2024-12-05 東京大学
ユーフォルビアロイドAは、トウダイグサ科の植物から単離され、抗炎症作用を示す天然物です。本天然物は5/7/6/3員環(ABCD環)が高度に縮環した炭素骨格上に、11個の連続する不斉炭素と7個の酸素官能基が密集した化学構造を有します。さらに、4環性炭素骨格の一方の側に集中した4個のアルコールがアシル基で修飾され、4種のエステルを形成しています。ユーフォルビアロイドAの生物活性の発現に寄与するこれらの化学構造要素の全てが、本天然物の化学構造複雑性と化学合成挑戦性を格段に高めています。これまで、ユーフォルビアロイドAおよびその4環性炭素骨格を共有する類縁天然物の全合成は達成されていませんでした。
今回、東京大学大学院薬学系研究科の田口淳一 大学院生、深谷慎太郎 大学院生、藤野遥 特任助教、井上将行 教授の研究グループは、独自に開発したラジカル反応を含む3個の炭素–炭素結合形成反応を組み合わせた複雑分子骨格構築と、4種のエステルの形成によって、ユーフォルビアロイドAの世界初の全合成を達成しました。
本全合成により、「ユーフォルビアロイドAに固有である、高度に酸素官能基化された4環性炭素骨格の構築」および「密集したアルコールからの位置選択的なエステルの形成」という天然物合成化学における2つの重要課題を解決しました。本新規合成戦略は、ユーフォルビアロイドAおよびその類縁天然物にとどまらず、多様な炭素骨格・エステルを有する他の多くの複雑天然物の全合成へと応用展開可能です。さらには、複雑天然物を基盤とした創薬研究への展開が期待できます。
論文情報
Junichi Taguchi, Shintaro Fukaya, Haruka Fujino, and Masayuki Inoue*, “Total Synthesis of Euphorbialoid A,” Journal of the American Chemical Society: 2024年12月2日, doi:10.1021/jacs.4c14520.
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