ハトとヒトで視覚運動処理が異なることを発見 ~種により運動刺激の見える方向が異なる~

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2019-10-01 京都大学

幡地祐哉 文学研究科教務補佐員、黒島妃香 同准教授、藤田和生 同教授の研究グループは、ハトがヒトと異なる方法で外界の視覚的な動きを処理することを発見しました。
鳥類はヒトやその他の霊長類と同様に発達した視覚能力を持ちますが、その情報を処理する脳構造は大きく異なることが知られています。本研究ではハトが外界の動きをどのように検出するか調べるために、2種類の人工的な運動刺激を用い、ハトに対してコンピュータの画面に映る刺激がどの方向に動いているか答える課題を行いました。その結果、ハトはこれらの刺激に対し、ヒトが見える方向とは異なる方向に見えるかのような反応を示しました。
本研究成果は、鳥類の視覚処理の特性を示すだけではなく、私たちヒトの視覚処理系が、他の脊椎動物と比較してどのような特性を持つのかを知る上でも重要な知見を与えるものです。
本研究成果は、2019年9月16日に、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究に用いた運動刺激とヒト(青)とハト(赤)がそれぞれ運動を知覚する方向

詳しい研究内容について

ハトとヒトで視覚運動処理が異なることを発見 -種により運動刺激の見える方向が異なる-

ハトとヒトで視覚運動処理が異なることを発見
―種により運動刺激の見える方向が異なる―

概要
京都大学大学院文学研究科 幡地祐哉 教務補佐員、黒島妃香 同准教授、藤田和生 同教授の研究グループは、ハトがヒトと異なる方法で外界の視覚的な動きを処理することを発見しました。
鳥類はヒトやその他の霊長類と同様に発達した視覚能力を持ちますが、その情報を処理する脳構造は大きく異なることが知られています。本研究ではハトが外界の動きをどのように検出するか調べるために、2種類の人工的な運動刺激を用いました。ハトはコンピュータの画面に映る刺激がどの方向に動いているか答える課題を行いました。その結果、ハトはこれらの刺激に対し、ヒトが見える方向とは異なる方向に見えるかのような反応を示しました。
本研究成果は、鳥類の視覚処理の特性を示すだけではなく、私たちヒトの視覚処理系が、他の脊椎動物と比較してどのような特性を持つのかを知る上でも重要な知見を与えます。本研究成果は、2019 年 9 月 16 日に国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。

図:本研究に用いた運動刺激とヒト(青)とハト(赤)がそれぞれ運動を知覚する方向

1.背景
生物にとって外界の動きを検出することは重要です。それは天敵や獲物の存在など、自らの生死に直結する情報を与えるからです。これまで様々な動物種を対象に、外界の動きに対する反応や弁別能力が調べられてきました。霊長類と同様に発達した視覚系を持つ鳥類では、単純な直線運動だけではなく複雑な3次元的運動なども弁別できることが示されてきました。
一方で、そうした弁別の根底にある運動情報の処理過程については鳥類種においてほとんど検討されていませんでした。視覚情報は、網膜上の無数の視細胞が局所的な明るさを受容する形で一旦分解され、脳内で全体的な特徴を再構成していくという流れを持ちます。運動情報もまた、局所的な明るさの変化から全体的な物体運動を再構成しています。
ヒトの運動処理の特性は、主に人工的な運動刺激を用いて検討されてきました。異なる視野位置の運動情報や、異なる方向の運動情報をどのように統合するか調べる刺激として、Barber pole 刺激や plaid 刺激が用いられてきました。Baber pole 刺激は床屋の回転錯視とも呼ばれ、楕円の窓の中を斜めの縞刺激が動くとき、縞がその垂直方向にまっすぐ動くのではなく、楕円の長軸方向に斜め方向に動いて見えるものです。plaid 刺激は異なる方向の縞を重ねたもので、それぞれの運動ベクトルの終点を通る垂線の交点方向(intersection of constraints, IOC)に運動が知覚されることが知られています。
本研究の目的は、上記の2種類の刺激を用いて、鳥類の視覚運動の弁別能力の背景にある処理過程がヒトと共通しているか明らかにすることでした。コンピュータ画面に映る刺激の運動方向を答えるようハトに訓練し、 Barber pole 刺激と plaid 刺激に対してヒトが知覚する方向と同じ方向に反応するか調べました。

2.研究手法・成果
5個体のハト(Columba livia)に対し、タッチパネルに映る運動刺激の方向を答える課題を訓練しました。訓練段階では同じ方向に動く無数のドットを画面中央に映し、その周囲を囲むように反応キーを円状に配置しました。ハトはドットの進行方向上にある反応キーをつつくことにより報酬のエサを獲得しました。ハトがドットに対して正しい方向に反応するのを確認した後、画面に Barber pole 刺激、もしくは plaid 刺激を移し、ハトがどの方向のキーに反応するか分析しました。分析の結果、ハトは両刺激に対し、ヒトの知覚方向とは異なる方向に反応することがわかりました。Barber pole 刺激に対し、楕円の長軸方向ではなく、縞の垂直方向に反応しました。plaid 刺激に対しては IOC ではなく2つの縞の平均方向に反応しました。

3.波及効果、今後の予定
本実験の結果は、同一の運動刺激を見た場合でもハトとヒトでは違う方向に見えることがわかりました。これは、脳内で視覚的な動きを処理する方法が両種で異なるためだと考えられます。他の鳥類や哺乳類で同様の実験を行うことで、どのような進化的系統に位置し、どのような環境に暮らす種が、ヒト型あるいはハト型の見え方をするのか明らかにしたいと思います。

4.研究プロジェクトについて
この研究は以下の資金助成を受けて行われました。
・文部科学省科学研究費補助金 特別研究員奨励費(15J02739, 代表:幡地祐哉) 
・文部科学省科学研究費補助金 基盤研究 S(16H06301, 代表:藤田和生) 
・文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)
(16H01505, 代表:藤田和生)

<研究者のコメント>
動物の視覚というと、色の見え方が種によって違うことは有名ですが、今回の実験では動きの見えかたが種によって違うことを示しています。動物の視覚を研究することは、ヒトの視覚が動物界の中でどのような特徴を持つか明らかにすることにつながりますし、野生動物との間に生じている問題(バードストライクなど)を解決する上で実用的なヒントを与えてくれると考えています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:
Pigeons integrate visual motion signals differently than humans
(ハトはヒトとは異なる方法で視覚運動信号を統合する)
著 者:
Yuya Hataji, Hika Kuroshima and Kazuo Fujita
掲 載 誌:
Scientific Reports DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-019-49839-x

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生物工学一般生物環境工学
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