半世紀ぶりとなるモミジヒトデ科の新種発見

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2024-07-31 東京大学

発表のポイント

  • 日本各地の浅海域〜深海域から4種のモミジヒトデ科(ヒトデ綱:モミジガイ目)を発見した。
  • 標本観察の結果、51年ぶりとなるモミジヒトデ科の新種や日本で初めて記録された属の存在が明らかになった。
  • モミジヒトデ科の多様性に関する研究が進むことで、砂泥性のヒトデの進化に関する新たな側面が明らかになることが期待される。

半世紀ぶりとなるモミジヒトデ科の新種発見
新種のヒトデ「ホウエイミヤビモミジヒトデ」

発表概要

東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所と新江ノ島水族館、ふくしま海洋科学館、山口県水産研究センターのメンバーからなる共同研究グループは、北海道と静岡県の漁業者や、山口県漁業調査船かいせいによる桁網調査(注1)で混獲されたヒトデ類の分類学的な研究を行った。

その結果、4種のモミジヒトデ科が認められ、新種のParagonaster 属(新称:ミヤビモミジヒトデ属)や、日本で初となるGephyreaster属(新称:ダイオウモミジヒトデ属)を報告した。化石種を除くモミジヒトデ科の新種が発見されたのは51年ぶりの快挙となる。

本研究成果は、研究が十分に進んでいないモミジヒトデ科の種の正確な把握を行う重要な足掛かりとなるとともに、漁業者や水族館、大学などの研究機関が足並みを揃えて多様性研究に取り組むことの重要性を示す。

発表内容

ヒトデ綱は、星型の体をもった棘皮動物門(注2)の一群で、現在までに世界から約2000種が知られる。本研究の対象であるモミジヒトデ科は、ブロック状の骨に縁取られた扁平な体をもち、管足(注3)の先端が吸盤状であることから(図1)、長らくゴカクヒトデ科の一員に分類されてきたが、近年の遺伝学的な研究により2科は全く別の分類群であることが明らかになった。モミジヒトデ科は、世界各地の浅海から深海までに生息することが知られており、日本国内からはモミジヒトデ属とミヤビモミジヒトデ属の各2種が知られていた。


図1:ホウエイミヤビモミジヒトデの生時の画像。
1. 背側から見た体表、2. 腹側から見た体表、円は管足を示す。

2021年〜2023年に東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の小林格学術専門職員と幸塚久典技術専門職員を中心とする共同研究グループは、新江ノ島水族館、ふくしま海洋科学館、山口県水産研究センターの職員とともに、北海道と静岡県の漁業者によるエビ・カニ籠漁業や、山口県漁業調査船かいせいによる桁網調査で混獲されたモミジヒトデ科を研究した。その結果、均整の取れた赤く美しい体をもったミヤビモミジヒトデ属の新種(図2)が認められたため、標本を採集した漁船「寶榮丸(ほうえいまる)」に因み、Paragonaster hoeimaruae(新称:ホウエイミヤビモミジヒトデ)と命名した。

新種の発見に加え、本研究では3種のモミジヒトデ科(図2)の新産地を報告した。とりわけ、北海道羅臼町で発見されたダイオウモミジヒトデ属はこれまでアメリカ西海岸~ベーリング海でしか報告例がなかったため、日本からは初の報告となった。ダイオウモミジヒトデ属は直径およそ30cmの大型のヒトデであり、このような大型種がこれまで日本で見過ごされてきた事実は、海洋生物の多様性理解がいかに不十分であるかを示す好例と言える。


図2:モミジヒトデ科4種
1. ホウエイミヤビモミジヒトデ(生体)、2. モミジヒトデ(標本)、3. ミナミゴカクヒトデ(生体)、4. ダイオウモミジヒトデ(生体)。スケールバーは1 cmを示す。

日本には約250種のヒトデが生息するが、現在でも新種や日本初記録種が続々と発見されている。本研究により、日本産のモミジヒトデ科は6種に更新されたが、今後もさらなる種が発見される可能性がある。モミジヒトデ科が属するモミジガイ目は、砂泥環境に適応した特殊なグループであるが、その適応進化の歴史についてはいまだ不明な点が多い。今後さらに多様性把握が進み、遺伝子情報を取り入れた発展的な研究が行われることで、ヒトデの進化に関する新たな側面が明らかになると考えられる。本研究はそうした研究の基礎を提供することが期待される。

〇関連情報:
新江ノ島水族館ホームページ
ふくしま海洋科学館ホームページ

論文情報
雑誌名
Journal of Natural History論文タイトル
Pseudarchasteridae (Asteroidea: Paxillosida) in Japanese waters, with description of a new species and range extension of three species

著者
Itaru Kobayashi*, Takayuki Sonoyama, Mai Hibino, Mitsuhisa Kawano, Hisanori Kohtsuka*
(*責任著者)

DOI番号
10.1080/00222933.2024.2377336

研究助成

本研究は、公益財団法人水産無脊椎動物研究所の研究助成「KO2023, No. 5」の支援により実施された。また、本研究で使用した標本の一部は、水産庁の「我が国周辺水産資源調査・評価推進委託事業」で得られたものである。

用語解説

注1  桁網調査
網口に金枠をつけた漁具(桁網)を船からワイヤやロープで海底までおろし、海底表面を引きずりながら生物を採集する調査手法。

注2  棘皮動物門
ウミユリ、ヒトデ、クモヒトデ、ウニ、ナマコの5つのグループからなる海産動物の一群。

注3  管足
海水で満たされた半透明なチューブ状の器官。主にヒトデの歩行に関与する。ほとんどの種 では先端が吸盤状だが、モミジガイ目の多くは先端がとがっており、砂泥環境での生活に適した形態だと考えられている。

生物化学工学
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