血管病(cerebral small vessel disease)は、脳の細い動脈・静脈や毛細血管が障害されることで、脳の循環や代謝の維持が難しくなり、脳に病変ができたり、脳の機能が低下する病態です。Small vessel diseaseは、よくSVDと省略して記載されます。脳小血管病による脳病変は、脳MRIで非常によく観察され、脳卒中のリスク因子であり、また、認知症の主要原因のひとつでもあります。脳MRIで見られる脳小血管病の病変としては、脳微小出血、ラクナ、白質高信号、血管周囲腔の拡大などが代表的です。

*3 Bleeding with Antithrombotic Therapy (BAT) 2研究
大きく多様化している経口抗血栓薬の使用実態を解明することを目指し、経口抗血栓薬を内服している脳・心血管疾患患者さんを対象とした多施設共同前向きコホート研究です。国内52施設が参加し、脳小血管病の影響を検討するために、定められた条件で脳MRIが撮影され、中央放射線診断委員会が脳MRIの読影を実施しました。登録された患者さんは、主に出血などのイベント発生の有無について、2年間フォローアップされました。2016年10月から2019年4月の間に5,378例が登録され、2021年4月でフォローアップが完了しました。

*4 前向きコホート研究
患者さんの様々な要因(今回の研究の場合は脳小血管病の重症度)を調査開始時(患者さんが登録されたタイミング)に把握し、時間の流れに沿って患者さんを一定期間追跡し、疾病の発生状況(今回の研究の場合は、大出血や虚血イベントなどの発生)を記録していく方法です。

【報道機関からの問い合わせ先】

国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

医療・健康
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