世界初、単一細胞での遺伝子発現制御解析に成功~幹細胞、がんの成立機序解明に期待~

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2018-12-11 九州大学,東京工業大学,東京大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 細胞染色を基盤とした遺伝子発現制御情報(エピゲノム情報)解析技術を開発した。
  • 単一細胞でのエピゲノム情報取得を可能にした。
  • 開発した方法は、発生・分化・幹細胞の研究やがん研究・老化研究・再生医療への応用が広く期待される。

九州大学 生体防御医学研究所(大川 恭行 教授、原田 哲仁 助教、前原 一満 助教ら)、東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター(木村 宏 教授、半田 哲也 特任助教ら)、東京大学 定量生命科学研究所(胡桃坂 仁志 教授、有村 泰宏 特任助教(当時)、白髭 克彦 教授)の研究グループは、極めて少数の細胞を用いてエピゲノム情報注1)を取得できる「クロマチン挿入標識(Chromatin Integration Labeling:ChIL)」法を開発しました。本手法は、細胞を破壊することなしに、任意の転写因子やヒストン修飾注2)などが存在する領域の塩基配列を増幅することができるため、高感度での解析ができます。そのため、遺伝子の発現を制御する転写因子の結合位置やヒストン修飾を単一の細胞で測定することが世界で初めて可能になりました。

人体に存在する細胞は全て同一の遺伝情報を持ちますが、異なる組織を構成する細胞はそれぞれ特定の遺伝子を選択的に発現することで固有の性質を持つようになります。近年の技術革新により、単一の細胞での遺伝子発現(個々の遺伝子のRNAの存在量)を解析することが可能になっています。しかしながら、遺伝子の発現制御のメカニズムを理解するために不可欠なエピゲノム解析は、従来の手法では少なくとも数千個の細胞を必要としたため、幹細胞注3)など生体内にわずかしか存在しない細胞への適用は極めて困難でした。本研究により開発された手法は、胚発生や細胞分化の制御機構など生命現象を制御する分子機構の解明に極めて有用であるとともに、がん研究・再生医療などへの応用が広く期待されます。

本研究成果は、2018年12月10日(月)午後4時(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Cell Biology」で公開される予定です。

本研究の成果は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)研究領域「統合1細胞解析のための革新的技術基盤(研究総括:菅野 純夫 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 非常勤講師)」における研究課題「細胞ポテンシャル測定システムの開発(研究代表者:大川 恭行)」、文部科学省 科学研究費 新学術領域研究「クロマチン潜在能(領域代表者:木村 宏)」、日本学術振興会 科学研究費、九州大学 生体防御医学研究所共同利用・共同研究などの支援により得られたものです。

本技術は、私たちエピゲノム研究者として最も必要としている技術でもありました。アイデアの完成は早かったのですが、結局実用的な技術になるまで5年以上の歳月を経ることになりました。ぜひ、この技術を世界中で活用してもらって、これまで困難であった幹細胞による再生医療の実現、がんなどの機序解明や生命科学の大きな飛躍の一助になって欲しいです。

世界初、単一細胞での遺伝子発現制御解析に成功~幹細胞、がんの成立機序解明に期待~

図 クロマチン挿入標識技術

ゲノムDNA上の転写因子やヒストン修飾を、抗体を基に作製したプローブで標識することで可視化し(右図)、標識周辺のDNA配列を増幅させた後に大規模塩基配列決定することで、位置情報を獲得する技術です。

注1)エピゲノム情報
後天的なゲノム制御情報。DNAの塩基配列に加えて、DNAそのものやDNAに強く結合するヒストンの修飾などにより、遺伝子の発現が制御される。
注2)ヒストン修飾
DNAに強く結合するヒストンタンパク質の翻訳後修飾。メチル化やアセチル化など多様な修飾により遺伝子発現の抑制や活性化などが制御される。
注3)幹細胞
組織や器官を構成する分化した細胞の元となる細胞。多能性を持つ胚性幹細胞やiPS細胞などがよく知られているが、特定の細胞にのみ分化するような成体幹細胞も存在する。これらの幹細胞は存在量が少なく、その解析が難しい。

タイトル:“A chromatin integration labeling method enables epigenomic profiling with lower input”

著者名:+Harada A,+Maehara K,+Handa T, Arimura Y, Nogami J, Hayashi-Takanaka Y, Shirahige K, Kurumizaka H, *Kimura H, *Ohkawa Y(+共筆頭著者、*共責任著者)

DOI:10.1038/s41556-018-0248-3

大川 恭行(オオカワ ヤスユキ)
九州大学 生体防御医学研究所 附属トランスオミクス医学研究センター 教授

木村 宏(キムラ ヒロシ)
東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 教授

川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

九州大学 広報室

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

東京大学 定量生命科学研究所 総務チーム

科学技術振興機構 広報課

細胞遺伝子工学
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