草原性絶滅危惧チョウ類と生息環境の保全方法を解明~アサマシジミ北海道亜種の生活史を踏まえた草刈りの有効性を実証~

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2024-03-28 国立遺伝学研究所

速水将人(北海道立総合研究機構)、中濵直之 (兵庫県立大学 兼 兵庫県立人と自然の博物館)、大脇淳(桜美林大学)、木下豪太(国立遺伝学研究所)、内田葉子 (北海道立総合研究機構)、小山信芳(丸瀬布昆虫生態館)、喜田和孝(丸瀬布昆虫生態館)らの研究グループは、草原性絶滅危惧チョウ類で国内希少野生動植物指定種のアサマシジミ北海道亜種の保全に効果的な生息地管理方法を解明しました。本研究では、アサマシジミ北海道亜種の保全地がある陸上自衛隊遠軽駐屯地演習場において、本種の生活サイクル(卵・幼虫・さなぎ・成虫)の中でもエサを食べない段階(卵期・さなぎ期)に草刈りを実施しました(図1)。その結果、同保全地に生息するチョウの種数・個体数および開花植物の種数・花数にマイナスの影響を与えることなく、アサマシジミ北海道亜種の幼虫や成虫の個体数、および本種のエサ植物ナンテンハギの被度(単位面積あたりに占める割合)と花数を増加させる効果があることを明らかにしました(図2)。

本研究は、現在絶滅が危ぶまれているアサマシジミ北海道亜種や、その他の草原性生物の生息環境の維持・保全に貢献する重要な成果と言えます。また、自衛隊演習場が貴重な絶滅危惧種の生息場所として機能していることを示しています。本種は、遠軽町以外では防風林にも生息が確認されていますが、筆者らのこれまでの研究で、下草刈りが行われる若い林や林縁が、本種のエサ植物ナンテンハギにとって好適な環境であることがわかっています。そのため、本種の遠軽町以外の生息地や、その周辺の防風林、未知の生息地がある可能性の高い地域でも、今回の研究成果を応用した管理計画を立案することによって、本種の生息環境を保全しつつ、その他の草原性生物の生息環境を拡大・創出する効果が期待できます。

本研究の一連の調査は、NPO法人丸瀬布昆虫同好会・遠軽町教育委員会丸瀬布教育センター・陸上自衛隊遠軽駐屯地の協力を得て実施されました。

本研究は、北海道立総合研究機構、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号21H02221)、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進(JPMEERF20224M02)、プロ・ナトゥーラ・ファンド第31期および第33期の助成を受けました。

本研究成果は、2024年3月28日(日本時間0時)に、国際科学誌「Journal of Insect Conservation」の電子版に掲載されました。


図1: 研究概要(アサマシジミ北海道亜種の生活サイクルを踏まえた草刈り時期と方法)


図2: 草刈りがアサマシジミ幼虫とエサ植物ナンテンハギの被度に与える効果(5月:左)、草刈りがアサマシジミ成虫・ナンテンハギ花数に与える効果(7月:右)。グラフ上のシンボルは統計的な有意差があることを示す(*:p < 0.05)


Effect of mowing on population maintenance of the endangered silver-studded blue butterfly, Plebejus subsolanus (Lepidoptera: Lycaenidae), throughout its life cycle in Japan

Masato Hayamizu, Naoyuki Nakahama, Atsushi Ohwaki, Gohta Kinoshita, Yoko Uchida, Nobuyoshi Koyama, Kazutaka Kida

Journal of Insect Conservation 2024 March 27 DOI:10.1007/s10841-024-00552-9

プレスリリース資料

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