2024-02-29 国立成育医療研究センター
草加市立病院(所在地:埼玉県草加市、病院長:矢内常人)消化器内科の渡辺翔医長、国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)の好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループは、魚介類アレルギーのあると申告した成人を対象に、食物蛋白誘発性胃腸炎(Food protein induced enterocolitis syndrome:FPIES(エフパイス))の割合や臨床的特徴、魚介類の詳細な摂取状況について調査を行いました。 FPIESは胃腸炎症状(強い腹痛、吐き気、嘔吐、下痢)を引き起こしますが、食物に対するIgE抗体検査(血液検査)は陰性となる消化管アレルギーです。一般の食物アレルギーと異なり皮膚や喉、呼吸の症状は起こさず、食後1時間以上経過してから胃腸炎症状が出るため、診断が難しいという特徴があります。 本調査では、魚介類アレルギーがあると申告した成人117名に対し、海外の研究報告を基にした成人FPIES診断基準を用いて電話調査を行いました。その結果、22名(18.8%)がFPIESであると考えられました。これは、魚介類アレルギーがある成人の中にFPIESが潜在的に相当数存在することを示唆します。FPIESの原因魚介類で最多は貝類(45.4%:特に牡蠣)で、加熱・加工しても症状がでていました。 また、成人FPIESの特徴的な症状として腹部の張り(81.8%)がありました。反復嘔吐を特徴とする小児FPIESは近年報告数が増加していますが、本調査により成人FPIESは反復嘔吐が少なく、腹部の張りや強い腹痛をはじめとした、重篤な腹部症状を来すことが分かりました。さらに、魚介類の摂取状況を調べたところ、多くの成人FPIESの原因魚介類は一部だけであり、他の多くの魚介類は摂取可能でした。 本調査結果は、国際的な学術誌「Allergology International」誌に掲載され、今後の診断ガイドラインや救急医療における診断アルゴリズム策定に生かされることが期待されます。
プレスリリースのポイント
- 成人の魚介類アレルギーを申告した方の中に、FPIESが相当数存在(本調査では117名中22名、18.8%)することが分かりました。
- 日本の成人FPIESの原因魚介類で最多は貝類(特に牡蠣:45.4%)であり、揚げ物などの加熱、オイスターソースなどへ加工されても、症状が出ていました。
- 特徴的な症状として腹部の張り(81.8%)があり、排出(嘔吐や排便)により楽になりたいと訴えていました。その他、腹痛(63.6%)、頻回の嘔吐(59.1%)や下痢(54.5%)などもありました。
- 成人FPIES患者は、原因魚介類以外の多くの魚介類を無症状で摂取可能でした。
- 本調査で得られた成人FPIESの臨床的特徴は、今後成人におけるFPIESの診断ガイドライン作成や救急医療における診断アルゴリズム策定に役立つと期待されます。
発表論文情報
英題:A Detailed Intake-status Profiling of Seafoods in Adult Food-Protein-Induced Enterocolitis Syndrome Patients
邦題:成人の食物蛋白質誘発性胃腸炎(FPIES)患者における魚介類の詳細な摂取状況解析
執筆者:渡辺翔1,2、佐藤綾子3、 宇賀美杉1、 柗川直樹1、 楠田理奈4、 鈴木啓子4、 永嶋早織4、矢内常人1、大矢幸弘2 、野村伊知郎2,4
所属:
1) 草加市立病院 消化器内科
2) 国立成育医療研究センター アレルギーセンター
3) 東京都立墨東病院 消化器内科
4) 国立成育医療研究センター 好酸球性消化管疾患研究室
掲載誌:Allergology International
DOI:10.1016/j.alit.2023.12.003
- 本件に関する取材連絡先
- 国立成育医療研究センター 企画戦略局 広報企画室