2024-02-21 静岡県立大学,愛媛大学,科学技術振興機構
ポイント
- 祖先配列再構成法を用いて、高機能なたんぱく質連結酵素(AcSE5;祖先型ソルターゼE)の開発に成功しました。
- AcSE5は、高い連結活性に加え、さまざまな求核剤(トリグリシン、アルキルアミン)を基質にできることが特徴です。
- AcSE5を用いて、蛍光たんぱく質を含む、機能的なたんぱく質を、効率的に抗体に連結することに成功しました(修飾抗体)。
- AcSE5を用いて、固定化担体に効率的に酵素を連結することに成功しました(固定化酵素)。固定化された酵素は、長期間高い活性を保持していることを確認しました。
- AcSE5は、たんぱく質や酵素に、さまざまなたんぱく質、酵素、化合物を、穏やかな反応条件下で連結することができます。今後、次世代のバイオ医薬品(抗体など)、たんぱく質・酵素の産業利用の加速が期待できます。
生物を構成する分子の1つであるたんぱく質は、生体内で多様な機能を発揮します。例えば抗体は、体内に侵入した病原性のウィルスや微生物などの抗原を認識し、免疫を誘導する引き金となります。また酵素は、生体内の代謝を担う重要な役割を果たしています。これらたんぱく質を、医療や産業応用につなげるための研究が世界的に進められています。たんぱく質の機能を改変することができれば、応用利用の幅が広がります。
機能改変を達成する上で、たんぱく質を修飾することは有効なアプローチの1つです。ターゲットのたんぱく質に、その他の機能性分子を連結することで、多様な機能をたんぱく質に付与することができます。たんぱく質を修飾するさまざまな方法がありますが、酵素を用いた方法は、たんぱく質の特定の部位に修飾することができ、また穏やかな条件で反応を行えることが特徴です。目的たんぱく質の変性などを抑えつつ、さまざまな化学修飾を加えることが期待できます。
静岡県立大学の中野 祥吾 准教授、伊藤 創平 准教授、千菅 太一 助教、宮田 梓 氏(博士前期課程2年)、神戸 彬光 氏(研究当時:博士前期課程2年)および愛媛大学の竹田 浩之 准教授らの研究チームは、独自のアミノ酸配列データマイニング法と祖先配列再構成法を融合した手法を用いて、たんぱく質連結酵素である祖先型ソルターゼE(AcSE5)の開発に成功しました。本酵素を用いて蛍光標識抗体を始めとする修飾抗体や、固定化酵素の作成に成功しました。本酵素は従来の酵素よりもさまざまな求核剤を反応できるという特徴を有しており、抗体修飾などに用いられる一部アルキルアミンを直接、アシル供与体と連結できることを実験的に確かめています。
今回の成果を用いて、さまざまなたんぱく質と化合物を連結した修飾たんぱく質を合成することが可能となり、次世代抗体や酵素材料の開発を加速できることが期待されます。
本成果は、2024年2月20日(現地時間)に米国の科学雑誌「ACS Catalysis」に掲載されました。また本成果の一部について特許出願を完了しています(特願2023-066172)。
この研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発(課題番号21ae0121018)、科学技術振興機構(JST) さきがけ(課題番号JPMJPR20AB)および日本学術振興会(JSPS) 科研費 基盤研究C(課題番号21K05395、23K04510)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(879KB)
<論文タイトル>
- “Design of Ancestral Sortase E that is Applicable in Protein Biomaterial Synthesis”
- DOI:10.1021/acscatal.4c00487
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
中野 祥吾(ナカノ ショウゴ)
静岡県立大学 食品栄養科学部 准教授
伊藤 創平(イトウ ソウヘイ)
静岡県立大学 食品栄養科学部 准教授
竹田 浩之(タケダ ヒロユキ)
愛媛大学 プロテオサイエンスセンター 准教授
<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
科学技術振興機構 広報課