2017-12-21 理化学研究所
理化学研究所(理研)生命システム研究センター 一細胞遺伝子発現動態研究ユニットのデイビッド・プリエスト国際特別研究員、谷口雄一ユニットリーダー、集積バイオデバイス研究ユニットの田中信行研究員、田中陽ユニットリーダーの共同研究チーム※は、大腸菌を1個ずつカプセル状やライン状の微細なくぼみに閉じ込めることで、遺伝子発現や細胞分裂速度など個々の大腸菌によって異なる性質を大量かつ高速にハイスループット解析することに成功しました。また、カプセル状、ライン状の微細構造体をそれぞれ「大腸菌カプセルホテル」「ラインホテル」と名付けました。
従来、細胞の性質を解析するには、細胞を集団として取り扱うことが基本でした。近年、細胞を1個ずつ解析することにより、遺伝子発現などの細胞の振る舞いが各細胞で異なり、細胞の個性ともいうべき性質があることが分かってきました。この単一細胞解析には、細胞を1個ずつ分離し解析する技術が不可欠です。これまで、シリコーンゴム製のマイクロ流体デバイスを利用するなどの手法が提案されていました注1)が、デバイス作製に特別な機器や技術が必要でした。
今回、共同研究チームは、シリコーンゴムに代わる素材として、大腸菌培養で一般的に用いられる寒天に着目しました。遺伝子発現の解析では、大腸菌1個の大きさに相当する長さ4×幅0.6×深さ0.5マイクロメートル(μm、1,000分の1mm)のカプセル状のくぼみ「大腸菌カプセルホテル」を、寒天から精製したアガロース[1]の表面1平方ミリメートルあたり65,000個作製し、大腸菌を1個ずつ閉じ込められるようにしました。また、細胞分裂速度の解析では、長さ300×幅0.85×深さ0.5μmのライン状のくぼみ「ラインホテル」を作ることで、分裂した大腸菌がそれらの中で増殖できるようにしました。このような微細な構造体は、それぞれの構造体に対応する鋳型に溶かしたアロガースを流し込むことで容易に作製できるように工夫しました。一度、鋳型を入手すれば、微細加工用の特別な機器や技術がなくても、研究室で微細構造体を何度でも作製することができます。実際に、開発したデバイスを利用して、大腸菌の増殖を1細胞ずつ個別に測定することに成功しました。
本成果を顕微鏡観察技術と組み合わせることで、大腸菌だけでなく、微生物生理学、バイオテクノロジー、多剤耐性菌解析など幅広い分野を対象としたハイスループット解析の実現が期待できます。
本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』(12月21日付け:日本時間12月21日)に掲載されます。
注1)Taniguchi, Y, Choi, P. J., Li, G., Chen, H., Babu, M., et al. “Quantifying E-coli Proteome and Transcriptome with Single-Molecule Sensitivity in Single Cells” Science 329, 533-538 (2010)