2024-04-24 九州大学
ポイント
- 両親から受け継いだ遺伝子が受精後に正確に制御される仕組み(エピゲノム(※1))の解明が望まれています。
- 卵子と精子、それぞれにおいて、受精後に遺伝子が正常に働くためのDNA化学修飾(DNAメチル化(※2))を担うタンパク質の機能の詳細を明らかにしました。
- 男性や女性の不妊・流産の原因解明、治療法開発への応用など生殖医療へ貢献することが期待されます。
概要
国内で不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は18.2%、また死産・流産を経験したことのある夫婦の割合は全体の15.3%にのぼります。男女の不妊や流産の原因を明らかにし、その予防や治療に貢献するためには、卵子と精子それぞれの遺伝子が受精後に働く仕組み(エピゲノム)を解明することが望まれています。
九州大学生体防御医学研究所(当時)の久保直樹 特任講師(現・大阪大学微生物病研究所 遺伝子機能解析分野)と九州大学・生体防御医学研究所・高等研究院の佐々木裕之 特別主幹教授らの研究グループは、代表的なエピゲノム修飾の一つであるDNAメチル化を、マウス卵子、及び精子のDNAに正確に付加するタンパク質の機能的役割を明らかにしました。エピゲノムの実体はDNAのメチル化や(DNAに結合する)ヒストンタンパク質のメチル化などの化学修飾です。本研究グループは過去に、生殖細胞のDNAメチル化が、①受精後の胚の成長に必須であり、②DNAメチル化酵素のDNMT3Aとその補因子のDNMT3Lにより導入されることを発見しています。また、③卵子において、ヒストンH3タンパク質のH3K4メチル化の有無をDNMT3AのADDドメインというタンパク部位が認識して、正常なDNAメチル化を付加することを報告しました。しかし、もう一方のDNMT3Lが持つADDドメインとの関連や、さらには卵子に加えて精子ではどのようにADDドメインがDNAメチル化修飾の確立に寄与するのか、その仕組みは依然不明でした。そこで、本研究グループは、DNMT3AとDNMT3Lが共通して持つADDドメインの機能を共に消失させた雄、雌それぞれのマウス、そしてその精子と卵子を詳細に解析しました。
まず、DNMT3AとDNMT3Lの両方のADDドメインの機能喪失マウスの雄では、その精巣が明らかに小さく、精子の数、運動能も有意に低下していました。一方で、雌の卵巣、卵子のサイズ、形態はほとんど野生型と変化は見られませんでした。ところが、DNAメチル化修飾を全ゲノムで解析したところ、精子、卵子いずれも、ゲノム全般にわたって異常なDNAメチル化修飾となっており、特に卵子の方がより重度のDNAメチル化修飾の喪失が観察されました。そして、こうした変異型卵子から発生したマウス初期胚は、こうしたDNAメチル化異常のため、その後の発生も強く障害されていました。
今回、2つのDNAメチル化酵素DNMT3AとDNMT3Lの協調的な機能的役割を解明し、卵子と精子の遺伝子が受精後どのように働くかを決める仕組みの一端を明らかにしました。本研究は、将来的に不妊・流産の原因解明、治療法開発への応用など、生殖医療に役立つことが期待されます。
本研究成果は英国の雑誌「Nature Communications」に 2024 年 4月 16 日 (火) (日本時間)に掲載されました。
用語解説
(※1) エピゲノム制御
ゲノムに対して後天的に付加される情報。その実体はDNAおよびそれに結合するヒストンタンパク質へのメチル化などの化学修飾で、遺伝子の働きを調節する。
(※2) DNAメチル化
代表的なエピゲノム修飾の一つ。DNAの塩基配列中のシトシン(A,T,C,G,のC)にメチル基という化学修飾を加えることで、遺伝子の発現を調節する。通常、遺伝子の活性を抑制し、細胞分化や発生に影響を与え、またがんなどの疾患にも関与している。
論文情報
掲載誌:Nature Communications
タイトル:Combined and differential roles of ADD domains of DNMT3A and DNMT3L on DNA methylation landscapes in mouse germ cells
著者名:Naoki Kubo*, Ryuji Uehara, Shuhei Uemura, Hiroaki Ohishi, Kenjiro Shirane, and Hiroyuki Sasaki*
(*Co-corresponding author)
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-47699-2
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研究に関するお問合せ先
大阪大学 微生物病研究所 遺伝子機能解析分野 久保 直樹 特任講師
生体防御医学研究所・高等研究院 佐々木 裕之 特別主幹教授