タンパク質の結晶化を実験的に診断~タンパク質結晶の合理設計に前進~

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2018-07-30 理化学研究所,近畿大学

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター理研RSC-リガク連携センターの国島直樹客員研究員らの共同研究グループは、タンパク質を生化学的手法で分析することにより、結晶化を妨げている部位を実験的に特定する新技術を開発しました。

本研究成果は、タンパク質の結晶を合理的に設計することを可能とし、創薬応用を含む構造生物学[1]の発展に貢献すると期待できます。

構造生物学研究のためには、タンパク質を結晶化して構造解析する手法が一般的ですが、タンパク質の結晶化は容易ではありません。タンパク質の分子表面に存在するリジン[2]というアミノ酸残基は結晶化を妨げることが知られています。分子表面リジン残基を実験的に検出する方法があれば、それを他のアミノ酸に置換することで、タンパク質結晶を得る確率を高めることができます。

今回、共同研究グループは、分子表面リジン残基を市販の試薬で化学修飾[3]し、一般的な質量分析法[4]で特定する方法を提案し、その有効性をモデルタンパク質で確かめました。これにより、タンパク質結晶の合理設計の実現が一歩前進したといえます。

本研究は、国際科学雑誌『Analytical Biochemistry』オンライン版(7月17日付け)に掲載されました。

※共同研究グループ

理化学研究所 放射光科学研究センター
パートタイマー(研究当時) 村岡 愛一郎(むらおか あいいちろう)
XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ イメージング開発チーム
リサーチアソシエイト 松浦 祥悟(まつうら よしのり)
利用技術開拓研究部門 生体機構研究グループ
先任研究員 内藤 久志(ないとう ひさし)
理研RSC-リガク連携センター
客員研究員 国島 直樹(くにしま なおき)

近畿大学 農学部
准教授 伊原 誠(いはら まこと)

※研究支援

本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業「SPring-8におけるワンストップタンパク質試料生産支援および高分解能結晶取得技術の高度化(研究代表者:国島直樹)」による支援を受けて行われました。

背景

タンパク質の立体構造は構造生物学研究の基盤情報で、目的タンパク質を結晶化し構造解析して得ることが一般的です。しかし、これまでタンパク質の結晶化は非効率な試行錯誤により行われてきました。例えば、日本の構造ゲノム科学[5]プロジェクトでは、ある耐熱性バクテリアの全タンパク質の構造決定を目指して網羅的に結晶構造解析が行われましたが、構造決定に成功したタンパク質は全体の約2割に過ぎませんでした。つまり、一つの生物において8割のタンパク質の結晶構造が解析できない状況は現在も続いています。

細胞中でのタンパク質の結晶化は生命活動を阻害する可能性があるため、天然タンパク質は結晶化しにくい方向に進化したと考えられています。したがって、天然タンパク質に手を加えてより結晶化しにくくすることは難しいですが、逆に結晶化するように人為的に改変することは難しくないと考えられます。そこで、タンパク質分子を部位特異的変異導入[6]により改変することで、結晶を得る確率を高める手法「タンパク質結晶の合理設計」の開発が望まれています。

国島直樹客員研究員らは2008年に、この概念に沿ってモデルタンパク質の結晶品質を改善することに成功しました注1)。タンパク質は20種類のアミノ酸から成り立っており、タンパク質の分子表面に存在するリジン残基は結晶化を妨げることが知られています。国島客員研究員らはこれを発展させ、多数のタンパク質結晶構造データの統計解析により20種類のアミノ酸それぞれについて結晶化への適合度を決定し、それに基づく分子表面への変異導入により結晶化率が改善することをモデルタンパク質で実証しました注2)。つまり、分子表面に存在するリジン残基を他のアミノ酸に置換することでタンパク質の結晶化率を高めることを実証したわけです。

しかし、この方法は目的タンパク質の立体構造がある程度の精度であらかじめ分かっていないと適用できないという大きな欠点がありました。もし、分子表面リジン残基を実験的に検出する方法があればこの欠点は解消され、構造生物学のボトルネックとなっている構造未知タンパク質の結晶化を効果的に支援できます。ただし、アミノ酸置換による構造変化を避けるため、タンパク質の他の残基と分子内相互作用をしない分子表面リジン残基を選ぶ必要があります(図1)。

注1)2008年9月29日プレスリリース「タンパク質分子に変異導入し、結晶の品質が改善 PDF(742KB)
注2)Yamada et al. (2017) “Designing better diffracting crystals of biotin carboxyl carrier protein from Pyrococcus horikoshii by a mutation based on the crystal-packing propensity of amino acids” Acta Cryst. D73, 757-766

研究手法と成果

今回、共同研究グループは、分子表面リジン残基をNHS-ビオチン[7]という市販の試薬で化学修飾し、修飾を受けたリジン残基を一般的な質量分析法であるMALDI-TOF MS[8]で特定する方法を提案しました(図2)。タンパク質分子の他の残基と相互作用しているリジン残基は、この修飾を受けにくいと考えられます。この方法自体は特に新しいものではありませんが、タンパク質結晶化を目的としている点に新奇性があります。実験手順は非常に簡便で、結晶化に使う程度の量の精製タンパク質試料とタンパク質化学の一般的な研究設備があれば、2日で行うことができます。

その有効性を検証するため、以前に国島客員研究員らが結晶構造を決定したPH1033というタンパク質に本技術を適用しました。PH1033は144残基のアミノ酸から成る小型のタンパク質ながら、統計解析に充分な22個のリジン残基を持ち、検証モデルとして適しています。PH1033の結晶化率はリジンの多さを反映して低く、研究グループで最も高品質な結晶は、鉱物の一種を結晶化の足場として使う特殊な方法により得られました注3)

注3)Sugahara et al. (2008) “Nucleant-mediated protein crystallization with the application of microporous synthetic zeolite” Acta Cryst. D64, 686-695

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