2024-06-26 大阪公立大学
ポイント
◇光濃縮技術により、微量で低濃度なサンプルでも約5分で正確なウイルス計測が可能。
◇従来の製造方法では15~18時間かかっていた抗体のコーティング(固相化)を1分に短縮。
◇抗原抗体反応の大幅な加速により、さまざまな感染症、がん、認知症などの早期診断に貢献。
概要
大阪公立大学 研究推進機構 協創研究センター LAC-SYS研究所の飯田 琢也所長、床波 志保副所長、理学研究科の叶田 雅俊大学院生(博士後期課程2年)らの研究チームは、抗原抗体反応を検出原理とする検査手法であるイムノアッセイ※1に、光濃縮技術を取り入れた「光誘導イムノアッセイ技術」を新たに開発しました。研究チームは、500nmという極小のお椀構造(ボウル状構造)を持つ光濃縮基板(ナノボウル基板)を作製。それを用いることで、抗体をわずか1分でコーティング(固相化)し、レーザーポインターと同程度の微弱レーザー照射により超高効率な光濃縮を行い、タンパク質の迅速・高感度検出を実現しました。適用例として、人工唾液中の擬似ウイルス(新型コロナウイルスのスパイクタンパク質で修飾されたナノ粒子)を約5分で選択的に検出できること、また、2回目のレーザー照射(図1(右))無しの場合に比べて10~20倍高感度な計測ができることを実証しました。本研究成果により、煩雑な抗体コーティングのプロセスを短縮し、迅速かつ高感度なタンパク質検出を可能にしました。これにより、さまざまな感染症、がん、認知症などの早期診断に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024年6月26日(水)17時(日本時間)に、Springer Nature社が発行する国際学術誌「npj Biosensing」の創刊号にオンライン掲載されました。
図1 (左)1回目のレーザーでナノボウル基板上に抗体をコーティング (右)2回目のレーザーで擬似ウイルスを光濃縮で集積・抗体と反応
2020年に新型コロナウイルス感染症パンデミックが起こったとき、1日でも早く迅速で高感度な検査法を確立して人類を救いたいと思いました。本技術を普及させ、感染症だけでなく、がんや認知症などさまざまな病気の早期発見に貢献したいと思っています。
資金情報
本研究はJST未来社会創造事業「低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発 (JPMJMI21G1)」(研究開発代表者:飯田琢也)、JST創発的研究支援事業「バイオミメティック電極による外場誘導型エコシステムの創成(JPMJFR201O)」(研究代表者:床波志保)、AMEDウイルス等感染症対策技術開発事業「光濃縮による1ステップ超高感度ウイルス感染症検査システムの開発(No.JP20he0622017)」(研究代表者:飯田琢也)、科研費基盤研究(A)「光濃縮下での高密度系における生体分子のアフィニティー制御(21H04964)」(研究代表者:飯田琢也)、科研費特別研究員奨励費「非周期光濃縮基板のボトムアップ的作製法と超高感度バイオ分析技術の開発(No. JP23KJ1851)」(研究代表者:叶田雅俊)、大阪府立大学キープロジェクト(「LAC-SYSプロジェクト ―次世代バイオフォトニクスが拓く未来―」)などの支援の下で実施されました。
用語解説
※1 イムノアッセイ:タンパク質などの抗原と抗体の選択的な反応(抗原抗体反応)を利用して体液(血液、尿、唾液、汗、涙など)の中に含まれる物質の濃度を測定する生化学的な測定法。
掲載誌情報
【発表雑誌】
npj Biosensing
【論 文 名 】
High-throughput Light-induced Immunoassay with Milliwatt-level Laser under One-minute Optical Antibody-coating on Nanoparticle-imprinted Substrate
【著 者】
Masatoshi Kanoda, Kota Hayashi, Yumiko Takagi, Mamoru Tamura, Shiho Tokonami, and Takuya Iida
【掲載URL】
本研究では、飯田と床波は本研究を立ち上げ、研究デザインに等しく貢献しました。叶田、林、高木、飯田、床波は、ナノボウル基板の開発と抗体修飾ビーズの調整を行い、光濃縮の実験も共同で行いました。また、叶田、田村、飯田は理論計算による解析を行いました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学
大学院理学研究科/LAC-SYS研究所
教授/所長:飯田 琢也(いいだ たくや)
大学院工学研究科/LAC-SYS研究所
准教授/副所長:床波 志保(とこなみ しほ)
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課