2040年までの長期循環器病死亡者数を47都道府県ごと及び全国レベルで高精度に予測するモデルの開発に成功

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2022-11-15 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の予防医学・疫学情報部は、the University of Liverpool(Liverpool, United Kingdom, Chancellor:Colm Tóibín)との共同研究で、将来の循環器病死亡数を47都道府県毎及び全国レベルで高精度に予測しました。全国レベルの将来の冠動脈疾患死亡数は男性で微減、女性で減少と予測され、将来の脳卒中死亡数は男性で減少、女性で微減と予測されました。冠動脈疾患と脳卒中の予測発症数は地域差があることも見られました。この研究成果を当センター予防医学・疫学情報部の清重映里(リサーチフェロー)、尾形宗士郎(室長)、西村邦宏(部長)、University of Liverpool Department of Public HealthのDr. Chris KypridemosとProfessor Martin O’Flahertyらが、The Lancet Regional Health – Western Pacific誌に公表し、2022年11月15日にオンライン版が掲載されました。

■背景

循環器病による死亡は日本の死因の24.8%を占め、今後高齢化の影響でさらに増加すると言われています。また、循環器病の治療・ケアは莫大な医療費を要するため、循環器病死亡の将来動向を精緻に予測することは、健康寿命延伸・医療費抑制の医療政策立案に重要です。

高精度な将来死亡予測には、循環器病死亡数の推移に影響する年齢・時代・世代の効果及びそれらの時間変化を取り込んだモデルが必要と、アメリカとイギリスの将来死亡数予測において実証されています。疾患死亡数の推移に対する年齢・時代・世代の効果とその時間変化を推定可能な手法として、Bayesian age-period-cohort (BPAC)モデルがあります。しかし、本邦においてBAPCモデルを用いた循環器死亡の高精度な将来予測は実施されていません。

また、本邦の循環器病死亡数は47都道府県間で差があることが報告されており、この地域差を考慮してBAPCモデルを作成する必要があります。地域差を考慮することは、アメリカやイギリスでのBAPCモデルの先行実証においても実施されていません。

そこで我々はBAPCモデルによって、日本全国レベル及び47都道府県毎の循環器病(冠動脈疾患と脳卒中)死亡数を男女別に2040年まで予測しました

■研究手法と成果

本研究は日本居住の30歳以上の男女を対象にしています。政府統計と国立社会保障・人口問題研究所の公開データを基にBAPCモデルを作成しました。47都道府県ごと・男女別に2020年から2040年の冠動脈疾患と脳卒中の将来死亡予測を求めた後、日本全国レベルの将来死亡数を算出しました。

BPACモデルでは、日本全国レベルの将来の冠動脈疾患死亡数は男性で微減、女性で減少と予測され、将来の脳卒中死亡数は男性で減少、女性で微減と予測されました(図1)。なお、BAPCモデルによる予測は従来手法よりも予測精度が良いという結果を得ました。

また、ほとんど全ての都道府県においても、冠動脈疾患及び脳卒中は今後減少すると予測されました。2040年の人口10万人当たりの年齢調整死亡率の予測値の都道府県間比較すると、冠動脈疾患では都会とその周辺地域が他地域より高く、脳卒中では東北地域が現在と同様に他地域より高いという結果が得られました(図2)。

■今後の展望と課題

本邦初の47都道府県の地域差が考慮されたBAPCモデルによる精緻な循環器病死亡将来予測により、日本全国レベルとほとんどの都道府県で冠動脈疾患と脳卒中の死亡数は2020年から2040年で減少する結果を得ました。この結果は、医療政策立案者がより良い医療政策を提案することに役立ち、加えて地域差の是正に有用であると考えられます。今後、我々はthe University of Liverpoolとの共同研究を継続し、循環器病対策の費用対効果を精緻に検討し、エビデンスに基づく医療政策立案をサポートする研究を実施します。

(図1)1995年から2040年の循環器病死亡予測
赤色がBAPCモデルによる予測。ほかの3モデル(従来モデル)よりも予測精度が良い。

(図2)都道府県別における2040年の人口10万人当たりの年齢調整死亡率の予測値
赤色は年齢調整死亡率が高く、青色は値が低いことを示す。

■発表論文情報

著者:Eri Kiyoshige, Soshiro Ogata, Martin O’Flaherty, Simon Capewell, Misa Takegami, Koji Iihara,Chris Kypridemos, Kunihiro Nishimura
題名:Projections of future coronary heart disease and stroke mortality in Japan until 2040: a Bayesian age-period-cohort analysis
掲載誌:The Lancet Regional Health – Western Pacific

■謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業22FA1015
・日本学術振興会科学研究費補助金 若手研究 JP22K17821
・国立研究開発法人国立循環器病研究センター 循環器病研究開発費(部長21-1-6・若手 21-6-8)

報道関係の方からのお問い合わせ
国立循環器病研究センター企画経営部広報企画室

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