ラグビー選手におけるメンタルヘルスの実態

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ジャパンラグビートップリーグ選手におけるメンタルフィットネス*1の調査からの報告

2021-01-04 国立精神・神経医療研究センター

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部、認知行動療法センター、日本ラグビーフットボール選手会のグループは、ジャパンラグビートップリーグの男性ラグビー選手を対象に調査を実施し(2019年12月〜2020年1月)、メンタルヘルス不調の実態を報告しました。
調査に参加した251名のうち32.3%(81名)の選手が、過去一ヶ月間に心理的ストレスを、4.8%(12名)がうつ・不安障害の疑い、5.2%(13名)は重度のうつ・不安障害の疑いに相当する状態を経験していました(重度とは、社会機能に支障をきたす程度です)。また、7.6%(19名)は、過去2週間に希死念慮(自分の人生を終わらせることを考えること)を経験していました。また、体調変化、お酒のトラブル、出場機会がない、競技力の低下、引退後の生活を意識している選手で、これらのメンタルヘルス不調を抱えている可能性が高いことが示されました。
海外の先進諸国では、近年アスリートのメンタルヘルス支援策に関する議論がさかんに行われていますが、日本アスリートにおける専門的支援が必要な状態を含めたメンタルヘルス上の課題について国際学術誌で報告したのは本研究が初めてです。このことは、海外諸国との国際的な議論の場に日本が加わるため大きな一歩だと考えています。本知見は、海外アスリートと同様に、日本のラグビー選手でもメンタルヘルスの問題は珍しくないことを示しており、日本でも、アスリートのメンタルヘルス支援の整備を検討する必要があると考えられます。
本研究成果は、日本時間2021年1月29日(金曜日)にInternational Journal of Environmental Research and Public Healthに掲載されました。

研究の背景

近年スポーツ界では、“メンタル(心の状態)”が注目されています。しかし多くはメンタルタフネスやストレングスなど「より強くなるためにどうしたらいいのか?」という文脈で使われており、メンタルヘルスは日本ではあまり注目されていません。しかし、メンタルタフネスやストレングスを鍛えるには、良好なメンタルヘルス(心の健康)が欠かせません。
国際的には、アスリートのメンタルヘルスケアの開発が進められています。国際オリンピック委員会などから、この数年で、少なくとも7件の声明が発表されました。この声明では、「アスリートのメンタルヘルス不調の経験は珍しくない」「競技パフォーマンスにも影響する」「身体の不調と同様に早めの気づきと適切な対処が大切である」「回復可能である」「アスリートのためのメンタルヘルス支援策の整備が急務である」ことが述べられています。
これらの声明は、数々の調査研究知見を基にしていましたが、それらの研究知見は、欧米諸国、オーストラリアからの発表がほとんどで、日本からの研究は含まれていませんでした。アスリートのメンタルヘルスケアは、日本では、個人やチームレベルの実践は存在する可能性があるものの体系的な整備には至っていない状況です。そこで、私たちは、日本のアスリートのメンタルヘルス実態を把握するため、ジャパンラグビートップリーグ選手の心理的ストレス、うつ・不安障害が疑われる状態や希死念慮を抱える選手の割合、それらのリスク要因を調べました。

研究の内容

方法:2019年12月〜2020年1月、日本ラグビーフットボール選手会から各選手に、webアンケート調査が配布され、調査説明に同意した選手から回答を得ました。調査項目には、うつ病・不安障害が疑われる状態(K6*2)及び希死念慮の評価(BDSA*3のうち1項目)が含まれました。基本属性、生活上の出来事や体調の変化なども含まれました。本調査を分析するにあたっては、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の承認を受けて実施しました。
結果: 251名から回答があり、このうち、32.3%(81名)がこの一ヶ月間に心理的ストレス、4.8%(12名)はうつ・不安障害の疑い、5.2%(13名)は、重度のうつ・不安障害の疑いに相当する状態を経験していました(重度とは、社会機能に支障をきたす程度)。また、7.6%(19名)は、過去2週間に希死念慮(自分の人生を終わらせることを考えること)を経験していました(図1)。何らかのメンタルヘルス不調(心理的ストレス〜重度のうつ・不安障害の疑い)を抱える選手では、不調のない選手に比べて、「疲労、食欲の変化、体重の変化、睡眠の問題、お酒関係のトラブル、経済的な変化、試合に出られなかった、競技力の低下、引退後の生活について考えた」といった経験や体調の変化を高い割合で経験していました(図2)。
結果から言えること
本調査に参加した選手では、2.4人に1人の割合で、何らかのメンタルヘルス不調を経験していました。10人に1人は、うつ・不安障害の疑いあるいは重度のうつ・不安障害が疑われる状態でした。希死念慮は、13人に1人に認められました。この結果は、海外で示されてきた知見と似通っていました。日本のアスリートであるラグビー選手において、海外アスリートや、一般人と同様にメンタルヘルス上の課題を経験している可能性があることを示しました。

今後の展望

本調査は、アスリートと研究者の共同プロジェクトから生まれた取り組みでした。このプロジェクトは、日本のスポーツ界において、メンタルフィットネスへの意識を高め、アスリートへの有効なメンタルヘルス支援策を開発することを目的にしています。本研究では、科学的根拠に基づく支援策の開発のため、最初のステップである実態把握を行いました。ただし、日本のアスリート全体の傾向をより正確に知るには、他競技のアスリートや女性アスリートでも同様の調査実施が必要です。また、より具体的な不調要因の検討には、シーズン中を含めて経時的な変化を捉える複数時点での調査を行う必要があります。
この研究に関連して、アスリートがメンタルフィットネスに関するメッセージを発信するwebサイト「よわいはつよいプロジェクト」を立ち上げました(図3)。アスリートが、⼼の状態を認識し、受け入れ、困難への柔軟な対応力を高めるための情報を発信します。また、つらいことを一人で耐えるという対処ではなく解決すべき課題として信頼できる人と共有し支え合い、共に問題を解決して前に進むというメッセージの発信を行う「場」を提供しています。
現在のプロジェクトチームは、研究者、臨床家、アスリートの小規模のメンバーで構成されるため、その活動規模に限界があることも認識しています。国内アスリートのメンタルフィットネスに関する研究規模の拡大と同時に、持続可能な組織体制の構築も必要です。そのためには、今後、民間企業等との協働も含めて、領域全体で発展しなければならないと考えています。

図1:メンタルヘルス不調者の割合―海外アスリートや一般成人との比較

図2:トップリーグのメンタルヘルス不調者の傾向

図3:よわいはつよいプロジェクトポスター(URL:https://yowatsuyo.com/)

論文情報

雑誌名:International Journal of Environmental Research and Public Health
論文タイトル:Anxiety and Depression Symptoms and Suicidal Ideation in Japan Rugby Top League Players
著者:Yasutaka Ojio*, Asami Matsunaga, Kensuke Hatakeyama, Shin Kawamura, Masanori Horiguchi, Goro Yoshitani, Ayako Kanie, Masaru Horikoshi, Chiyo Fujii
DOI:10.3390/ijerph18031205
URL:https://doi.org/10.3390/ijerph18031205

用語解説

*1メンタルフィットネス:⼼の状態を正しく認識し、受け容れて、柔軟に対応する⼒。心の健康やそのケアの必要性について、より受け入れやすいフレーズとして、ニュージーランドラグビー協会が発案し使用している。

*2K6: 過去30日間のメンタルヘルス状況。合計得点は0点から24点までで、得点が高いほど心理的ストレスが強いことを意味する。5-10点は心理的ストレス、11-12点はうつ・不安障害の疑い、13-24点は重度のうつ・不安障害が疑われる状態の可能性がある。

*3BDSA(Baron Depression Screener for Athletes):アスリートに特化した抑うつの評価尺度。合計得点は0点から20点までで、得点が高いほどうつ症状の傾向が強いこと意味する。今回は10項目のうち「自分の人生を終わらせることを考えている」により希死念慮の有無を評価した。

よわいはつよいプロジェクト

ウェブサイトURL:https://yowatsuyo.com/

本研究への支援

公益財団法人トヨタ財団2019年度「先端技術と共創する新たな人間社会」(代表者 小塩靖崇)

お問い合わせ先

【研究に関するお問い合わせ】
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部
小塩靖崇(おじおやすたか)

【報道に関するお問い合わせ】
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 総務課 広報係

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