2024-11-13 九州大学
医学研究院
二宮 利治 教授
ポイント
- MRIで見られる大脳白質病変は脳卒中や認知症の発症に関わる重要な所見ですが、アジア人における遺伝的要因は明らかになっていませんでした。
- 大規模認知症コホート研究であるJPSC-AD研究(※1)に参加した約9,500人の脳MRI検査とゲノム情報を用いて、大脳白質病変に関連する遺伝子領域を検討しました。
- 東アジア人で比較的多く見られるGFAP遺伝子の変異が大脳白質病変に関連していることを示し、さらにこれまで報告されていなかった新たな領域を1か所同定しました。
概要
大脳白質病変は脳MRI画像でよく見られる病変で、脳卒中や認知症の発症に関わる重要な所見です。大脳白質病変は高血圧などの生活習慣病があると出現しやすいことが報告されていますが、遺伝的要因も関与することが知られています。これまでの研究で大脳白質病変に影響する遺伝要因が明らかにされてきましたが、アジア人を対象としたものは数百人程度での小規模な解析に限られていました。
九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授、病態機能内科学の古田芳彦助教、眼病態イメージング講座の秋山雅人講師、および弘前大学、岩手医科大学、金沢大学、慶應義塾大学、松江医療センター、愛媛大学、熊本大学、東北大学、理化学研究所生命医科学研究センターらの共同研究グループは、健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:JPSC-AD研究の参加者9,479人の脳MRI検査とゲノムデータを用いてゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study [GWAS(※2)])を行い、大脳白質病変容積に関連する遺伝子座を検索しました。その結果、大脳白質病変容積に関連する遺伝子座として17番染色体のGFAP遺伝子の295番目のアミノ酸を変える変異を同定しました。さらに、英国のUKバイオバンク(※3)研究のGWASデータとの統合解析を実施した結果、20か所の遺伝子座が大脳白質病変容積に関連しており、そのうち6番染色体(SLC2A12遺伝子(※4))に存在する1か所の遺伝子座が新規の遺伝子座であることを明らかにしました。
本研究成果は、2024年11月13日(水)午後7時(日本時間)に国際学術誌npj Genomic Medicineオンライン版に掲載されました。
二宮教授からひとこと
本研究の結果により、東アジアの人によく見られる遺伝子の多型が、大脳白質病変に関係していることが分かりました。本研究の結果は、脳卒中や認知症のリスクの推定に役立つ可能性があります。さらに今後、異なる地域や人種を対象にした国際的な大規模研究を実施することで、大脳白質病変の遺伝的要因の詳細な検討が可能となり、地域や生活環境、文化背景による大脳白質病変の遺伝的影響の違いが明らかになることが期待されます。
用語解説
(※1) 健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究:Japan Prospective Studies Collaboration for Aging and Dementia(JPSC-AD)
我が国の8地域(青森県弘前市、岩手県矢巾町、石川県七尾市中島町、東京都荒川区、島根県海士町、愛媛県伊予市中山町、福岡県久山町、熊本県荒尾市)における地域高齢住民約1万人を対象とした大規模認知症コホート研究である(https://www.eph.med.kyushu-u.ac.jp/jpsc/)。
ベースライン調査は2016年-2018年に実施され、予め8地域で標準化された研究計画に基づいて、詳細な臨床情報(認知機能を含む)、頭部MRI画像データ、遺伝子情報を収集している。さらに、認知症や心血管病の発症や死亡に関する追跡調査を継続している。
(※2) ゲノムワイド関連解析:Genome-Wide Association Study(GWAS)
ヒトゲノムの全域に分布する遺伝的変異と、臨床検査値などの量的な形質や病気との因果関係を網羅的に検討する遺伝統計解析手法。これまでに、数百を超える形質や病気を対象に実施され、数多くの関連遺伝的変異が同定されている。
(※3) UKバイオバンク
英国で行われている世界最大規模のバイオバンクで、約50万人の参加者を対象として、遺伝情報、疾患情報、血液などの多彩な情報・試料を収集している。情報は世界中の研究者に提供され、多数の研究結果が発表されている。
(※4) SLC2A12遺伝子
細胞がブドウ糖などの糖を取り込むのを助けるGLUT12と呼ばれるタンパク質をコードしている遺伝子。GLUT12は脳内のアストロサイトに発現していることが示されている。
論文情報
掲載誌:npj Genomic Medicine
タイトル:Common protein-altering variant in GFAP is associated with white matter lesions in the older Japanese population
著者名:Yoshihiko Furuta*, Masato Akiyama*, Naoki Hirabayashi, Takanori Honda, Mao Shibata, Tomoyuki Ohara, Jun Hata, Chikashi Terao, Yukihide Momozawa, Yasuko Tatewaki, Yasuyuki Taki, Shigeyuki Nakaji, Tetsuya Maeda, Kenjiro Ono, Masaru Mimura, Kenji Nakashima, Jun-ichi Iga, Minoru Takebayashi, Toshiharu Ninomiya, on behalf of the Japan Prospective Studies for Aging and Dementia (JPSC-AD) Study Group
*共同第一著者
DOI:10.1038/s41525-024-00431-x
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お問い合わせ先
医学研究院 二宮 利治 教授
医学研究院 秋山 雅人 講師