次世代ゲノム解読が解明したオス誕生の極小の性染色体領域”アダム”の小さな設計図 “OSU”の発見

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2018/12/19 東京大学

東京大学大学院理学系研究科の野崎久義准教授らの研究グループは、性進化のモデル生物群「緑藻ボルボックス系列」の次世代シーケンスを用いた全ゲノム解読を実施し、メスとオスが誕生した直前と直後に相当する生物の性染色体領域の全貌を明らかにしました。その結果、最初のオスは極小の性染色体領域 “OSU”をもっていたことが示唆されました。

聖書によれば最初のオスとして「アダム」、最初のメス「イブ」が創られたようですが、生物学ではどのようにして最初のメスとオスが誕生したかは謎に包まれていました。メスとオスは「同型配偶」という両性の配偶子が未分化な祖先生物から進化したと考えられています。この進化の原因は両性で遺伝子組成の異なる「性染色体領域」がメス・オスらしさをもたらす遺伝子群を獲得して拡大することと予想されていました。しかし、どのような遺伝子の獲得であったかはこれまで不明でした。

今回、東京大学と国立遺伝学研究所等の研究グループは性進化のモデル生物群「緑藻ボルボックス系列」の次世代シーケンスを用いた全ゲノム解読を実施し、メスとオスが誕生した直前と直後に相当する生物である同型配偶のヤマギシエラ(Yamagishiella)と異型配偶のユードリナ(Eudorina)の性染色体領域の全貌を明らかにしました。その結果、両生物は短い単純な性染色体領域をもつことが明らかとなりました。特にユードリナのオスの性染色体領域は7千塩基配列と非常に小さくオス特異的遺伝子としては“OTOKOGI”だけをもっていました。したがって、メス・オスの進化の最初では本領域は拡大しない、特に最初のオスは極小の性染色体領域 “OSU”のようなものをもっていたことが示唆されました。小さい性染色体領域である”OSU” がもつ性特異的遺伝子 ”OTOKOGI” の機能の進化がオスを生み出す重要な原因であったことが示唆され、今後本遺伝子の機能と下流遺伝子群の比較研究が期待されます。

メス・オス出現進化を橋渡しする緑藻ボルボックス系列の図メス・オス出現進化を橋渡しする緑藻ボルボックス系列の「ヤマギシエラ」と「ユードリナ」
「ヤマギシエラ」と「ユードリナ」の今回解明した性染色体領域(MT)。メス・オスを獲得した直後の生物に相当するユードリナのオスの極小性染色体領域 “OSU”はわずか約7千塩基対(7 kbp)の長さしかなく、1個のオス特異的遺伝子 “OTOKOGI” が位置する。著者ら原図。
© 2018 野崎・豊岡

「最新の塩基配列決定法である次世代シーケンスと共同研究者の技術力・努力が1992年以来の謎を解いてくれました」と野崎准教授は話します。「私は1992年に緑藻ボルボックス系列で最も進化段階の高いメス・オスの未分化な同型配偶の有性生殖をする新属ヤマギシエラ(Yamagishiella)を形態的データだけで記載しました。当時はDNAデータなんてものは分類進化の研究では到底使用できないと思っていました。ところが、今世紀になるとDNAデータでヤマギシエラの系統的位置が明らかになり、同じような栄養群体を持ちますがメス・オスの配偶子を作るユードリナ(Eudorina)とヤマギシエラがメス・オスの進化を探る進化生物学上の鍵生物であることが明白となりました。今回の研究はこれを全ゲノム情報から解析するというものであり、最初のオスに相当するユードリナのオスの極小の性染色体領域 “OSU” の発見となりました」。

論文情報

Takashi Hamaji, Hiroko Kawai-Toyooka, Haruka Uchimura, Masahiro Suzuki, Hideki Noguchi, Yohei Minakuchi, Atsushi Toyoda, Asao Fujiyama, Shin-ya Miyagishima, James G. Umen & Hisayoshi Nozaki, “Anisogamy evolved with a reduced sex-determining region in volvocine green algae,” Communications Biology: 2018年3月8日, doi:10.1038/s42003-018-0019-5.
論文へのリンク (掲載誌)

細胞遺伝子工学
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