リキッドバイオプシーによりHER2遺伝子増幅が認められた固形がんに対するトラスツズマブ デルクステカンの臓器横断的な有効性を確認

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産学連携SCRUM-Japan MONSTARプロジェクトの成果を米国臨床腫瘍学会旗艦誌「Journal of Clinical Oncology」に論文発表

2024-08-06 国立がん研究センター,愛知県がんセンター

発表のポイント

  • 血液中の遊離DNA(cfDNA)を調べる血液検査(リキッドバイオプシー)でHER2遺伝子増幅が認められた固形がんの患者さんに、抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の効果があることが示されました。
  • HER2を標的とする治療は、胃がん・乳がんなど5種類のがんで薬事承認されていますが、本研究では13種類の固形がんに対して効果があることが示されました。
  • 現在、HER2の診断は、がんの組織を使った検査によって実施されていますが、本研究ではリキッドバイオプシーによるcfDNAの解析によってT-DXdが有効となる患者さんを見いだすことができたことから、がんの組織採取が困難な患者さんを含めて、より侵襲度の低い方法で適切な患者さんを診断できる可能性が示されました。
  • 本研究結果は、科学雑誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載されました。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:土井 俊彦、千葉県柏市) 吉野 孝之 副院長、中村 能章 消化管内科医員、愛知県がんセンター(病院長:山本一仁、愛知県名古屋市) 谷口 浩也 薬物療法部医長らの研究グループは、リキッドバイオプシー(注1)による大規模患者スクリーニングによって血液中の遊離DNA(cfDNA)(注2)HER2遺伝子増幅(注3)が認められた固形がん患者さんを対象に、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd:Trastuzumab deruxtecan)の有効性と安全性を探索する臓器横断的(バスケット型)医師主導治験(4)のHERALD試験を実施しました。

その結果、cfDNA解析によりHER2遺伝子増幅が検出された固形がん患者さんにおいて、多くのがん種でT-DXdの有効性が確認されました。

本研究の成果は、科学雑誌「Journal of Clinical Oncology」(米国東部時間2024年8月1日)に掲載されました。

背景

HER2はがん細胞の増殖に関係するタンパク質のひとつであり、その遺伝子の異常は様々ながんで見られます。HER2の異常の頻度が比較的高い胃がん・乳がんでは、HER2を標的とする治療薬が診療で使われており、抗体薬物複合体T-DXdもそのひとつです。しかし、HER2遺伝子増幅のある他の固形がん(食道がん、婦人科がんなど)では、T-DXdの効果が期待されるものの、その患者さんの数が少ないため、企業主導による治療開発は行われていませんでした。

また、従来はがんの組織を検査してHER2の診断を行い、HER2を標的とする治療を行うか判断していましたが、HER2タンパク質の量は同じがん組織の中でもばらつきがあること(空間的不均質)やがんの治療経過の中で変化すること(時間的不均質)から、がんの組織を使ったHER2の検査で適切に診断が行われているのかという点が課題でした。

そこで、HER2のばらつきを克服するため、血液から抽出したcfDNAの解析(リキッドバイオプシー)で、HER2遺伝子増幅が確認されたさまざまな固形がんの患者さんに対して、T-DXdの効果と安全性を調べる臓器横断的(バスケット型)医師主導治験を実施しました。

研究成果

HERALD試験は、SCRUM-Japan GI-SCREENとLC-SCRUM-Japanが行っているGOZILA試験で、血液検査(Guardant360)でHER2遺伝子増幅が見つかったさまざまな固形がんの患者さんに対して、T-DXdの効果と安全性を調べる医師主導治験です(図1)

日本国内の7つの医療機関から計62名・16種類のがん患者さんが参加しました。主要評価項目である奏効割合(注5)は56.5%であり、期待していた効果を上回る結果でした。16種類のがんのうち、13種類 (食道がん、大腸がん、唾液腺がん、子宮体がん、子宮頸がん、胆道がん、卵巣がん、小腸がん、尿路上皮がん、胃がん、悪性黒色腫、パジェット病、前立腺がん)で有意ながんの縮小が認められました(図2)。副次評価項目である(中央判定による)無増悪生存期間の中央値は5.7か月、全生存期間の中央値は14.6か月、奏効期間の中央値7.3か月でした。

頻度の多かった副作用 (カッコ内は発生頻度)は、悪心(58%)、食欲不振(53%)、倦怠感(40%)、貧血(39%)などでした。T-DXdの注意すべき副作用である間質性肺炎は16名(26%)に見られ、そのうち11名が間質性肺炎により治療を中止しましたが、死亡に至る重篤な間質性肺炎はありませんでした。

リキッドバイオプシーによりHER2遺伝子増幅が認められた固形がんに対するトラスツズマブ デルクステカンの臓器横断的な有効性を確認

図1  HERALD試験について

2

図2 がん種別の腫瘍径和の最大変化率

展望

本研究の結果、リキッドバイオプシーで得られたcfDNAを解析することで、HER2遺伝子増幅が認められる固形がんの患者さんに対してT-DXdが効果的であることがわかりました。また、従来はがん組織を使った検査でHER2を診断し、その結果に基づいてHER2を標的とする治療を行っていましたが、患者さんの負担の少ないリキッドバイオプシーでもさまざまな種類のがんでT-DXdの効果が期待できる患者さんを見つけることができる可能性が示されました。

論文情報

雑誌名
Journal of Clinical Oncology

タイトル
Trastuzumab deruxtecan in advanced solid tumors with HER2 amplification identified by plasma cell-free DNA testing: a multicenter, single-arm phase 2 basket trial

著者
Masataka Yagisawa, Hiroya Taniguchi, Taroh Satoh, Shigenori Kadowaki, Yu Sunakawa, Tomohiro Nishina, Yoshito Komatsu, Taito Esaki, Daisuke Sakai, Ayako Doi, Takeshi Kajiwara, Hiromi Ono, Masatoshi Asano, Nami Hirano, Justin Odegaard, Satoshi Fujii, Shogo Nomura, Hideaki Bando, Akihiro Sato, Takayuki Yoshino, Yoshiaki Nakamura

DOI
10.1200/JCO.23.02626

掲載日
2024年8月1日16時(米国東部時間)

URL
https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO.23.02626

研究費

研究費名
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

事業名
臨床研究・治験推進研究事業

課題名
SCRUM-Japan GI-SCREEN 基盤を活用した血液循環腫瘍 DNA ゲノムスクリーニングに基づく HER2 遺伝子異常を有する固形癌に対するDS8201a の医師主導治験

代表者名
谷口 浩也

用語解説

注1 リキッドバイオプシー(Liquid biopsy: 液体生検)
患者さんの血液、尿、涙、唾液、乳汁、脳脊髄液、胸水、腹水など採取可能な体液サンプルを指し、経時的な検査の為に繰り返し採取・測定可能であるため、身体への負担が少ない利点が挙げられます。

注2 血液中の遊離DNA(cfDNA)
細胞が細胞死を起こす際に血中に放出されるDNA断片のことを指し、がん患者さんにおいてはがん細胞が破壊されたり、細胞死を起こした際にがん細胞由来のDNA断片である循環腫瘍DNA(ctDNA)がcfDNAの一部に混在しています。

注3 HER2遺伝子増幅
HER2は細胞の増殖に関わるタンパク質のひとつで、そのタンパク質を作り出す遺伝子を「HER2遺伝子」といいます。HER2遺伝子のコピー数が増えることを「HER2遺伝子増幅」と呼び、HER2遺伝子増幅によりHER2タンパク質が過剰に作られてしまい、がんの増殖に影響することが分かっています。

注4 臓器横断的(バスケット型)医師主導治験
従来、がんに対する薬物の治療開発は臓器別(がん種別)に行われるのが一般的でしたが、発生頻度の少ないがん種においては患者さんを集めることが難しいことから、特に企業主導による治療開発が進めにくいという欠点がありました。一方で、特定の遺伝子異常はがん種を問わず発生することが分かってきており、特定の遺伝子異常を標的とした治療薬を用いてがん種を問わず(臓器横断的に)臨床試験を行うことを「バスケット型(試験)」と呼び、さらに企業ではなく医師が主導して行う臨床試験を「医師主導治験」と呼びます。

注5 奏効割合
ある治療法によってがんが縮小または消滅した患者さんの割合。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
医薬品開発推進部門 医薬品開発推進部 国際研究推進室/トランスレーショナルリサーチ支援室/消化管内科
中村 能章

広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

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運用部 経営戦略課 企画・経営グループ

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