血液1滴からその場で41種類のアレルギー検査ができるシステムの開発

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2019-10-23 理化学研究所

理化学研究所(理研)は、マイクロアレイ技術[1]を用いて作成したタンパクチップ[2]を活用し、日本ケミファ株式会社(日本ケミファ)とアレルギースクリーニング診断薬の共同研究を行ってまいりました。そして2019年10月8日、日本ケミファが体外診断用医薬品「ドロップスクリーン 特異的IgE抗体[3]測定キット ST-1」の製造販売の認証を取得しました。

これは、医療現場ですぐにアレルギー検査できる装置として、理研創発物性科学研究センター創発生体工学材料研究チームの伊藤嘉浩チームリーダー(開拓研究本部伊藤ナノ医工学研究室主任研究員)が研究開発してきたマイクロアレイによる検査システムを実用化したもので、41種類のアレルゲンを固定化して、アレルゲンごとの特異的IgE抗体を医療現場でそのまま検出できます。

関連リリース

日本ケミファ株式会社 2019年10月23日ニュースリリース(外部サイト)

背景

最近のバイオテクノロジーやその周辺技術の進展により、分析装置・機器もナノテクノロジーや微細加工技術を駆使した、より高度で使いやすいものになってきています。とりわけ、マイクロアレイ技術は、DNAチップなどにも応用され、遺伝子解析などの分野にも急速に普及しています。しかし、DNAより複雑な構造をしているタンパク質やその誘導体を基板に固定化することは技術的にも難しく、実用化には課題が多くありました。

伊藤嘉浩チームリーダーは2003年、生体由来の物質など有機化合物であれば何でも基板に固定化できる「何でも固定化法」注1)を開発し、その後、改良を進めてきました。これは、光に反応する物質(ポリマー)を作製し有機化合物と混ぜ、それを基板に載せて光を当てると、ラジカル架橋反応という反応を起こし、有機化合物が基板に固定されるという方法です。

今回、この技法を用いて様々なアレルゲンをタンパクチップとして基板に固定化し、かつそれらに対するIgE結合量を自動的に測定できるシステムの研究開発を進めてきました。

注1)2013年12月19日プレスリリース「免疫履歴がその場で分かるマイクロアレイ診断システムを開発

研究手法と成果

マイクロアレイ技術では、生体高分子を共有結合で基板に固定化できることが望まれます。DNAは4種類の化学的に似通った塩基の組み合わせからできているため、DNAチップが早くから実現されました。しかし、タンパク質は種々の官能基をもつアミノ酸から構成され、またその立体的な構造も様々であるため、同一の方法で1枚の基板の上に固定化するのは困難でした。そこで伊藤嘉浩チームリーダーは、光固定化を用いた「何でも固定化法」を導入しました。

この光固定化ではラジカル反応を使うため、官能基の種類を問わず、共有結合で生体分子を固定化できます。さらに、生体分子が固定化されていない基板領域では、検体物質が結合しない(非特異的な相互作用がない)ような高分子を固定化に使えるようにしました。これによりシグナル/ノイズ比が高い信号が得られるようになりました。この手法によりタンパクチップを作成(図1)し、指先から採血した血液をそのまま用いてタンパクチップで測定します(図2)。

タンパクチップの作成法の図
図1 タンパクチップの作成法プラスチック基板上に、新たに開発した光反応性かつ水溶性の高分子を被覆し、さらにその上に様々なアレルゲンを微小領域にスポットする。乾燥後、光照射をすることにより共有結合で固定化。

タンパクチップを用いた指先からの血液(全血)を使ったIgE抗体測定原理の図
図2 タンパクチップを用いた指先からの血液(全血)を使ったIgE抗体測定原理タンパクチップ上に、採取した血液をそのまま滴下し、血液内のIgE抗体を特定のアレルゲンに吸着させる。洗浄後、この吸着IgE抗体を酵素標識した抗IgE抗体で検出する。どのアレルゲンにIgE抗体が結合したかを測定し、その測定画像から抗体量を定量可能。これら一連の操作は、全自動で行う。

今後の期待

これまでに伊藤嘉浩チームリーダーは「何でも固定化法」を用いて、アレルゲン以外にも、自己免疫疾患関連分子、感染症ウイルスを基板に固定したチップで検査システムの研究開発を進めてきました。このたび医療現場で、POCT[4]としてのアレルゲン多項目診断が実現したことで、今後も他の診断領域で、より効率的な検査が行えるようになると期待できます。

補足説明

1.マイクロアレイ技術
微細加工技術の一つで、極少量の水溶液を基板上の一定場所にスポット固定化する技術。スポットのために、スタンプ法、ピン法、ジェットスタンプ法、マイクロインジェクション法などさまざまな方法が開発されている。

2.タンパクチップ
多種類のタンパク質を微小領域に整列固定化した小型の基材(チップ)。

3.IgE抗体
免疫の中で大きな役割を担っている抗体は、物質としては免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)と呼ばれ、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類がある。IgEは最も量が少なく、アレルギーを起こす。

4.POCT
小型分析機や迅速診断キットを用いて医療現場で行う即時検査で、病院の検査室や外部の分析センター以外の場所で行なわれるすべての臨床検査を含む。POCTは、Point Of Care Testingの略。

発表者

理化学研究所
創発物性科学研究センター 創発生体工学材料研究チーム
チームリーダー 伊藤 嘉浩(いとう よしひろ)
(開拓研究本部 伊藤ナノ医工学研究室 主任研究員)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

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