フェロモンに多様性が生まれるしくみを発見

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厳密」と「柔軟」のあいだでフェロモンが愛を囁く

2019-01-29 国立遺伝学研究所
Asymmetric diversification of mating pheromones in fission yeast
Taisuke Seike, Chikashi Shimoda, Hironori Niki
PLoS Biology published 22 Jan 2019 DOI:10.1371/journal.pbio.3000101

地球上の多くの生物は、異性に存在を知らせるのに「性フェロモン」を使います。フェロモンの反応は通常、「同種」の異性に対して起こるため、種の維持に貢献しています。しかし、フェロモン分子の構造が変化すると、これら変化した集団は元々の種と交配ができなくなるため、結果として集団から隔離されます。こうして、隔離された集団は独立して、別の種として確立することにつながると考えられます。
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の清家泰介 日本学術振興会特別研究員(PD) (現 理化学研究所 基礎科学特別研究員)と仁木宏典 教授、および大阪市立大学の下田親 特任教授らの研究チームは、世界中に棲息する野生の分裂酵母(図1)を対象に、フェロモンとその受容体の遺伝子を解析しました。その結果、分裂酵母は、雌雄の片方のフェロモンの構造が柔軟に変化しうることを明らかにしました(図2)。この成果は、フェロモンの多様性が生まれる仕組みや進化の原動力の理解につながることが期待されます。
Figure1
図1:分裂酵母の交配
分裂酵母には二つの性 (Minus型とPlus型)が存在する。
M型とP型の細胞が発するそれぞれのフェロモンに反応して、相手の方に伸び、やがて「*」のところで接触し、融合(交配)する。
Figure1
図2:酵母の「厳密」かつ「柔軟」なフェロモン認識システム
M型フェロモンの認識は「厳密」であるが、それに比べてP型フェロモンの認識は「柔軟」であることが示唆された。この「厳密と柔軟」なフェロモン認識システムは、酵母が種を維持しつつ、多様性を生み出すのに貢献していると考えられる。

プレスリリース資料
フェロモンに多様性が生まれるしくみを発見
〜「厳密」と「柔軟」のあいだでフェロモンが愛を囁く〜
■ 概要
地球上䛾多くの生物は、異性に存在を知らせるのに「性フェロモン」を使います。フェロモンの反応は通常、 「同種」の異性に対して起こるため、種の維持に貢献しています。しかし、フェロモン分子の構造が変化すると、 これら変化した集団の元々の種と交配ができなくなるため、結果として集団から隔離されます。こうして、隔離さ れた集団は独立して、別の種として確立することにつながると考えられます。
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の清家泰介 日本学術振興会特別研究員(PD) (現 理化学研 究所 基礎科学特別研究員)と仁木宏典 教授、および大阪市立大学の下田親 特任教授ら䛾研究チームは、 世界中に棲息する野生の分裂酵母(図 1)を対象に、フェロモンとそ䛾受容体の遺伝子を解析しました。その結 果、分裂酵母は、雌雄の片方のフェロモンの構造が柔軟に変化しうることを明らかにしました(図 2)。この成果は、フェロモンの多様性が生まれる仕組みや進化の原動力の理解につながることが期待されます。
図 1: 分裂酵母の交配
分裂酵母に䛿二つの性 (Minus 型と Plus 型)が存在する。 M 型と P 型の細胞が発するそれぞれのフェロモンに反応して、 相手の方に伸び、やがて「*」のところで接触し、融合(交配)する。
図 2:酵母の「厳密」かつ「柔軟」なフェロモン 認識システム
M 型フェロモンの認識は「厳密」であるが、 それに比べて P 型フェロモンの認識は「柔軟」であることが示唆された。この「厳密と柔軟」な フェロモン認識システムは、酵母が種を維持 しつつ、多様性を生み出すのに貢献していると考えられる。

■ 成果掲載誌
本研究成果は、米国䛾オンライン科学雑誌『PLo㻿 Biology』に 2019 年 1 月 23 日午前 4 時(日本標準時)に 掲載されます。
論文タイトル:Asymmetric diversification of mating pheromones in fission yeast
(分裂酵母における性フェロモン䛾非対称な多様化)
著者:Taisuke Seike, Chikashi Shimoda, Hironori Niki (清家泰介, 下田親, 仁木宏典)

■ 研究の詳細

研究の背景
一つ䛾種からどのようにして新しい種が誕生するのかは、進化における最も注目すべき問題の䛾一つです。新 しい種の確立には、元々の種との交配を妨げる「生殖隔離(1)」が重要です。生殖隔離は、フェロモンによる異性の識別機構が鍵となっています。このフェロモンは、昆虫・両生類のような動物から酵母のような微生物まで、 多くの生物が体外に分泌するタンパク質で、異性を誘引するのに使われます。フェロモンとそれを受容する受 容体間の結合は、種ごとに厳密に保たれていますが(分子適合性(2)呼ばれる)、逆に、フェロモンの構造が変わ ると、受容体とはうまく結合できずに異性を引きつけることができなくなります。つまり、フェロモンが変化した集団は、生殖隔離によって元々の種と交配ができなくなり、新たな種として進化していく可能性があります。しかし、 これまでフェロモンに多様性が生まれる仕組みについては、よく分かっていませんでした。
 ●本研究の成果
本研究チーム䛿、まず世界各地に棲息する野生䛾分裂酵母のchizosaccharomyces pombe (150 種) (図 3) について、フェロモンとその受容体の遺伝子配列を解析(3)しました。

図 3:本研究で解析された野生の分裂酵母 S. pombe の分布
日本 3 種を含む世界䛾 22カ国以上の地 域から単離された150種の酵母を解析対象にした。
S. pombe には、2 つの性 (Minus 型と Plus 型)があり、これら異性間でフェロモンをやりとりします(図 1)。解析の結果、M 型細胞が発する M 型フェロモンとその受容体の構造は完全に同じであったのに対し、驚くべきこと に P 型細胞が発する P 型フェロモンとそ䛾受容体は、極めて多様化していました(図 4)。この 2 つのフェロモン に見られる多様性の違いは、近縁種のS. octosporus においても見られる普遍的な現象でした。

図 4: 分裂酵母の 2 つのフェロモン
世界各地で単離された 150 の野生酵母S. pombe を解析した結果、M 型フェロモンは全 て 1 種類のものが使われていたが、P 型フェ ロモンには 6 種類も䛾タイプがあることが分か った。P 型フェロモンの間で異なるアミノ酸を太 字・下線で示してある。
つまり、M 型フェロモンの認識は「厳密」に制御されていますが、P 型フェロモンの認識の比較的「柔軟」に変化 することができるのです。これらフェロモンによる「厳密さ」と「柔軟さ」の両方を兼ね備えた認識システムは、酵母が同種間の交配を保ちつつも、フェロモンの多様性を生み出すことを可能にしていると考えられます。こうし て、変異したフェロモンを特異的に感知できる変異した受容体が集団内に出現すると、それらの子孫䛿元々の集団から隔離され、新たな種として進化していくのかもしれません。
今後の期待
本研究により、分裂酵母は、フェロモンの分子適合性を変化させることが可能なフェロモン認識システム(図 2) を持つことが示唆されました。これまで、交配という重要なイベントを司るフェロモンの認識は「厳密である」と考 えられてきましたが、同時に「柔軟さ」も備わっており、これが生物の進化の原動力になっていると考えられます。

■ 用語解説

(1) 生殖隔離
二つの個体群の間で何らかの原因により生殖が起こらない状態。
(2) 分子適合性
二つのタンパク質分子の結合がどの程度適合するかどうか。
(3) 配列解析
異なる株間の特定の遺伝子のゲノム配列を比較し、変異の違いを解析する手法。

■ 研究体制と支援

本研究䛿、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所・微生物機能研究室にて、清家泰介 日本学術振興 会特別研究員(PD) (現 理化学研究所 基礎科学特別研究員)が中心となり、同研究室䛾仁木宏典 教授と大 阪市立大学・酵母遺伝資源センターの下田親 特任教授との協力の下、行われました。
本研究䛿、特別研究員奨励費 (JP15J03416) (代表: 清家泰介)、科研費 (JP17K15181) (代表: 清家泰介)、 公益財団法人・住友財団 基礎科学研究助成 (No. 160924) (代表: 清家泰介)、特定非営利活動法人・酵母細 胞研究会 地神芳文記念研究助成 (代表: 清家泰介)からの支援を受けて、行われました。

■ 問い合わせ先

<研究に関すること>
● 理化学研究所 生命機能科学研究センター 多階層生命動態研究チーム
基礎科学特別研究員 清家 泰介 (せいけ たいすけ)
●国立遺伝学研究所 微生物機能研究室 教授 仁木 宏典 (にき ひろ䛾り)
<報道担当> l 国立遺伝学研究所 リサーチ・アドミニストレーター室広報チーム 報道担当

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