2024-07-22 科学技術振興機構,東京大学,理化学研究所
ポイント
- 覚醒履歴に応じて睡眠の量が増え、質が高まる仕組みは十分に分かっていませんでした。
- 大脳皮質の抑制性神経が長時間の覚醒後の深く長い睡眠を誘導することが明らかとなりました。
- 眠気を定量的に記録し、適切に管理する手法の開発へとつながることが期待されます。
JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野の上田 泰己 教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 合成生物学研究チーム チームリーダー兼任)、昆 一弘 研究員(研究当時、現 Johns Hopkins University 博士研究員)らは、長時間の覚醒後に生じる長く深い睡眠(リバウンド睡眠)に大脳皮質の主要な抑制性神経であるパルブアルブミン(PV)発現神経の活動の適切な調節が重要であることを解明しました。
徹夜などで睡眠不足に陥ると強い眠気を感じ、その後の睡眠は従来よりも長く深くなる経験を誰しもが一度はしたことがあるでしょう。これは脳が覚醒していた履歴を記録し、その履歴に応じて必要な睡眠を補償する仕組み(睡眠恒常性)があることを示しています。しかし、脳内で睡眠恒常性がどのように実現されているのかはよく分かっていませんでした。
本研究グループは、マウスを実験的に睡眠不足にすることで、眠気が高まると大脳皮質のPV発現神経が活性化され、リバウンド睡眠が起きることを明らかにしました。さらに、たんぱく質リン酸化酵素であるCaMKⅡ(カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼⅡ)の活性化が、眠気に応じてPV発現神経を活性化させることでリバウンド睡眠を引き起こすことを解明しました。
本研究により、睡眠科学の大きな謎の1つである睡眠恒常性の分子・神経メカニズムの一端が明らかになりました。この結果から、眠気を定量的に把握しながら適切にコントロールする手法の開発へとつながることが期待されます。
本研究成果は、2024年7月18日(英国時間)発行の英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)
研究領域:「上田生体時間プロジェクト」(JPMJER2001)
研究総括:上田 泰己(東京大学 大学院医学系研究科 教授/理化学研究所 生命機能科学研究センター チームリーダー)
研究期間:令和2年10月~令和8年3月
睡眠・覚醒リズムをモデル系として「ヒトの理解に資するシステム生物学」を展開し、分子から社会に生きるヒト個体までを通貫する「生体時間」情報の理解を目指します。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(714KB)
<論文タイトル>
- “Cortical parvalbumin neurons are responsible for homeostatic sleep rebound through CaMKII activation”
- DOI:10.1038/s41467-024-50168-5
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
上田 泰己(ウエダ ヒロキ)
東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野 教授
<JST事業に関すること>
今林 文枝(イマバヤシ フミエ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 ICT/ライフイノベーショングループ
<報道担当>
科学技術振興機構 広報課
東京大学 大学院医学系研究科 総務チーム
理化学研究所 広報室 報道担当