2024-06-04 国立がん研究センター,ペプチドリーム株式会社
発表のポイント
- 淡明細胞型腎細胞がんの患者さんを対象に64Cu-PD-32766のPETイメージングのファースト・イン・ヒューマン試験(注1)を開始しました。
- PETイメージングを活用することにより、64Cu-PD-32766の診断的有用性に加え、治療用の放射性医薬品で治療した際の治療効果の可能性を検討(ラジオセラノスティクス(注2))することができます。
- 本研究で得られる臨床情報を活用することにより、放射性医薬品分野のさらなる臨床開発の加速につながることが期待できます。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:土井 俊彦、千葉県柏市、以下:国立がん研究センター東病院)とペプチドリーム株式会社(代表取締役社長:リード・パトリック、本社:神奈川県川崎市)は、淡明細胞型腎細胞がん患者さんを対象としてCarbonic Anhydrase IX(CA9)を標的とする64Cu標識ペプチドである64Cu-PD-32766を投与する特定臨床研究(以下、「本特定臨床研究」)において、国立がん研究センター東病院における最初の患者さんへの投与を実施しましたのでお知らせいたします。
取り組みの詳細
本特定臨床研究は、64Cu-PD-32766のファースト・イン・ヒューマン試験であり、2024年4月に国立がん研究センター東病院の臨床研究審査委員会で承認されました。本特定臨床研究は、初発及び再発、又は再発疑いのある淡明細胞型腎細胞がんの患者さんを対象とし、PETイメージングを用いて64Cu-PD-32766の安全性、薬物動態および病変部への集積性を確認すること等を目的としています。
本特定臨床研究について
研究名称 | 淡明細胞型腎細胞がん患者を対象とした64Cu-PD-32766の早期臨床試験 |
研究責任医師 | 稲木 杏吏(国立がん研究センター東病院) |
研究の目的 | 淡明細胞型腎細胞がん患者の初発例及び再発又は再発疑い患者を対象として、64Cu-PD-32766によるPET/CT検査の安全性、薬物動態及び被ばく線量を評価する。 |
研究対象者 | 遠隔転移病変または病側腎の全摘除後の摘除部位からの局所再発病変を有する淡明細胞型腎細胞がん患者 |
実施予定被験者数 | 6名 |
主たる評価項目 | 患者ごとのPETでの集積陽性率 |
副次的な評価項目 | 病変ごとのPETでの集積陽性率、安全性、薬物動態、推定被ばく線量 |
臨床研究実施計画番号:jRCTs031240046
CA9は淡明細胞型腎細胞がんに高発現(95%以上)する細胞表面のがん抗原で、正常細胞ではほとんど発現しないことから、淡明細胞型腎細胞がんの診断・治療における重要な標的として注目されています。ペプチドリーム株式会社は独自の創薬開発プラットフォームであるPDPS(Peptide Discovery Platform System)を活用するとともに子会社であるPDRファーマ株式会社においてin vivoイメージング(注3)および薬効試験を実施し、PD-32766を創製・開発いたしました。本特定臨床研究でPD-32766を診断用の放射性核種である64Cuで標識しPETイメージングのデータを取得することで、診断的有用性に関する情報を得られることに加え、治療用同位体で標識した際の治療効果の可能性に関する初期的な見解を得ることができます。また、そこで得られた情報を活用し、その後の臨床開発を加速することが可能になると考えています。
国立がん研究センター東病院 病院長 土井 俊彦 コメント
本特定臨床研究において64Cu-PD-32766が最初の淡明細胞型腎細胞がんの患者さんへの投与にまで至ったことを大変喜ばしく思っています。我々のミッションは日本における主要ながん拠点として、患者さんに革新的な治療を提供し、日本の医療を改善していくことです。ペプチドリームグループのがんを標的としたペプチドと診断・治療に活用できる放射性核種を組み合わせることは淡明細胞型腎細胞がんの患者さんに非常に有望な、新たな診断・治療法となる可能性があると期待しています。
ペプチドリーム株式会社 代表取締役社長CEO リード・パトリック コメント
ペプチドリームで創製されたCA9を標的とするPD-32766の国立がん研究センターでのファースト・イン・ヒューマン試験において、最初の患者さんへの投与が達成されたことを大変喜ばしく思います。この薬剤は、環状ペプチドとして同定されたPD-32766を64Cuで標識し、淡明細胞型腎細胞がんの患者さんの診断や治療に活用することを目指しています。これは当社グループが一丸となって取り組んできた成果であり、また国立がん研究センターとの協働においても重要な進捗と考えています。当社グループは、次世代の標的型放射性医薬品の創出に向けて深くコミットしており、ペプチド創薬における専門性を活かしてがん患者さんの治療のあり方に大きなインパクトを提供していきたいと考えています。
腎細胞がんについて
腎細胞がんは米国におけるがん患者数で9番目に多く、全世界のがん患者さんの2%を占めます。2020年において全世界で約43万人の患者さんが腎臓がんと診断され、そのうち約9割が腎細胞がんと推計されています。また、進行腎細胞がんの5年生存率が17%と、予後の悪いがんとしても知られており、既存の手術や薬物療法に加え新たな治療法の開発が望まれています。主に3つのタイプ(淡明細胞型腎細胞がん・多房嚢胞性腎細胞がん・乳頭状腎細胞がん)があることが知られており、淡明細胞型腎細胞がんが約7割を占めています。
参考資料
A novel Carbonic Anhydrase IX targeting radiopeptide, 64Cu-PD-32766 and 177Lu-PD32766, exhibit promising theranostic potential in ccRCC tumors. (American Association for Cancer Research (AACR) Annual Meeting 2024)
用語解説
注1 ファースト・イン・ヒューマン試験
人に対する投与が初めてとなる試験を「ファースト・イン・ヒューマン試験」と呼びます。
注2 ラジオセラノスティクス
ラジオセラノスティクスとは、診断に使用される核種と治療に使用される核種を利用して、治療と診断の両方を行うことを指します。セラノスティクスにより、がんの診断と治療を一体化し、診断により治療が有効である可能性の高い患者さんを絞り込んだり、治療の効果を随時把握する等の効果が期待できます。
注3 in vivoイメージング
放射性核種やその他の方法で標識した化合物を投与し、体内での挙動を観察することを指します。例えば、in vivoイメージング技術を用いることで、薬剤を投与した際に体内にどのように分布し、代謝・排泄されるか等の情報を視覚的に得ることができます。
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ/患者さんからのお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター
東病院 放射線診断科/先端医療開発センター 機能診断開発分野 稲木 杏吏
広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
ペプチドリーム株式会社
IR広報部 沖本
電話番号:044-223-6612
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院について
国⽴がん研究センター東病院では、すべての患者さんに世界レベルのがん医療を提供するため、様々な職種からなる「多職種チーム」で患者さんにとってベストの治療を選択し、きめ細かなサポートを⾏っています。ロボット⽀援⼿術や陽⼦線をはじめ、最新の医療機器を有し、内視鏡治療や体への負担が少ない低侵襲⼿術、また、薬物療法や数多くの治験に取り組んでいます。
URL:https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/index.html
ペプチドリームについて
ペプチドリーム株式会社(東証プライム市場 証券コード4587)は、特殊環状ペプチドから新たな革新的医薬品を産み出すことで、アンメット・メディカル・ニーズに応え、世界中の人々の生活の質を向上させることを目指しています。放射性医薬品(RI)領域において、完全子会社であるPDRファーマを通じて日本で放射性医薬品の販売を行っています。また、独自の創薬開発プラットフォームであるPDPS (Peptide Discovery Platform System)技術を活用し、革新的な放射性治療薬や放射性診断薬を創製し、自社または提携プログラムとして開発しています。Non-RI領域においては、PDPSを活用したペプチド医薬品、ペプチド-薬物複合体(PDC)および多機能ペプチド複合体(MPC)による治療薬・診断薬への展開を共同研究開発パートナーによる広範囲なグローバル・ネットワークを構築し、幅広く進めております。ペプチドリームの本社の所在地は川崎市です。当社や当社技術、パイプラインについての詳細については、https://www.peptidream.com(外部サイトにリンクします)をご覧ください。