微生物叢のゆらぎと安定性~多種細菌群集の「代替状態」と制御可能性~

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2024-02-29 京都大学

林息吹 生態学研究センター修士課程学生と東樹宏和 生命科学研究科教授らの研究グループは、多様な細菌種で構成される群集が微細な種組成の揺らぎや確率的な各個体の振る舞いに左右された結果、少数の代替的な群集に遷移し得る事を実証しました。

近年、医学・農学・工学にわたる広い分野で機能的な細菌叢の重要性が認知され、その制御に関心が集まっています。腸内細菌叢や農作物の収量に関わる細菌叢を制御することで、人の健康や持続的な作物栽培などを安定的に管理する事ができると考えられてきました。その一方で、多種の細菌で構成されるシステムの動態が、どの程度の再現性を持っているかを示す実証的な知見は限られており、その制御可能性は未知数でした。

本研究では、それぞれの栄養条件下で継続培養する細菌の群集を大量に準備し、各反群集内における細菌種の増減を、DNAメタバーコーディングと呼ばれる手法で分析しました。その結果、ある栄養条件下においては各反復がほとんど同一な群集に遷移した一方で、別の栄養条件下では各反復が少数の異なる群集(「代替的な群集」)に遷移していくことが示唆されました。加えて、異なる群集に遷移しているかどうかを判別する手法を確立し、特定の栄養成分を含む条件では各反復が代替的な群集に遷移していることを実証しました。

本成果は、細菌群集において、微細な揺らぎがその後の遷移に重要な影響を持つことを示しています。今後、このように群集を大量反復観察するアプローチが広がることで、多種細菌群集の制御可能性を決める条件を探索することや、その結果を活かした頑健な群集制御手法の開発が期待されます。

本研究成果は、2024年1月22日に、国際学術誌「ISME Communications」にオンライン掲載されました。

微生物叢のゆらぎと安定性~多種細菌群集の「代替状態」と制御可能性~
図 研究の概要。多数の繰り返し観察から見えた、反復群集が代替的な群集へ遷移していく過程を示す。

研究者のコメント

「細菌群集は多種・多個体を含んだ複雑なシステムです。更にその群集自体は進化がもたらす適応の帰結ではなく、それぞれの文脈で進化した各種が集合してできた、ある種の現象のようなものだと考えられます。それにも関わらず、その遷移を多数回繰り返し観察してもある程度再現性を持った動態が観察されるという事実は、非常に興味深いと感じています。」

詳しい研究内容について

微生物叢のゆらぎと安定性 ―多種細菌群集の「代替状態」と制御可能性―

研究者情報

研究者名:東樹 宏和

生物工学一般
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