画像認識で熟練者と初心者の違いを見つける
2019-07-11 京都大学
中澤篤志 情報学研究科准教授、吉川左紀子 こころの未来研究センター特定教授、倉爪亮 九州大学教授、本田美和子 東京医療センター医師らの研究グループは、優しさを伝える介護技術として知られている「ユマニチュード」の技術をAIで評価する手法を開発しました。
認知症の人が増えるにつれ、その介護問題、特に人材の不足や介護者の疲弊が社会問題となっています。これに対し本研究グループは、認知症の介護者および被介護者の負担感を減らす優しい介護技術「ユマニチュード」を介護の初学者や家族介護者が確実に学べる方法の開発に取り組んできました。
本研究では、介護者の被介護者に対する「見る」技術、具体的には目線の使い方などのコミュニケーション技術の違いを、ユマニチュードの熟練介護者と初学者の間で明らかにしました。この方法を用いることで、「優しい介護技術」を学ぼうとする人が自分の介護技術を客観的に見ることができます。
今後は、本研究成果に基づいて、よりよい介護技術を学習できるシステムの開発が期待されます。
本研究成果は、2019年7月4日に、国際学術誌「Journal of Intelligent Robotics Systems」のオンライン版に掲載されました。
図:本研究の概要図
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1007/s10846-019-01052-8
【KURENAIアクセスURL】http://hdl.handle.net/2433/242958
Atsushi Nakazawa, Yu Mitsuzumi, Yuki Watanabe, Ryo Kurazume, Sakiko Yoshikawa, Miwako Honda (2019). First-person Video Analysis for Evaluating Skill Level in the Humanitude Tender-Care Technique. Journal of Intelligent & Robotic Systems.
詳しい研究内容について
優しさを伝える介護技術の習熟度を AI で評価する手法を開発
―画像認識で熟練者と初心者の違いを見つける―
概要
京都大学大学院情報学研究科 中澤篤志 准教授、九州大学大学院システム情報科学研究院 倉爪亮 教授、京都大学こころの未来研究センター 吉川左紀子 特定教授、東京医療センター 本田美和子 医師らは、JST 戦略 的創造研究推進事業において、優しさを伝える介護技術として知られている「 ユマニチュード」の技術を AI で 評価する手法を開発しました。
認知症の人が増えるにつれ、その介護問題、特に人材の不足や介護者の疲弊が社会問題となっています。こ れに対し本研究グループは、認知症の介護者/被介護者の負担感を減らす優しい介護技術 「ユマニチュード」 を介護の初学者や家族介護者が確実に学べる方法の開発に取り組んできました。
今回の研究成果では、介護者の被介護者に対する 「見る」技術、具体的には目線の使い方などのコミュニケ ーション技術の違いを、ユマニチュードの熟練介護者/初学者の間で明らかにしました。この方法を用いるこ とで、 「優しい介護技術」を学ぼうとする人が自分の介護技術を客観的に見ることができます。今後は、本成 果に基づいて、よりよい介護技術を学習できるシステムの開発を目指しています。
本研究成果は、2019 年 7 月 4 日に国際学術誌 Journal of Intelligent Robotics Systems」誌のオンライン 版に掲載されました。
1. 背景
高齢者人口の増加に伴い、認知症の人々の数が増大しています。日本では、2025 年に認知症の人々の人口 は 700 万人を超えると予測されており、認知症のケアが同時に社会的に問題となってきています。例えば、 2025 年に必要となる介護者の数は 253 万人と推定されているにもかかわらず、実際の介護者数は 215 万人と 推定されており、大幅な不足が予想されています。認知症は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症などの 疾患によって脳細胞の変性がおこり、記憶や判断、認識力が低下し、日常生活に支障をきたすようになります。 また、認知症行動心理症状(BPSD)と呼ばれる暴力的な言動を伴うことがあり、これが介護者の精神的・身体 的負担を増大させ、介護者の疲弊や介護専門職の離職を招いています。
この問題に対し、研究グループ中の東京医療センターの本田美和子医師を中心に、フランス発祥の優しさを 伝える介護技術である 「ユマニチュード」が日本に導入され、病院や介護現場を中心に広まりを見せています。 一方で、この技術の習得は人対人による訓練によってのみ行われるため、多くの人に確実に伝えることは困難 でした。
これに対し本研究グループは、画像認識やセンシングといった技術を使い、AI を用いて解析することで、優 しい介護技術の「技術のコツ」を見出し、自己学習システムなどを通して、技術レベルを自動的に評価 ・自己 学習できるようにする手法の開発を目指してきました。
2. 研究手法・成果
ユマニチュードの初心者/中級者/熟練者 (インストラクター)の介護動作中の目線や頭部の動きを、頭部 装着カメラ( ウェアラブルカメラ)で撮影します。ここから、顔検出技術、アイコンタクト検出技術などを使 って、介護者と被介護者の間のアイコンタクト成立頻度や頭部の姿勢/距離などを検出します。その結果、初 心者/中級者/熟練者の間で、アイコンタクトの成立頻度や顔間距離、顔正対方向の角度において大きな差が あることを見出しました。 (図 1)
14名のユマニチュード初学者 ・中級者 ・熟練者から得られたデータを統計的データ分析処理 主成分分析) すると、初心者と中級者、熟練者の間に明確な境界を見出すことが出来ました (図 2)。これは、介護者の動作 スキルの評価が AI によって行える可能性を示しています。
3. 波及効果、今後の予定
本研究グループで取り組んでいる画像認識による顔検出やアイコンタクト検出技術を組み合わせることで、 介護の基本であるコミュニケーションの要素 見ること」を定量化することに成功しました。この処理はサー バー上で自動的に処理されるため、人の主観による評価が入ることがなく、また大量のデータを処理すること ができるため、学習者はいつでも/どこでも自分の介護スキルの振り返りを行うことができ、介護技術を向上 させることができます。本システムを国内の大学に展開し、医療/看護系学生のセルフトレーニングに活用す る実証実験を計画しています。これにより、本システムの教育効果や使用者によるシステム評価を行います。 本システムにより、認知症看護における 「優しい介護」コミュニケーションスキルの一部を、多くの人に学ん でいただくことが可能になると考えています。
4. 研究プロジェクトについて
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
● 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究( CREST)
●研究領域: 「人間と情報環境の共生インタラクション基盤技術の創出と展開」
(研究総括:間瀬 健二 (名古屋大学 大学院情報学研究科 教授))
● 研究課題名: 「優しい介護」インタラクションの計算的・脳科学的解明
研究代表者: 京都大学情報学研究科 准教授 中澤篤志)
研究期間:平成 29 年 10 月~令和5年 3 月
<研究者のコメント>
認知症の方の介護は社会的に大きな問題であるとともに、家族など身近な人にも起こりうる個人的にも重要 なテーマです。我々の研究グループでは、「 優しい介護」技術を学ぶことで、その負担感を少しでも減らせる ことを目指して研究を行っています。この技術が、看護/介護職の方とともに、家族介護をされている方にも 使っていただけるように努力を続けています。
<論文タイトルと著者>
タイトル:“First-person video analysis for evaluating skill level in the Humanitude tender-care technique” (日本語訳:一人称ビデオ解析による優しいケア ユマニチュード」のスキル評価)
著 者:Atsushi Nakazawa, Yu Mitsuzumi, Yuki Watanabe, Ryo Kurazume, Sakiko Yoshikawa, Miwako Honda
掲 載 誌:Journal of Intelligent & Robotic Systems
DOI:10.1007/s10846-019-01052-8
<参考図表>
図1 (a)データ計測の様子、(b)頭部装着カメラと映像録画、(c) 頭部装着カメラによる映像 一人称視点映像)と顔検 出結果
図2 (左)データ解析の結果。赤丸が初学者、青/紫が中級者、緑が熟練者を表す。 (右)左図から得られたデータ 領域。ここから、学習者のスキルレベルが推定できる。