最新のAI技術で、永遠の化学物質(PFAS)約7000種と生体分子の結合特性を予測

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2024-01-16 愛媛大学

研究の概要

愛媛大学大学院農学研究科の石橋弘志准教授・林 太嘉大学院生、九州工業大学大学院情報工学研究院の前田和勲准教授・飯田緑准教授・倉田博之教授、東海大学農学部の平野将司准教授の研究グループは、脂質代謝、高脂血症、糖尿病、動脈硬化症治療のターゲットとして注目を集めているペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α(PPARα)タンパク質立体構造モデルを用いて、有機フッ素化合物であるペルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の結合特性を優れた性能で予測できる機械学習モデルを開発しました。本研究成果は、優先して環境汚染・毒性研究を実施する必要のあるPFASの選定や新たに開発されるPFASの安全性評価に貢献することが期待されます。

研究のポイント
  • 6,798種のPFASについて、ヒトPPARαタンパク質立体構造モデルに対する結合親和性をスクリーニング
  • 残留性有機汚染物質PFOA・PFOSと比較して、高いPPARα結合親和性を示すPFASは4,089種存在
  • 206個のうち3個のPFASの構造的特性を用いることで優れた予測性能を持つ機械学習モデルの開発に成功
  • 多くの炭素原子やエーテル基を有する代替および新興PFASは高いPPARα結合親和性を示すことが判明

最新のAI技術で、永遠の化学物質(PFAS)約7000種と生体分子の結合特性を予測
図:機械学習による永遠の化学物質(PFAS)約7,000種のPPARα結合親和性とその結合特性の予測
6,798種のPFASのうち4,089種はPFOA・PFOSと比較して高いPPARα結合親和性を示した。また、206個のうち3個のPFASの構造的特性を用いることで優れた予測性能を持つ機械学習モデルの開発に成功し、本法の適用により、多くの炭素原子やエーテル基を有する代替・新興PFASはPFOA・PFOSと比較して高いPPARα結合親和性を示すことが判明した。

研究の詳細

PFASは撥水剤や消火剤として広く使用されており、自然界や体内で分解されにくく蓄積されやすいことから、Forever chemicals(永遠の化学物質)とも呼ばれています。また、PFASのうちPFOA・PFOSなどは、残留性有機汚染物質(POPs)として世界的に製造・使用・輸出入の禁止または制限されています。しかし、これまで1万種以上のPFASの存在が指摘され、PFOA・PFOSなどは脂質代謝や高脂血症などに関与する核内受容体PPARαに結合することでシグナル伝達系の撹乱を惹起することにより生物に対して悪影響を与えることが報告されています。これまでPFASの個々の構造的特徴(例えば、炭素原子数や官能基数など)とPPARαの結合能については、定量的構造活性相関(QSAR)などを用いた研究が実施されてきましたが、PFASの複数の構造的特徴が組み合わされることでPPARα結合能にどのような影響を与えるかは不明でした。また、従来の解析手法では、複数の構造的特徴の影響を検出することは困難でした。そこで本研究では、PPARαに結合するPFASの複数の構造的特徴を明らかにするために人工知能(AI)技術のひとつである機械学習モデルを開発しました。

我々は、まず6,798種のPFASのPPARα-PFAS結合スコア(Sスコア)を計算し、POPsであるPFOA・PFOSなどと比較して高いPPARα結合親和性を示すPFASは4,089種存在することを明らかにしました。次に、PFASの206個の構造的特性(分子記述子)を計算し、特徴選択を実行したところ、選択した3個の分子記述子に基づいて、良好な精度でSスコアを予測する機械学習モデルの開発に成功しました。また、分子記述子とSスコアの間の相関関係を解析した結果、PPARα-PFAS結合の決定因子として、分子サイズ (b_single) および静電特性 (BCUT_PEOE_3およびPEOE_VSA_PPOS) に関連する分子記述子を同定しました。さらに、本法を用いて既存および代替・新規PFASとPPARαの結合能を評価したところ、多くの炭素原子やエーテル基を有する代替・新興PFASは既存のPFAS(PFOA・PFOSなど)と比較して高いPPARα結合親和性を示すことが明らかになりました。

本研究成果により、PPARαに結合しやすいPFASの構造的特徴が明らかとなり、毒性が高いPFASをスクリーニング・予測するための迅速で簡便な機械学習モデルを構築することができました。本研究で開発した機械学習アプローチは、PFAS-PPARα結合だけでなく、他のリガンド-受容体結合研究や他の構造-特性研究にも適用できるだけでなく、優先して環境汚染・毒性研究を実施する必要のあるPFASの選定や新たに開発されるPFASの安全性評価に貢献することが期待されます。

論文情報

掲載誌:Environmental Science and Technology
題 名:Elucidating key characteristics of PFAS binding to human peroxisome proliferator-activated receptor alpha: an explainable machine learning approach
著 者:Kazuhiro Maeda, Masashi Hirano, Taka Hayashi, Midori Iida, Hiroyuki Kurata, Hiroshi Ishibashi
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.est.3c06561

研究サポート
  • JSPS科研費 基盤研究(A)20H00634
  • JSPS科研費 基盤研究(C)22K12247
  • 文部科学省 共同利用・共同研究拠点「化学汚染・沿岸環境研究拠点(LaMer)」

プレスリリース資料はこちら(PDF 602KB)

本件に関する問い合わせ先

研究に関すること
国立大学法人愛媛大学 大学院農学研究科 准教授 石橋 弘志
国立大学法人九州工業大学 大学院情報工学研究院 准教授 前田 和勲
東海大学 農学部食生命科学科 准教授 平野 将司

報道に関すること
国立大学法人愛媛大学 総務部広報課 広報チーム
国立大学法人九州工業大学 総務課広報係

有機化学・薬学
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