骨肉腫を脂肪細胞へ変化させることに成功~TNIK阻害薬活用による新規治療法開発への期待~

ad
ad

2021-02-05 慶應義塾大学医学部,国立がん研究センター

慶應義塾大学医学部整形外科学教室の弘實透助教と国立がん研究センター研究所細胞情報学分野・連携研究室の増田万里主任研究員らの研究グループは、主に小児から青年期に大腿(ふともも)や膝関節(ひざ)周囲の骨に発生する悪性腫瘍である骨肉腫に対する新しい治療法の標的となる分子を発見しました。本研究グループはタンパク質リン酸化酵素のTNIK(TRAF2 and NCK-interacting protein kinase)が骨肉腫で高頻度に活性化しており、TNIKの阻害薬が骨肉腫細胞の増殖を抑制するのみならず腫瘍細胞を脂肪細胞に変化させることを、マウスを用いた動物実験で明らかにしました。
本研究成果は、2021年1月5日(米国東海岸時間)に、米国機関紙『JCI Insight』の電子版に掲載されました。

1.研究の背景と概要

私たちの体は、異なる役割を持つ様々な細胞から構成されております。
例えば皮膚と神経の細胞では形が異なるのみならず、発現している遺伝子や代謝経路も大きく異なります。本研究グループは、多くの患者の腫瘍組織や細胞を解析し、骨肉腫細胞を骨肉腫として維持していくには、TNIKというタンパク質リン酸化酵素が活性化していることが必須であることを見出しました。

骨肉腫細胞のTNIK遺伝子の発現を抑制すると、脂肪細胞特有の遺伝子にスイッチが入り、骨肉腫の細胞が脂肪細胞様に変化することが実験で明らかになりました。
さらに、NCB-0846(注1)というTNIKを阻害する薬剤でも同じように遺伝子や代謝経路の切り替えが起こり、マウスに移植した骨肉腫を脂肪組織に変えてしまうことが明らかになりました(図1)。
薬剤で骨肉腫細胞を安全な脂肪細胞に体内で変換できることを示した初めての研究になります。

図1. 骨肉腫細胞を移植し増殖させたたマウスに NCB-0846を投与すると脂肪組織に変化
図1. TNIK阻害薬により骨肉腫を脂肪細胞へ変化させる

マウスに骨肉腫細胞を移植すると、左図のように一部類骨(矢印で示す濃く赤色に染色された部分)を作りながら増殖する骨肉腫になりますが、NCB-0846をマウスに投与すると、右図のように脂肪組織(矢印で示す白く泡状に抜けたように見える部分)に変化します。

2.研究の成果と意義・今後の展開

手術と化学療法を組み合わせることで、骨肉腫の治療成績は近年大きく改善してきました。しかし、肺などの遠隔臓器に転移のある骨肉腫の場合、治療は今日でも困難で、5年生存率は20~30%にとどまっています。
また、骨肉腫は頻度が低い希少がんで、治療薬の開発が進んでいないのが現状です。
特定の分子を標的とした分子標的治療薬(注2)に有効なものはなく、多くの悪性腫瘍で効果が認められている新しい治療薬、免疫チェックポイント阻害薬(注3)も効果がないことが明らかになっています。

今回、本研究グループは化学療法が効かなかった患者では化学療法後に強くTNIKが発現していることも見出しています(図2)。
TNIKは、化学療法に抵抗性を示す「がん幹細胞」(注4)を誘導することが知られており、TNIKの発現が、化学療法が効かなかった原因となっていた可能性を示しています。

TNIK阻害薬を治療薬として実用化できれば、今まで治療効果がなかった多くの患者を助けることができ、骨肉腫の臨床に新たな局面がもたらされることが期待されます。

図2. グラフ:化学療法が効かなかった患者では化学療法後に強くTNIKが発現している
図2. 化学療法後の骨肉腫患者検体におけるTNIK発現量の比較

3.特記事項

本研究は、JSPS科研費JP 18K15249・JP20K18040・JP20K20474・JP16K14627・JP17H03603、リレー・フォー・ライフ・ジャパン(RFLJ)プロジェクト未来研究助成金、国立がんセンターがん研究開発費、の支援によって行われました。

4.論文

英文タイトル:Direct conversion of osteosarcoma to adipocytes by targeting TNIK
タイトル和訳:TNIKを標的とし骨肉腫を脂肪細胞へ直接変換する
著者名:弘實透、増田万里、菅野哲平、関田哲也、後藤尚子、青山徹、阪上貴豊、宇野佑子、
森山英樹、澤匡明、浅野尚文、中村雅也、松本守雄、中山ロバート、近藤格、川井章、
小林英介、山田哲司
掲載誌:JCI Insight(オンライン)
DOI:10.1172/jci.insight.137245

用語解説

(注1)NCB-0846:国立がん研究センターとカルナバイオサイエンス株式会社が共同研究で
開発した低分子化合物。

(注2)分子標的治療薬:がん細胞に特有の分子をねらい撃ちすることで効果を示す薬剤。
高い効果と安全性が期待できる。

(注3)免疫チェックポイント阻害薬:がん細胞を攻撃する免疫細胞ががん細胞に結合でき
ないように邪魔をしている分子を阻害する薬剤。我が国で開発された「オプジーボ」などがある。

(注4)がん幹細胞:がんの「根元」のような細胞で、冬眠したような状態で長期間潜み続け
るため、化学療法で根絶できず、がんの再発の原因と考えられる。NCB-0846はがん
幹細胞を効果的に死滅させることがわかっている。

問合せ先

慶應義塾大学信濃町キャンパス総務課
国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室

タイトルとURLをコピーしました