2024-05-08 長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)は、名古屋大学、名古屋市立大学、藤田医科大学、東京都健康長寿医療センター、SOMPOホールディングス株式会社との共同研究で、生活習慣病の管理、運動、栄養指導、認知トレーニングからなる多因子介入プログラムが、認知機能低下を抑制できる可能性があることを明らかにしました。
この研究では、65歳から85歳までの軽度認知障害をもつ高齢者531名を対象に、18か月間のランダム化比較試験を行いました (J-MINT研究)。介入群は、リストバンド型活動量計、セルフモニタリング用のファイル、タブレットPCを受け取り、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の管理、週1回の運動教室 (全78回)、栄養相談 (全15回)、タブレットPCを用いた認知トレーニング (Brain HQ)を受けました。一方、対照群には、生活習慣病の管理と2か月に1回の健康情報提供が行われました。
介入群と対照群の、18か月間の認知機能の変化を比較すると、主要評価項目である認知機能のコンポジットスコア(*)では、統計的な有意差はみられませんでした。
サブ解析として運動教室の70%以上に参加したグループ、70%未満のグループ、対照群の認知機能の変化を比較しました。その結果、運動教室に70%以上参加していたグループでは、70%未満のグループ、対照群と比較して認知機能が改善していたことが示されました (図1)
図1 運動教室への参加率による多因子介入プログラムの効果
*:p<0.05 (介入群70%以上 vs 対照群),
†: p<0.05 (介入群70%以上 vs 介入群70%未満)
また、アルツハイマー病の危険因子として知られているアポリポ蛋白E遺伝子のE4多型の保因者に焦点を当てたサブグループ解析も行いました。介入群では認知機能が維持され、18か月間の認知機能の変化に統計学的な有意な差がみられました (図2)。
図2 アポリポ蛋白E遺伝子のE4多型の保因者における多因子介入プログラムの効果
さらに、認知症の血液バイオマーカーとされているアミロイドβ、p-tau181, NfL (neurofilament light chain), GFAP (glial fibrillary acidic protein)の測定結果に基づいてサブグループ解析を行いました。その結果、脳の神経細胞の炎症を反映するGFAPが上昇している参加者において、介入群では認知機能が維持され、18ヵ月間の認知機能の変化に統計学的な有意な差を認めました (図3)。
図3 GFAP値が上昇していた参加者における多因子介入プログラムの効果
*:p<0.05 (介入群vs 対照群)
この研究は、日本ではじめて多因子介入プログラムの認知機能低下の抑制効果を検証しました。継続的な多因子介入プログラムの実施が認知機能の改善につながる可能性があり、アポリポ蛋白E遺伝子のE4多型の保因者や血漿中のGFAPが上昇している者において、多因子介入プログラムの効果が得られやすい可能性が示されました。これらの結果は、わが国の認知症発症を減少させる大きな第一歩となることが期待されます。
J-MINT研究では、研究終了後1年毎に行われるフォローアップ調査を通じて、多因子介入プログラムの長期的な効果や認知症発症に対する抑制効果を検証します。また、J-MINT研究の成果を広く社会に普及させるため、2024年2月から、厚生労働省が実施する「中小企業イノベーション創出推進事業(令和4年度第2次補正予算)」における「リアルワールドデータを活用した疾患ハイリスク者の早期発見 AIシステム開発と予防介入の社会実装検証」にて、自治体での実施可能性の検証と広域展開を行って参ります(図4)。
図4 中小企業イノベーション創出推進事業で取り組むJ-MINTプログラムの社会実装
この研究成果は、2024年4月22日に、世界アルツハイマー協会の国際学術誌であるAlzheimer‘s & Dementiaに掲載されました。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の助成を受けて行われました。
- 認知症対策官民イノベーション実証基盤整備事業「認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究」
- 次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業 (患者層別化マーカー探索技術の開発)「血液バイオマーカーによる認知症の統合的層別化システムの開発」
- 認知症研究開発事業「血液バイオマーカーを用いた超早期アルツハイマー病コホートの構築」
(*):認知機能のコンポジットスコアとは
認知機能は、注意力、集中力、記憶力、言語理解、空間認識能力など、さまざまな要素で構成されています。コンポジットスコアはこれらの要素を総合的に評価するために、複数のテストや評価方法を組み合わせて算出されます。認知機能のコンポジットスコアは、個々の認知機能だけでなく、全体的な認知機能の状態を理解する上で重要な指標となります。
論文情報:Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementia: A randomized controlled trial Alzheimers Dement. 2024 Apr 22. doi: 10.1002/alz.13838.
論文リンク:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38646854/
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