機械学習を用いて気象データと暦情報から一日あたりの平均気温や気温差などによる院外心停止発症リスクを高精度に予測することに成功

ad

2021-05-18 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)予防医学・疫学情報部の中島啓裕 客員研究員(現ミシガン大学)、尾形宗士郎 上級研究員、西村邦宏 部長、野口暉夫 副院長らの研究グループは、機械学習を用いて気象観測データと暦データを基にした院外心停止発症予測モデルを世界で初めて作成しました。
この研究は、総務省消防庁によるウツタイン様式救急蘇生統計データとWeather company社による高解像度気象データを用いた観察研究で、Heart誌に令和3年5月18日付で掲載されました。

概要

院外心停止は公衆衛生上の重要な問題であり、本邦において年間約110,000件発症しています。蘇生科学の目覚ましい発達にも関わらず、社会復帰率は約7%前後と極めて低く、社会復帰率改善は先進諸国の喫緊の課題です。これまで蘇生科学の研究は主に病院前救護体制および病院収容後の治療に焦点が当てられてきました。研究グループは、“院外心停止発症の要因”に焦点を当て、過去の研究で心血管疾患と気温に関係性があるという報告から、気象条件をもとに日々変動する院外心停止発症リスクを予測するモデルの作成を行いました。
本研究は、総務省消防庁によるウツタイン様式救急蘇生統計データとWeather Company社の高解像度気象データを用いました。2005年1月~2013年12月を訓練データセットとして、一日あたりの心停止発症数を予測する機械学習モデルを作成し、2014年1月~2015年12月のデータを用いて本予測モデルの精度を試験し、予報システムに広く使用されている平均絶対誤差(MAE)と平均絶対パーセント誤差(MAPE)を用いて評価しました。MAE、MAPEともに低いほど予測精度が高いことを示し、一般的にMAPEは10%以下で高精度であるとされています。研究期間中に登録された心原性院外心停止661,052件(訓練モデル 525,374件および試験モデル 135,678件)を解析対象とし、気象データのみ使用したモデル、暦データのみを使用したモデルおよび気象と暦データを組み合わせたモデルを作成し、予測精度をそれぞれ評価しました。
結果、気象と暦データを組み合わせたモデルは訓練データセットにおいてMAE 1.314、MAPE 7.007%と他モデルと比較して最も精度が高く、試験データセットにおいてもMAE 1.547、MAPE 7.788%と非常に高い予測精度を示しました。また、心停止発症数予測において強く関連した因子は、気象データでは低い平均気温、日内・日間の大きな気温差であり、暦データでは日曜日、月曜日、祝日、冬季(12月~2月)でした。

本研究の意義

本研究において、気象観測データと暦データを用いた院外心停止発症予測モデルは高精度で院外心停止の発症を予測することに成功しました。過去に気温と心血管疾患の関係性を報告した論文(Danet S, et al. Unhealthy effects of atmospheric temperature and pressure on the occurrence of myocardial infarction and coronary deaths. A 10-year survey: the Lille-World Health Organization MONICA project (Monitoring trends and determinants in cardiovascular disease). Circulation 1999;100(1):E1-7)はありますが、これまでに複数の気象因子を用いた研究はなく、本研究では機械学習を用いることで複数の因子を使用し、さらには日内・日間の気温差による院外心停止発症リスクについて調べることに成功しました。
気象情報を院外心停止発症予測モデルに使用する利点として、気象予報は2週間先の未来まで予測可能なこととが考えられます。将来的には、循環器病をもつ患者さんに対して、本研究で得られた院外心停止発症リスクの高い日の情報を事前に提供することで、実際に心停止発症を減らすことができるかを検証したいと考えております。ただし、本研究で使用した院外心停止データは都道府県レベルの粒度であり、さらに心停止発症場所(屋外、屋内)に関する情報がないため実用化のためには、さらなる研究が必要と考えます。

発表論文情報

著者:Takahiro Nakashima, Soshiro Ogata, Teruo Noguchi, Yoshio Tahara, Daisuke Onozuka, Satoshi Kato, Yoshiki Yamagata, Sunao Kojima, Taku Iwami, Tetsuya Sakamoto, Ken Nagao, Hiroshi Nonogi, Satoshi Yasuda, Koji Iihara, Robert W Neumar, and Kunihiro Nishimura
題名:A machine learning model for predicting out-of-hospital cardiac arrests using meteorological and chronological data
掲載誌:Heart

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • 環境研究総合推進費(気候変動の暑熱と高齢化社会の脆弱性に対する健康と環境の好循環の政策)
  • 科研費(若手研究A:人工知能を用いた気象観測データを基にした心原性院外心停止の新規予測モデルの開発20K17914)
<参考図表>

図1. 一日の院外心停止発症数の観測値と予測値の比較
青色の線は日本の一日あたりの心停止発症数の観測値を示し、赤色の線は予測モデルによる予測値を示す。A) 気象データのみで作成した予測モデル、B)暦データのみで作成した予測モデル、C)気象と暦データを組み合わせたモデル

* 一般的に, MAPEは<10%で高い予測精度、10% to 20%, 良好な予測精度、20% to 50%で妥当な予測精度および50%以上で低い予測精度と考えられる。
MAE, 平均絶対誤差; MAPE, 平均絶対パーセント誤差

ad

医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました