2024-12-26 名古屋大学
名古屋大学大学院生命農学研究科の西川俊夫 教授、加藤まりあ 博士後期課程学生、土橋一耀 元博士前期課程学生は、産業技術総合研究所生物プロセス研究部門の蟹江秀星 主任研究員、中部大学応用生物学部の大場裕一 教授との共同研究で、ホタルの生物発光で使われる発光物質ルシフェリンの実用的なワンポット合成に成功しました。
ホタルは、発光物質D-ルシフェリンと酵素ルシフェラーゼとの反応によって発光します。この発光反応はノイズが少なく、高感度で検出できるため、病原菌などの簡便・迅速な検出法や、生命科学研究における遺伝子組換え実験やバイオイメージング注2)で欠かすことのできない技術として広く利用されています。しかしルシフェリンは、現在多段階の環境負荷の高い方法での化学合成によって供給されており非常に高価です。
本研究グループは2016年に、このルシフェリンの生合成の研究過程で、L-システインとベンゾキノンを中性緩衝液中で撹拌するだけで、L-ルシフェリンがごくわずかに生成する非酵素的反応を発見・報告しました。その収率は約0.3%と低く、実用的ではありませんでしたが、今回、この反応機構の詳細な解析からヒントを得て、D-ルシフェリンの実用的なワンポット合成法の開発に初めて成功しました。この合成法は、総収率46%で高純度のD-ルシフェリンを得られます。原料はすべて市販されている安価なもので、反応は全てが常温、常圧という温和な条件で進行します。ワンポットプロセスのため、後処理や精製によって生じる廃棄物が非常に少なく、グリーンプロセスであるという大きな特徴があります。そのため、今後、商業ベースの生産だけでなく、合成化学者でなくても気軽に使える合成法として、広く使われることが期待されます。
本研究成果は、2024年12月25日19時(日本時間)付英国ネイチャーパブリッシンググループ『Scientific Reports』オンライン版に掲載されます。
【ポイント】
・ホタルの発光物質ルシフェリンの簡便で実用的な合成法を初めて開発。
・ワンポット(one-pot)合成注1)により廃棄物の排出が非常に少なく環境にやさしい。
・ホタルとほとんど同じ原料を使い、反応は常温常圧で進行する安全性も高い合成法。
・この合成法によりルシフェリンの合成コストが削減されるため、ホタル発光系を使った
分析法のより広範な利用が期待される。
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【用語説明】
注1)ワンポット(one-pot)合成:
単一の反応容器内で複数の変換を連続的に進行させる合成法。後処理・精製が一回で済むため廃棄物を削減でき、コストや環境負荷の低減が期待される。
注2)バイオイメージング:
細胞や生体分子などの生体内の位置、動きを可視化すること。その可視化手法として、蛍光プローブや生物発光のシステムが利用されている。
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:A practical, biomimetic, one-pot synthesis of firefly luciferin
著者:M. Kato(名古屋大学), K. Tsuchihashi(名古屋大学), S. Kanie(産業技術総合研究所), Y. Oba(中部大学), T. Nishikawa(名古屋大学)
DOI:10.1038/s41598-024-82996-2
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-82996-2
【研究代表者】
大学院生命農学研究科 西川 俊夫 教授