2024-02-06 国立遺伝学研究所
近年の新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、感染防止対策として有効な人との距離(2m程度)を「ソーシャル・ディスタンス」と表現するのを耳にする機会が増えました。人には心理学的に他人に入ってきて欲しくない「パーソナルスペース」があるとされていて、自然と他人と一定の距離(ソーシャル・ディスタンス)を保って離れようとします。京都の鴨川で、カップルが自然と間隔をあけて座っている様子はその心理の現れとされています。
本研究で、総合研究大学院大学・遺伝学専攻の藤井謙さんらのグループは、細胞内に存在する「中心体」と呼ばれる構造物が、あたかもパーソナルスペースを持っているかのように間隔をあけて配置することに着目し、そのしくみを明らかにしました。モデル生物の線虫の細胞から細胞核を取り除く新しい方法を開発し、そのような細胞の中で中心体がどんどん数を増していく様子を観察しました。中心体は細胞内で均等に配置しており、その均等な配置にはダイニンというモーター蛋白質が必要であることを明らかにしました。関連する遺伝子の阻害実験やコンピュータシミュレーションから、それぞれの中心体が細胞内のダイニンを奪い合うことによって、それぞれの「パーソナルスペース」を確保していることを明らかにしました。この研究は、細胞内で小さな構造物がどのように互いの距離を測っているのかを明らかにした研究として興味深いものです。
図:核を除いた線虫の胚細胞の顕微鏡像。白い点が中心体を表し、細胞内の複数の中心体がほぼ均等に配置している様子が見てとれる。(図は3次元の細胞を2次元に投影したもの。*は極体という中心体とは別の構造体。)
Enucleation of the C. elegans embryo revealed dynein-dependent spacing between microtubule asters
Fujii, K., Kondo, T. & *Kimura
*責任著者
Life Sci. Alliance (2023) 7, e202302427 DOI:10.26508/lsa.202302427