光電変換色素NK-5962の神経保護効果を発見!

ad
ad

2021-09-24 岡山大学,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 岡山市の株式会社林原(NAGASEグループ)が製造する光電変換色素NK-5962は光電変換色素を結合したポリエチレン薄膜の人工網膜(光電変換色素薄膜型人工網膜OURePTM)の部材です。
  • NK-5962分子には光とは関係なく、アポトーシスによる網膜神経細胞死を抑制する作用があることを以前から見出していました。
  • 2018年より日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の支援により、東京大学、大阪大学と共同研究を行い、NK-5962の薬物体内動態を調べました。
概要

岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野(眼科)の松尾俊彦教授、同大学院ヘルスシステム統合科学研究科の劉詩卉研究員、同学術研究院自然科学学域(工)高分子材料学分野の内田哲也准教授は、2018年より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の支援に基づいて、東京大学創薬機構構造展開ユニットの金光佳世子特任講師および石井真由美特任研究員、大阪大学大学院薬学研究科薬剤学分野の中川晋作教授と共同研究を行い、岡山市の株式会社林原が製造するNK-5962の薬物体内動態を調べました。その結果、NK-5962の静脈注射によって効果を発揮する十分量の眼球内濃度が得られることが分かりました。NK-5962は光電変換色素薄膜型人工網膜(OURePTM)の部材であり、その分子自体に光とは関係なく網膜神経細胞死を抑制する効果があることが分かっています。さらに、静岡県立大学薬学部薬剤学分野の尾上誠良(おのうえ さとみ)教授との共同研究でNK-5962には光毒性がないことも示しました。

本研究成果は、2021年6月21日、スイスの科学誌「life」に掲載されました。

網膜色素変性など変性疾患には治療薬がなく、NK-5962は疾患の進行を遅らせて視力を維持する医薬品の候補になると期待されます。

発表内容
現状

網膜色素変性は、視細胞が徐々に死滅してゆく遺伝性疾患です。視野が次第に狭くなり、最終的には視力が低下して失明に至ります。その治療方法は残念ながら現状ではありません。治療として期待されるのは、網膜神経細胞死を遅らせる医薬品ですが、現状ではこのような医薬品はありません。

岡山大学では、アメリカのFDAで承認された人工網膜(Argus II)とは全く異なる世界初の新方式である「光電変換色素薄膜型」の人工網膜を2002年から医工連携で研究開発してきました。光を吸収して電位差を出力する光電変換色素分子をポリエチレン薄膜(フィルム)に化学結合した岡山大学方式の人工網膜OURePTMです。この新方式の人工網膜は、電流を出力するのではなく、光を受けて電位差(変位電流)を出力し、近傍の神経細胞を刺激することができます。

これまで、「光電変換色素薄膜型」の人工網膜を半年間、網膜変性ラット(RCSラット)の眼球網膜下に植込んだ試験で、人工網膜に接する網膜組織では神経細胞死が抑制されていることに気づきました。そこで光電変換色素NK-5962自体を網膜変性ラットの眼球硝子体に注射してみると、網膜神経細胞死が抑制されることが明らかになりました。この神経細胞死抑制効果、つまり神経保護効果は、光がない中でも見られ、NK-5962の光電変換色素としての作用ではなく、別の作用機序があると考えて、現在、次世代シークエンサによる網羅的発現解析を行って手がかりを探しています(未発表)。

研究成果の内容

以前私たちが行った研究のデータを使って、培養網膜細胞を使った試験でNK-5962の50%阻害濃度(死細胞の割合を50%まで抑制する濃度)を計算すると、NK-5962をラット眼球の硝子体に注射した場合の50%効果濃度(NK-5962を注射した眼球と生理食塩水のみを注射した眼球とでアポトーシスを起こした細胞数を比較し、アポトーシス細胞の数が50%(実際は56%)に低下したときの推定硝子体内濃度)とほぼ一致しました。これらの計算に基づいて、まず試験管内で薬物体内動態を推測するADME(1)試験を行いました。その結果に基づいて、ラットに経口投与する量、静脈注射する量を決定し、NK-5962を実際にラットに投与して血液中および眼球内濃度を測定しました。一方、NK-5962を点眼した場合の眼球内濃度も測定しました。その結果、経口投与や点眼では眼球内に十分量のNK-5962は移行しなかったのですが、静脈注射による投与の場合は硝子体内注射した場合と同じくらいのNK-5962が眼球内に移行していました。

社会的な意義

網膜色素変性などの進行性変性疾患では、進行をゆっくりさせて、現在ある視力や視野を少しでも長い間、維持するのが最良の治療です。現在残念ながらこのような薬物はありません。網膜色素変性などの疾患では神経細胞がアポトーシスで死滅していきます。そこで、網膜神経細胞死を抑制する薬物があれば長期間投与することによって変性疾患の進行を緩やかにできるのではないかと考えられます。長期間投与する必要があるので、点眼や内服薬であることが望ましいのですが、今回の試験結果からNK-5962を静脈投与すると眼球内に十分量が移行することが分かりました。今後、剤型を工夫して内服や点眼でも眼球内に移行しやすいNK-5962製剤を開発していきたいと考えています。NK-5962はすべての生物学的安全性試験で毒性はなく、その観点からは有望な薬物と考えています。

論文情報等
論文名
Photoelectric dye, NK-5962, as a potential drug for preventing retinal neurons from apoptosis:pharmacokinetic studies based on review of the evidence.
掲載誌
life
著者
Toshihiko Matsuo, Shihui Liu, Tetsuya Uchida, Satomi Onoue, Shinsaku Nakagawa,Mayumi Ishii, Kayoko Kanamitsu
DOI
10.3390/life11060591
URL
https://www.mdpi.com/2075-1729/11/6/591
岡山大学プレスリリースURL
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id871.html
研究資金

本研究は、日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業および創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の支援を受けて実施しました。

補足

NK-5962のラット硝子体内注射の論文を下記に公開しています。

論文名
Photoelectric dye used for Okayama University-type retinal prosthesis reduces the apoptosis of photoreceptor cells.
掲載誌
Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics
著者
Shihui Liu, Toshihiko Matsuo, Osamu Hosoya, Tetsuya Uchida
DOI
0.1089/jop.2016.0093
URL
https://www.liebertpub.com/doi/pdfplus/10.1089/jop.2016.0093

人工網膜の総説を下記に公開しています。

論文名
Photoelectric dye-based retinal prosthesis(OUReP)as a novel type of artificial retina.
掲載誌
Internal Medicine Review
著者
Toshihiko Matsuo, Tetsuya Uchida
DOI
10.18103/imr.v7i1.916
URL
https://internalmedicinereview.org/index.php/imr/article/view/916
用語説明
(1)ADME(アドメ)
生体に投与された薬物が、吸収されて体循環血液中に入り、生体内に分布し、肝臓などで代謝され、尿中などに排泄されて生体内から消失する過程。吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)の頭文字である。これらの速度過程を記述する領域を薬物動態(PK; Pharmacokinetics あるいは DMPK; Drug Metabolism and Pharmacokinetics)とよぶ。医薬品の開発においてADME研究は重要な位置を占めている。(公益社団法人日本薬学会 薬学用語解説より)
日本薬学会 薬学用語解説
お問い合わせ

岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(岡山大学病院眼科)
教授 松尾俊彦

タイトルとURLをコピーしました