一次性僧帽弁逆流症の肺高血圧評価における低負荷運動負荷心エコー図検査の有用性に関する報告

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2022-09-28 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の心臓血管内科 天野 雅史医師、泉 知里医師らの研究チームは、一次性僧帽弁逆流症(左室と左房の間にある僧帽弁機能が一部破綻し逆流を来す病気)患者に対する運動負荷心エコー図検査(自転車をこぎながら心エコー図検査を行い、運動による心臓の状態の変化をみる検査)における、ピーク時での運動誘発性肺高血圧評価の代わりになる評価基準として、低負荷時での運動誘発性肺高血圧評価の重要性を報告しました。本研究結果は、現地時間2022年9月25日付でScientific Reports誌に掲載されました。

■背景

明らかな症状を認めない一次性僧帽弁逆流症患者において、運動負荷心エコー図検査を用いて運動誘発性肺高血圧を評価することは手術適応を決める上での一助となることが知られています。一方、一次性僧帽弁逆流症患者における運動誘発性肺高血圧と予後の関係を報告した文献は限られており、さらに、高齢者において目一杯(症候限界)まで運動した時点(ピーク時)で著明な肺高血圧の有無を評価することは難しい側面があります。そこで我々は、当院で一次性僧帽弁逆流症に対して運動負荷心エコー図検査を施行した症例を解析し、運動誘発性肺高血圧と予後の関係について検討するとともに、その代替パラメターに関して検証することとしました。

■研究手法と成果

当院で一次性僧帽弁逆流症に対して運動負荷心エコー図検査を施行した123例(平均年齢65歳、男性:55%)の患者のうち、運動誘発性肺高血圧(ピーク時三尖弁逆流圧較差:TRPG≧50mmHg)は57例で認めました。運動負荷心エコー図検査後6カ月以内に手術した症例は65例で、残りの58例は内科フォローアップの方針となりました(Watchful waiting群)。この58例のWatchful waiting群における運動誘発性肺高血圧を認めた群の予後(心臓イベント発生率)は非運動誘発性肺高血圧群と比較して悪く(1年イベント回避率 48.1% vs. 97.0%)、一次性僧帽弁逆流症患者において運動負荷心エコー図検査を施行し運動誘発性肺高血圧を評価することの意義を再確認しました。
さらに、低負荷時のTRPGと安静時の左室e’がピーク時TRPGの独立した規定因子であり、58例のWatchful waiting群において低負荷時TRPG≧35mmHgはピーク時TRPG≧50mmHgと同様に運動負荷心エコー図検査施行後の予後と関連があることが判明しました。

低負荷時TRPG評価による予後層別化
低負荷時TRPG≧35mmHgの群ではイベント発生率が高い。

ピーク時TRPG(EIPH)評価による予後層別化
ピーク時TRPG≧50mmHgの群でも、低負荷時TRPG≧35mmHgと同様にイベント発生率が高い。

■今後の展望と課題

本研究の結果より、無症候性僧帽弁逆流症患者における手術適応判断において、運動負荷心エコー図検査の施行と運動誘発性肺高血圧症の評価は重要であることが確認されました。また、特に高齢者において、ピーク時まで運動せずとも低負荷による運動のみにおける肺高血圧評価にて、無症候性僧帽弁逆流症患者の予後が層別化できる可能性が示唆されました。今後、低負荷運動負荷心エコー図検査の意義を他の弁膜症や心筋症でも検証することで、弁膜症・心筋症における手術適応を考える際のより簡便なスクリーニング検査としての運動負荷心エコー図検査の立ち位置を確立する必要があります。

■発表論文情報

著者:Masashi Amano, Shoko Nakagawa, Kenji Moriuchi, Hitomi Nishimura, Yurie Tamai, Ayaka Mizumoto, Yoshiki Yanagi, Rika Yonezawa, Yutaka Demura, Yoshito Jo, Yuki Irie, Atsushi Okada, Takeshi Kitai, Makoto Amaki, Hideaki Kanzaki, Kengo Kusano, Teruo Noguchi, Kunihiro Nishimura, Chisato Izumi
題名:Substitute Parameters of Exercise-Induced Pulmonary Hypertension in Mitral regurgitation: Usefulness of Exercise Stress Echocardiography at Low warkload
掲載誌: Scentific reports

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国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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