硫化水素の産生過剰が統合失調症に影響~創薬の新たな切り口として期待~

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2019-10-28 理化学研究所,日本医療研究開発機構,筑波大学,山陽小野田市立山口東京理科大学,福島県立医科大学,東京大学

理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター分子精神遺伝研究チームの井出政行客員研究員(筑波大学医学医療系講師)、大西哲生副チームリーダー、吉川武男チームリーダー、山陽小野田市立山口東京理科大学薬学部の木村英雄教授、福島県立医科大学医学部神経精神医学講座の國井泰人准教授、東京大学大学院医学系研究科の廣川信隆特任教授らの共同研究グループは、脳内の硫化水素の産生過剰が統合失調症[1]の病理に関係していることを発見しました。

本研究成果は、硫化水素というシグナル分子[2]を標的とした、統合失調症に対する新たな創薬の切り口になると期待できます。

今回、共同研究グループは、統合失調症に関係するマウス系統とそうではない系統で、網羅的なプロテオミクス解析[3]を行い、硫化水素産生酵素の一つであるMPSTタンパク質の上昇の関与を見いだしました。また、ヒト由来の試料を用いた解析から、統合失調症での硫化水素の産生過剰を示すデータを得ました。特に、統合失調症患者の死後脳におけるMPSTタンパク質の高発現は、生前の臨床症状の重篤さに関連し、毛髪中のMpst遺伝子の発現量は感度の優れたバイオマーカーになる可能性が示されました。さらに、持続的な硫化水素の産生過剰が生じる原因は脳発達期の炎症・酸化ストレスに対する代償反応の一環である可能性、そのメカニズムとしてエピジェネティック変化[4]が根底にあることを明らかにしました。なお、硫化水素の産生過剰は、エネルギー代謝の減少、スパイン[5]密度の低下などを引き起こし、それらが統合失調症のリスクにつながることも示しました。

本研究は、ヨーロッパ分子生物学機構の科学誌『EMBO Molecular Medicine』のオンライン版(10月28日付け:日本時間10月28日)に掲載されます。


図 統合失調症の発症・経過における硫化水素産生過剰の関与

※共同研究グループ
理化学研究所 脳神経科学研究センター
分子精神遺伝研究チーム
チームリーダー 吉川 武男(よしかわ たけお)
副チームリーダー 大西 哲生(おおにし てつお)
研究員 豊島 学(とよしま まなぶ)
研究員 シャビーシュ・バラン(Shabeesh Balan)
CDP研究員 前川 素子(まえかわ もとこ)
基礎科学特別研究員 島本(光山) 知英(しまもと・みつやま ちえ)
客員研究員 井出 政行(いで まさゆき)
(筑波大学 医学医療系 講師)
客員研究員 豊田 倫子(とよた ともこ)
テクニカルスタッフⅠ 大羽 尚子(おおば ひさこ)
テクニカルスタッフⅡ 渡邉 明子(わたべ あきこ)
テクニカルスタッフⅠ 久野 泰子(ひさの やすこ)
テクニカルスタッフ 野崎 弥生(のざき やよい)
大学院生リサーチ・アソシエイト 原 伯徳(はら とものり)
大学院生リサーチ・アソシエイト 和田 唯奈(わだ ゆいな)
生体物質分析ユニット
専門技術員 岩山 佳美(いわやま よしみ)
精神疾患動態研究チーム
チームリーダー 加藤 忠史(かとう ただふみ)
時空間認知神経生理学研究チーム
チームリーダー 藤澤 茂義(ふじさわ しげよし)
株式会社MCBI
業務執行役員 目野 浩二(めの こうじ)
研究員 石井 俊(いしい たかし)
山陽小野田市立山口東京理科大学 薬学部 薬学科
教授 木村 英雄(きむら ひでお)
准教授 澁谷 典広(しぶや のりひろ)
客員研究員 木村 由佳(きむら ゆか)
熊本大学 医学部 先端生命医療科学部門
教授 岩本 和也(いわもと かずや)
研究員 村田 唯(むらた ゆい)
東京大学 大学院医学系研究科
特任教授 廣川 信隆(ひろかわ のぶたか)
講師 田中 庸介(たなか ようすけ)
特任研究員 森川 桃(もりかわ もも)
千葉大学 社会精神保健教育研究センター 病態解析研究部門
教授 橋本 謙二(はしもと けんじ)
久留米大学 医学部 薬理学講座
教授 西 昭徳(にし あきのり)
慶応大学 医学部 生理学教室
教授 岡野 栄之(おかの ひでゆき)
東京都医学総合研究所
副所長 糸川 昌成(いとかわ まさなり)
福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座
教授 矢部 博興(やべ ひろおき)
准教授 國井 泰人(くにい やすと)
新潟大学 脳研究所 病理学分野
教授 柿田 明美(かきた あきよし)
医療創成大学 薬学部 薬学科
教授 片桐 拓也(かたぎり たくや)
The Florey Institute of Neuroscience and Mental Health(オーストラリア)
教授 ブライアン・ディーン(Brian Dean)
筑波大学 医学医療系
准教授 内田 和彦(うちだ かずひこ)

※研究支援
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム『臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)』の「細胞内代謝・ダイナミクス制御から切り拓く発達障害・統合失調症の病理の解明・新規治療法の開発(代表:吉川武男)」「うつ症状の神経基盤モデルに基づく診断・治療法の開発-皮質・側坐核・中脳系への着目(代表:橋本謙二)」「日本ブレインバンクネットの構築(代表:齋藤祐子)」および日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金新学術領域研究「マルチスケール精神病態の構成的理解(領域代表者:林(高木)朗子)」「コホート・生体試料支援プラットフォーム(領域代表者:今井浩三)」、同基盤研究(A)「統合失調症生起・転帰の縦断的メカニズムの解明(代表:吉川武男)」、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(実施者:内田和彦)による支援を受けて行われました。

背景

統合失調症は、一般人口の約100人に1人の割合で発症する比較的頻度の高い精神疾患です。思春期に好発し、適切な治療や医療を受けないと生涯にわたって生活の質(QOL)が損なわれる可能性が高いという問題があります。

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